第六十六話 美少女後輩の質問
次の日の放課後。
借りていた本を読み終えたため、図書室に寄っていた。
「すみません。これ返却します」
「……かっ……かしこまりまひた!」
図書委員の女の子は緊張して噛んでしまったが、返却した本をきちんと受け取って返却登録をしてくれた。
俺が一年の時から図書委員をしている人なのだが、人と話すときに極度の緊張する人のようだ。
俺以外の奴が本を返す時にも同じような反応をしていた。
もう慣れたので、あまりに気にしないようにしている。
「……とっ、登録完了でしゅ!」
「ありがとうございました」
俺はいつものようにお礼をいって、そのまま図書室を出た。
「あっ、天ヶ瀬先輩!」
俺が玄関に向かって歩いていると、速水に声を掛けられた。
速水はこれから帰るようで、鞄を持っていた。
「何か用か?」
「いえ、特に用はなかったんですけど、見かけたんで挨拶はしとこうかなと思って」
「そうか」
俺がそのまま帰ろうと歩き始めると、速水は俺の横を並んで歩く。
速水の様子を横目で確認すると、その様子は何か迷っているような表情だった。
「やっぱり何か用があるんじゃないのか?」
「あはは……やっぱりバレちゃいますか?」
「横でそんな悩んでる顔をしてたら、誰だってわかるだろ」
「えっ! 私、顔に出ちゃってました?」
「ああ。ほんの少しだけな」
速水は自分が悩んでいることを隠していたつもりだったようだ。
正直少し悩んだ後、速水に声をかけて来た理由を聞いた。
「……声をかけてきたってことは、何か聞きたいことがあるんだろ?」
「うーん……まぁはい」
速水は少し言いずらそうにしながら聞いてきた。
「一馬先輩についてなんですけど………最近仲の良い女の子とかできましたか?」
速水にそう聞かれて、教室にいる時の片桐の様子を思い返す。
カースト上位だから、色んな女子とは話してるが……最近になって特に仲が良い女子って言ってもなぁ……。
しばらく思い返すが、そんな奴に心当たりはなかった。
「そういった奴は、お前以外いないと思うぞ? いつも通りに誰とでも社交的に仲良くしているだけで、特に特定の女と仲良くしているところを教室で見たことないな」
「そうですか……」
「何かあったのか?」
「いえ、大した話じゃないんですけど、なんか最近一馬先輩の態度が少しよそよそしく感じて……」
教室では特に変わった様子は見られないため、俺は不思議になった。
片桐の中で何か心境が変化するようなことがあったのだろうか……。
俺も少し考えていると、速水が話しかけてきた。
「あっ、そんなに気にしないでください。今度のデートの誘いも乗ってくれたんで、もしかしたら私の気のせいなのかもしれないですんで」
そう言った速水は、もう切り替えた様子で、いつもの調子に戻っていた。
そんな速水の様子を見て、俺もこれ以上気にしないことにした。
「そうか、わかった」
「ですです。それじゃ私は先に行きますんで、これで」
「おう」
速水はそう言うと、早々と帰っていく。
俺は速水を見送りながら、いつもの歩幅で家に帰った。
家に帰ると、なんとなく放課後に速水と話したことが気になって、最近の片桐の様子を思い出していた。
その時ふと、一緒に飯を食べた時のことを思い出す。
そういえばあいつ、自分の気持ちに整理がつき始めているとか言ってたな……もしかしたら速水ではなく、和奏のことが本当に好きだと気付いたのかもしれない。
そんな考えが過ぎるが、一瞬で考え直した。
でも、それならプレゼントなんかしないと思うんだが……。
そんな思考が頭の中をぐるぐると回ったが、結局片桐本人に聞かないと答えなんかわからない。
そのため俺は考えるのをやめて、気分転換に夕飯の準備に取り掛かることにした。
冷蔵庫を開けると、そこには食材がほとんどなかった。
さすがに食材がなければ夕飯も作れないので、食材を買いに近くのスーパーに向かった。
とりあえず簡単に作れそうなもので、腹が満たせそうなものを考えながら食材を見ていく。
すると、丁度イカが安くなっており、何となくイカを使った料理を食べたくなった。
携帯でイカの料理を調べると、パエリアのレシピが出てきたので少し見る。
どうやらそんなに難しいものではなさそうなので、今日はパエリアを作ることにした。
携帯でレシピ見ながら必要な食材をカゴの中に入れて、レジで会計を済ませる。
会計を済ませると、レジの店員さんが何かの券を渡してきた。
「どうぞ。こちら千円以上お買い上げいただいた方にお渡ししている福引券です」
「あっ、はい」
俺は福引券を二枚もらうと、福引券に書かれている会場に向かう。
特別賞が二泊三日の温泉旅行券で、一等大型テレビ、二等がクリーナー、三等はすでになくなっていた。
幸い並んでいる人はいなかったので、すぐにくじを回すことができた。
結果は二玉とも白玉で、景品のポケットティッシュをもらった。
あの中なら、二等のクリーナー欲しかったが、まぁそう上手くいくわけがない。
俺はもらったポケットティッシュを買い物袋に入れて家に帰った。