第六話 天ヶ瀬修司と美人教師
神代は授業開始直前、周りからの視線などお構いなしの様子で戻って来て、何も言わず自分の席に座った。
その後すぐに担当の先生が教室に入って来て、何事もなく授業が始まった。
結局その日は、神代に話しかける奴は誰一人いないまま放課後を迎えた。
放課後になると、俺はすぐに帰宅する準備をする。
隣を少し見ると神代はすでに自分の鞄を持って席を立ち、教室から出て行った。
神代がいなくなると、クラスの奴らは神代の話をし始めた。
女子勢からは神代の対応に対する審議だったり、憧れや尊敬するような会話も聞こえてきた。
男子勢、特にイケメン君グループはイケメン君に対する慰めだったり、称賛する会話が聞こえてきた。
当の本人は周りの言葉など聞いておらず、終始苛立っている様子。
どうせ本心の部分を見事当てられて、プライドをズタズタにされたのが気に食わないのだろう。
何か変なことに巻き込まれる前にさっさと帰ろう。
「修司じゃあ、また明日!」
「天ヶ瀬君。お先に失礼しますね」
「おーまた明日なー」
幸太は基本的に一之瀬と一緒に帰っている。
お互いに部活に入っていないため、用事がある以外はだいたい一緒だ。
もちろん俺も部活に入っていないが、馬に蹴られるようなことはしたくないから基本的に一人で帰っている。
これからは神代のこともあるため、しばらく一人暮らしをしていることも黙っておいた方がいいだろう。
一人暮らしをしていることを知られてしまえば、あの二人のことだから興味本位で家に行きたいなんてことになる。
なんかの拍子に神代のことがばれるのは、本人にとって不本意だろうからな。
俺は校門から出て歩きながら、音楽でも聞こうか思っていた時だった。
「危ない!」
「へっ!?」
そんな声が近くから聞こえてきたため、声がした方向を見ようとした。
そのとき俺の頭に何かがぶつかり、そのまま近くで何かが倒れるような音が聞こえた。
「痛ってぇ…」
ぶつかったところを抑えながら周りを見ると、一人の男が女をかばっていた。
「大丈夫だった?」
「…はっ、はいぃ」
あーそっちはそういうことね。多分俺にぶつかった何かからかばうために声をかけていたが、何かは俺の方まで飛んできたってことね。
もちろん二人は俺の存在など無視で、なんかピンク色の空気を作り出していた。
俺はいつも通りのことかと認識した後、飛んできたものが何だったのか改めて周りを確認する。
飛んできたものはサッカーボールで、そのボールはすでに跳ね返って、ピンク色の空気を作り出している二人の側に転がって行った。
ただ俺がぶつかった後に聞こえた音の方を見ると、花壇の側に並んであった植木鉢が倒れて割れていた。
「え……まじか」
チラッとサッカー部であろう男のほうを見るが、まるでこっちの様子に気付いていない。
ここで文句を言ってもややこしくなるだけだし、俺にぶつかって跳ね返ったせいで割れたしなぁ。
俺はため息をつき仕方ないからと、適当な先生に事情を説明するために学校へ戻った。
学校に戻ると、ちょうど職員室に戻るところの見知った先生がいた。
「どうした天ヶ瀬。忘れ物か?」
「あー琴吹先生。ちょっとした事故で植木鉢がいくつか割れちゃいまして、この学校って園芸部とかありましたっけ?」
「いや確かなかったと思うが……またあれか?」
「あー……まぁあれですね」
「お前はいつも損な役回りをしているなぁ」
「もう慣れましたけどね……」
この先生は琴吹朱美。
見た目はショートカットの髪に鋭い目つき、スタイルはモデルのような体系だが、引き締まっているように見えるため、体は鍛えているようだ。
面倒見がよく男女問わず生徒から人気で、仕事ができるかっこいい姉御肌の人だ。
そんな先生は俺が中学の頃の担任で、かなりお世話になった。
俺達の学年の卒業と同時に、桜花高校に新しく赴任している。
「あれから何か変わったか?」
「俺がこの性格なんで、何も変わってないですよ」
「……そうか。私がもっとしっかりしていれば、お前が辛い思いをせずに済んだんだろうが」
「先生やめましょう、過去の話をしても何も変わらないですから。それに俺がやったことは事実ですから、先生が気に病むことなんて何もないですよ」
「……済まない。どうにもあの時のことを思い返してしまうと、後悔の念が先に来てしまってな。お前が吹っ切れているのに私が気にしてもしょうがないのにな」
吹っ切れてるというよりも諦めたって言うほうが正しいけど……。
俺は思ったことが言葉になって出そうになるが、先生が気に病むため飲み込んだ。
「それでお願いします。ところで話を戻すんですけど、学校の花とかって誰が手入れしているんですか?」
「ああ、それは生徒会だな。昔は園芸部があったようだが、廃部になった。その時から学校の花は生徒会が管理することになったらしい」
「えぇ……それまじですか」
「どうした、何か嫌なことでもあるのか?」
「いえ、ただ面倒くさいなって思っただけです」
「あははは、そうか。でも、これから生徒会に行くのだろう? なんともお前らしいな」
「そのままにしておいて、後々何か言われるかもしれないのが面倒くさいだけですよ」
「そうかそうか、まぁそういうことにしておく。それじゃあ、私は職員室に戻るが、生徒会の場所はわかるな?」
「まぁ一応は」
「ならいい。それじゃ頑張ってくれ」
そう言って先生は職員室に向かって行った。
俺はこれからあいつと顔を合わることになるため、少し気が滅入る。
しかし、花をあのままにしておくのも気持ちが悪いので、生徒会に足を向けた。