第五十七話 打ち上げの約束
あれから休み明けから二日が経って、和奏は体調が回復したようで登校してきた。
そんな和奏を自分の席で呆れながら眺めていた。
呆れるというのも、和奏が週明けから登校しようとしていたからだ。
しかし昨日の朝、具合が悪そうに登校しようとしていた和奏と鉢合わせした。
すぐさま俺は無理やり部屋に戻らせて、ベッドに寝かせると和奏に休みの連絡させた。
そんなことがあったので、俺は今朝に和奏を訪ねて体調の確認してから登校していた。
和奏が自分の席に近づいてくると、俺は眺めるのをやめて開いていた本に目をやる。
和奏は俺に挨拶することなく自分の席に座った。
それから俺達はいつも通り会話をせずに昼休みになった。
昼食は学食の気分だったので、すぐに教室を出て食堂に向かおうとすると、後ろから幸太が来て俺の横に並んだ。
「今日は俺も学食だから一緒に食おうぜ」
「いいぞ」
俺達はそのまま話しながら食堂に向かった。
俺が学食を受け取って空席を探していると、幸太はすでに席を取っていて軽く手招きしていた。
幸太の下に行って、取っといてくれた席に座った。
「助かった」
「早かったから全然余裕だったぜ」
俺達はそれだけ言葉を交わすと、手を合わせてすぐに昼飯を食べ始める。
幸太は食べながら不思議そうな顔で、今朝気になったことを俺に聞いてきた。
「修司って、神代さんに何かした?」
「……いや……何もしてないぞ」
「う~ん……そうかー」
「どうした?」
「いや神代さんって、余程のことがなければ誰かに視線を送ったりしない思うんだけど、今日何回か修司のほうを見ていた気がするんだよなぁ」
「……そうなのか? お前の気のせいじゃないのか?」
特に何かした覚えはないんだが……昨日、無理やり休ませようとしたときに滅茶苦茶文句を言われたくらいか。
それに関しても納得してもらった気がするんだけど……。
幸太にそう言われて、自分の行動を思い返すが、特に思い当たるものは出てこない。
「そうなのかな~。休憩時間に俺が修司と話してるときになんか、神代さんが修司を見てる気がしたけど」
「……偶然だろ」
「何が偶然なんですか?」
俺は丁度食べ物を口に運ぼうとして、幸太のほうを見ていなかったため、正面のほうから幸太ではない聞いたことがある声がした。
顔を上げれば、一之瀬が弁当を持って立っていて、その後ろには学食を持った和奏もいた。
「ご一緒しますね?」
一之瀬の言葉に俺は驚きながら頷いた。
幸太も一瞬驚いていたが、彼女と一緒に昼飯を食えることになったため、嬉しそうな表情になっていた。
一之瀬は幸太の横に座り、和奏は俺の横に座った。
「あれ? 神代さんは今日弁当じゃないの?」
「はい。それで一之瀬さんが食堂にお二人がいるから、その近くなら空席になっていると思うので、そこで食べようとおっしゃってくれて」
「それで食堂に来たと。空いてなかったらどうするつもりだったんだよ、一之瀬」
「席が混んでいない限り、知らない人の隣に座りたがる人はいないので。それに今日は購買が限定パンの日なので、いつもよりは空いていると思ったんです」
購買の限定パンというのは月に一度販売されるパンである。
どんなパンなのかは毎回変わるようだが、どれも外れがない購買の人気商品。
その日は多くの生徒がそのパンを買いに行くほどらしいが、どうやら今日がその日だったようだ。
俺が食堂を見渡すと、確かに一之瀬の言った通りで、いつもより人が少なかった。
「それで何が偶然なんですか?」
「あー……」
「神代さんが修司のほうを見ていた気がしてたって、俺が話をしてたんだよ」
「え!?」
一之瀬の質問に何というか悩んでいると、幸太が率直に言ってしまった。
和奏は幸太の言葉を聞いて、背筋を伸ばして驚いていた。
「そうなんですか? 神代さん」
和奏は一之瀬に聞かれると、驚きつつもなんとか首を横に振って否定した。
俺は少しハラハラしながら、和奏達のやり取りを見てしまう。
「幸君の勘違いなんじゃないですか?」
「うーん、やっぱり気のせいだったのか」
和奏は幸太と一之瀬のやり取りを見て、ほっと一安心している。
俺も和奏との関係を気付かれるようなことにならなくて安心した。
それから一之瀬が話を幸太の勘違いで終わらせて、別の話題を振ってきた。
「そういえば中間テストがもうすぐですけど、それが終わったらみんなで打ち上げしませんか?」
「賛成!」
「幸君……賛成するのはいいんですけど、これは幸君の勉強のモチベーションを上げるためでもあるんですからね? わかってますか?」
「……はい」
一之瀬の言葉から察するに、どうやら幸太のテスト勉強は上手くいっていないらしい。
そこでテスト後に楽しそうな予定を立てて、頑張ってもらうという案みたいだ。
俺は特に問題ないため賛成してもいいのだが、和奏がどうするか様子を見ることにした。
「どうでしょうか、神代さん?」
「私も賛成します」
和奏はいつもの笑顔で一之瀬に参加することを伝えると、一之瀬は嬉しそうに笑った。
一之瀬はそのまま俺のほうにどうするか聞いてきた。
「天ヶ瀬君はどうですか?」
「……悪いが俺はやめとく」
「え! なんでだよ修司!」
「いや、俺がそこにいるのは神代が嫌だろ?」
俺はそう聞きながら和奏のほうを向くと、笑顔なのに目が笑っていない和奏がいた。
なんで和奏がそんな顏をしているのか全くわからず、俺は少し怯えてしまう。
次の瞬間、足に鈍い痛みが走った。
足元をチラッと見ると、和奏が踵で俺の足を踏みつけていた。
「一之瀬さん。私は嫌じゃないので、天ヶ瀬君も来るそうですよ。ですよね天ヶ瀬君?」
「……はい」
「じゃあ全員参加ですね! 目一杯楽しめるように勉強を頑張りましょう!」
俺は和奏に言われるがまま、テスト後の打ち上げに半ば強制参加することになった。