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第四十九話 お隣さんの説教と会長の暴走

 俺は会長の好奇心からくる質問をなんとか退けることができたが、もう精神が満身創痍の状態だ。

 これから勉強をする気力なんて残っていない。

 俺は椅子の背もたれに体を預けて休息を取っていた。

 聞きたいことが聞けなかった会長は、小さく頬っぺたを膨らませて不満そうにしている。

 話すと本当に残念な人だな……。

 そんなことを思っていると、今度は幸太と一之瀬が自己紹介をしようとした。


「えっと、俺は」


「知っていますから、大丈夫ですよ。桜花夫婦の赤桐幸太君と一之瀬陽香さんですよね?」


 会長は俺の時と同じようにそう言った。


「赤桐君は学年の中で、五本の指に入るイケメン君ですよね。人当たりも良く優しい人柄ですが、勉強が全くできないお馬鹿さんであってるでしょうか?」


 幸太は最初の部分を照れ臭そうに聞いていたが、最後の言葉が胸に刺さりショックを受けていた。


「……なんでそんなに幸君のことを知っているんですか?」


 一之瀬はこの前のこともあり、少し威圧的にそう言った。


「物覚えはいい方なんです。もちろんはるちゃんのことも知っていますよ」


「はるちゃん!?」


 もう会長に愛称で呼ばれた一之瀬は、警戒よりも驚きが勝っていた。


「少し人見知りなところがあって、軽くではあるけど男の人が苦手。でも、困っている人がいると、ついつい助けたくなっちゃう優しい人ですよね?」


 会長は幸太の時とは違い、急に一之瀬のことを褒めちぎり始めた。

 そんな会長のせいで、一之瀬は恥ずかしさが限界に達してしまい、耳が赤くなって両手で顔を隠している。


「成績も上の中とかなり優秀ですよね。本当に天使みたいな方ですね~」


「やっ……やめてくだひゃぃ……」


 一之瀬は羞恥を感じたまま、何とか声を漏らす。

 だが、そんな言葉は会長に届かない。

 ……むしろなんか興奮している。


「あっ……これはやばいです。はるちゃん……少しで良いので抱きしめていいですか?」


「ふぇ?」


「隙あり!」


「んぐぅ!」


 会長は一之瀬が狼狽えているのをいいことに、素早く一之瀬に近づいて抱きしめていた。


「え? え!?」


「っ、ふああぁぁ……」


 混乱する一之瀬にはおかまいなしで、会長は魂が抜かれたような反応をする。


「はぁ~……これだめです……。こんなに小さくて可愛い子を抱きしめるなんて…………何かに目覚めそうですぅ……」


 ほんとに何か怪しいものでも飲んでないよなこの人……って、そんなことを考えている場合じゃない! 一之瀬がキレるぞ!


 俺はすぐさま一之瀬の様子を見ると、ただ肩を震わせるだけで、一之瀬は何もしようとしていない。


「……あれ陽香? 何も言わないのか?」


 幸太も怒らない一之瀬を不思議そうに見ながら聞いた。


「怒ってはいるんですけど! この人が完全にホールドしていて全く動けないんです!」


 どうやら一之瀬は怒りで震えているのではなくて、会長のハグから抜け出そうとしていたようだった。


「ごめんなさい……怒らせてしまいましたか?」


「うるさいです! コンプレックスなんですよ!」


「どうしてですか? こんなに可愛くて愛らしいのだから、他人と比べる必要なんてありませんよ! むしろ誇っていきましょ?」


「……うっ」


 そう言った会長の純粋な目に一之瀬は複雑な表情をしながら、たじろいでしまってた。

 誰だって自分の劣等感である部分を褒めちぎられたら反応に困る。

 今の一之瀬はそんな感じだ。


「はぁはぁ……はるちゃんごめんなさい……。もっとぎゅ~ってしてもいいですか?」


「いや~! やめてください~!」


 一之瀬の頭を撫でながらそんなことを言う会長に、それを拒否しようとする一之瀬、もう破茶滅茶である。

 そんな二人に神代が静かに近づいていった。


「いい加減にしてくだ……さいっ!」


「ふんごっ!」


 神代は怒りながら、会長の頭に手刀を入れた。

 会長は一之瀬を離して、手刀を入れられたところを両手で抑えて、床にしゃがみ込んでいる。


「いつも言っているでしょ! 人が嫌だと言ったことはやってはいけないですと!」


「……は……はい」


 いつも学校で怒りの感情を露骨に出さない神代が、声を出して怒っている。

 会長は立ち上がって、お辞儀をするように頭を少し下げて頷いていた。


「大体いつもあなたって人は!」


「……はい……ごめんなさい……」


 そのまま会長は日頃の行いや人との接し方について、神代に説教されている。

 一之瀬は幸太に泣きついていて、それを幸太が頭を撫でて慰めていた。

 会長がチラッと俺の方を見て助けを求めてくるが、俺は何事もなく机の上に勉強道具を取り出した。


「聞いているんですか!?」


「……はい」


 会長が話を聞いていないことに気付いた神代は、怒りを更に加速させる。

 そのまま会長に対する説教が続いた。




 生徒会室の中はもう混沌である。

 こいつら……いつになったら真面目に勉強するのだろう……。

 そんなことを思いながら、俺は数学の問題集に手を付け始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フリーダム会長w ブレーキが居ないと暴走とまんねえw [一言] 神代は昔っからブレーキ役だったのかw
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