第四十七話 桜花夫婦と呼び出し
休日が終わって、ほとんどの奴らが憂鬱になる月曜日。
もちろん、その中には俺も含まれている。
憂鬱な気持ちと戦いながら、何とか教室まで辿り着いた。
いつもなら席に座って読書を始めるところだが、英語単語帳を開いて勉強する。
空いている時間にコツコツとやるのが大事だと、神代が言われたので実践している。
「はよー修司……って何やってんだ?」
朝から幸太がだるそうに挨拶して、そう聞いてきた。
「何って、勉強だ」
「え? なんで勉強してんの?」
「別にいいだろ」
「やめろよ! お前が勉強してると焦るだろ!」
幸太は必死な顔でそんなことを言ってくる。
「幸君はもっと焦っていいですよ?」
「うっ……陽香……」
幸太とそんな会話をしていると、笑顔なんだけど少し怖い雰囲気の一之瀬が来ていた。
「どれか一教科でいいので、たまには平均点くらい取れるように勉強してください」
「……すみません」
なんかこういう会話を聞いてると、一之瀬が彼女と言うよりも幸太の母親のように思えるのは、俺の気のせいなのだろうか。
「天ヶ瀬君……何か変なことを考えましたか?」
そう言った笑顔の一之瀬に対して、俺は首を横に振った。
「そうです! テスト期間なので放課後に勉強してから帰りましょう!」
「げっ……」
幸太は嫌そうな顔をするが、そんなもの一之瀬の前では無意味である。
「幸君? なんですか今の声は? 嫌なら嫌と言っていいんですよ? その代わり二度と勉強見ませんから」
「よーし! 頑張っちゃうぞー!」
幸太はもう完全に一之瀬の尻に敷かれている。
まだ付き合い始めて一年くらいなのに。
その時、ポケット入れてた俺の携帯が震えた。
携帯を確認すると、隣の神代からだった。
『会長から放課後に来るようにって』
メッセージを確認すると、俺は見なかったことにして携帯をポケットに戻した。
それからなんども携帯が震えたが、それを無視して幸太達と話していた。
絶対に横の神代の顔なんか見ない……確実に怒ってるから。
そんな決意も数分後にあっさり崩れ去った。
「天ヶ瀬君? 少しよろしいでしょうか?」
ああ……声をかけてくるなと約束したと思うんだが。
神代が俺に声をかけたせいで、周りの奴らが驚いて俺達のほうを見てくる。
「……何でしょうか」
俺はそう言いながら、おそるおそる神代の方を見る。
ああ……鬼だ……鬼がいる……。
周りはいつもの神代に見えるようだが、俺には後ろに角の生えた鬼がいるように見えた。
「会長からの伝言です。放課後に生徒会室に来るようにと、よろしいでしょうか?」
「……はい」
後で、神代にしっかり謝ろうと心の中で誓った。
放課後になって生徒会に向かおうと教室を出ると、隣に神代が並んだ。
「……私も呼ばれているので一緒に行きます」
「……はい」
あれから俺は神代に謝ることができていない。
そのため神代の態度は未だ棘があるままだ。
早く謝ればいいのだろうが、周りに俺と神代の関係を知られるわけにはいかないから、なかなかいいタイミングが見つからなかった。
俺は生徒会室に向かっている間に周りを見渡して、近くに人がいなくなったのを確認する。
「……すまなかった。あまりにも会長に会うのが嫌だったんだ。神代を無視したくてしたわけじゃない」
俺は神代のほうを向かずに、隣にいる神代だけが聞こえる声量で謝った。
「……はぁ。仕方ないから許してあげる」
「……助かる」
「……それに私もそんなに怒るようなことでもなかったと思ったし」
俺は許してもらえたことに安心して、二人で生徒会室に向かった。
向かっている途中、残念そうな顔をしている幸太達と出会う。
「どうしたんだお前ら」
「……いえ。図書室で勉強しようと思ったんですが、思ったより人が多くて座れる場所がなくて」
二人は朝言っていた通り、放課後に勉強しようとしていたらしい。
「自教室じゃだめなのか?」
「今日は吹奏楽部が使うって言われちまった」
そうなってくると他に勉強できる場所は、近くの図書館かファミレスしかなくなる。
図書館は他の人も使っているだろうから図書室と同じようになりそうだし、ファミレスだと幸太が集中できない。
俺と神代も他にどこかないか少し考えていた。
「生徒会室を使ってはどうでしょうか?」
「「「「え?」」」」
何処からか、いきなりそんな提案をされて俺達は驚いた。
幸太達は俺と神代のほうを向いているが、俺も神代も口を開いていない。
俺は嫌な予感をしつつ、後ろを振り返った。
そこには神代が気絶した時と同じように、桐生院玲香がいた。
「決定! は~い、皆さん私に着いて来て下さい!」
会長はそう言って、歩いて行く。
俺達四人は顔を見合わせて、戸惑いながらも会長の後に着いて行った。




