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第四十四話 お隣さんと手料理

 黒嶺先輩の件から数日が過ぎた。

 休日、久しぶりに夜遅くまで本を読んでいたため、布団の中で惰眠を貪っていた。

 すると、半分眠った意識の中で微かにインターホンの音がする。

 俺はうつらうつらしたまま、玄関の扉を開けた。


「やっぱりいるじゃない!」


 そう言って訪ねてきたのは、お隣さんである神代らしい。

 らしいと言うのは、俺の視界が寝ぼけて霞んでいたからだ。


「って、もしかして寝てたの?」


「……ん」


 神代の言葉に頷いた俺は、扉を閉めようとした。


「ちょっ! ちょっと!」


 神代が扉を閉めるのを止めてきたようだった。

 俺の意識はそこで途切れた。




 何やら味噌の良い匂いがする。

 その匂いで、だんだんと意識が覚醒してくる。

 起きるとそこはリビングで、俺はソファで寝ていた。


「あ、起きた」


 声がしたほうを向くと、キッチンに神代が立っていた。


「は!? なんでお前が俺の部屋にいるんだ!?」


「ソファまで連れて行ってあげた人への言葉とは思えないですね」


 神代は静かな笑顔で俺を見て、丁寧な言葉でそう言った。


「え? いや……あの……どういうことか説明してもらっていいですか?」


 神代の笑顔から初めて見た時のような般若が後ろにいる。

 そのため俺は震えながら、この状況について聞いていた。


「朝に天ヶ瀬君を訪ねたら、寝ぼけながら出てきました」


「……はい」


「すぐに扉を閉じようとするから、私はそれを止めました。そしたら、扉から手を放してフラフラと戻っていきます」


「…………はい」


「すごく危なっかしかったので、ソファまで誘導してあげました」


「……はい……すみません」


「それなのに、そんな風に言われるとは思わなかったです」


「悪かった! 本当に申し訳ない! そして、ありがとうございます!」


 俺はソファから飛び起きると、手を合わせて頭を下げた。

 神代は何も言ってこないが、しばらくするとため息をついた。


「……はぁ。もういいから、頭を上げて」


「その……本当にすまなかった」


 俺は頭を上げてから、もう一度謝罪の言葉を言った。

 その時、ピーと炊飯器の音が鳴った。


「なんで飯を作ってるんだ?」


「それはもうお昼だから」


「俺の部屋で?」


「それは! ……え? 携帯は見てないの?」


「ん?」


 神代は呆れた顔をしていた。


「この前の約束! 勉強を見てあげるために来たの!」


「え……それ今日だったのか?」


「昨日の夜にメッセージ送ったんだけど……その様子だと見てなさそうね」


「……なんかすまん」


「もういいから、ご飯食べましょ」


 神代はそう言いながら、テーブルに料理を並べ始めた。


「俺も手伝う」


「あとはこれだけだから大丈夫」


「あれ? 皿とか二つもあったか?」


「なかったから自分のを持ってきたの」


 並べられた料理は里芋と大根の煮物、ほうれん草のお浸し、卵焼き、わかめと油揚げの味噌汁、白米だった。


「食べてもいいのか?」


「そのために作ったんだから、食べてもらわないと困るんだけど……」


 俺が椅子に座ると、神代も二人分のお茶を持ってきて座る。


「それじゃあ……いただきます」


 そう言って、神代の手料理をを食べ始める。


「口に合うといいんだけど……」


 神代は不安そうに俺を見ながら、そう言った。

 最初に煮物へ箸をつける。


「……うまっ!」


 良く味が染み込んだ大根と里芋がご飯のおかずに合う。

 そのまま他のものにも箸をつけていく。

 どれも俺の好みに合った味付けで箸が止まらない。


「え……ちょっと! 逃げたりしないんだからもう少し落ち着いて!」


「……そうだな。あまりの美味さで食べることに熱中してた」


「……そ……そう。口に合ってよかった」


 神代は照れくさそうにそう言って来た。


「前にも言ったと思うけど、本当に美味いんだよ。特に煮物が」


「一晩寝かせた甲斐があってよかった」


「それじゃあ、神代の家から持ってきたのか?」


「うん。天ヶ瀬君が寝てる間に鍋ごと」


 だから、こんなに味が染み込んでいるのか。

 さっき作ったにしてはよく染み込んでいると思ったが、それなら納得だ。

 一品一品噛み締めて食べていると、神代がこちらをじっと見ている。


「どうした?」


「……本当においしそうに食べるなって」


「美味いから仕方ない」


 俺は真剣にそう言った。

 そんな俺の表情に神代は少し驚いている。


「それに神代の作った料理。特に煮物なんだが、昔俺が食べた味付けに似てる気がするんだよ」


「そうなの?」


「ああ。この味付けが一番好きなんだよなぁ」


「一番!?」


「そうだぞー」


 俺がそう言うと、神代が黙ってしまう。

 何か変なことを言ったかと思って神代を見ると、耳まで真っ赤になりながらぶつぶつと独り言を言っていた。


「……え……それってつまり……いや……天ヶ瀬君よ? ……そうよ……絶対……うん……絶対違う」


「どうかしたか?」


「へ? あ! ううん、何でもないの。あははは」


 神代の様子が変だが、俺は気にしないことにした。

 そのまま昼食を夢中になって食べ続けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美味しい飯はうまい! [気になる点] つまり昔 本人同士もしくは親同士がどっかで接点があった? [一言] 親同士 同じ料理教室に行ってた ということじゃないよねw
[一言] まさか昔出会っていたとか... ないよな。ないよね?
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