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第四十三話 お礼の約束と桜花夫婦

 鞄を取りに行った神代と合流して、俺達は学校から出た。


「頼みを聞いてもらってから言うことじゃないんだが、生徒会の仕事はよかったのか?」


 俺は歩きながら、神代に気になってことを聞いた。


「大丈夫、今の時期は特に忙しい行事なんかないから。あるとしたら、中間テストくらいじゃない?」


「げっ……もうか」


 勉強することは平気なのだが、あの勉強しなきゃいけないという空気が苦手だ。

 そのため俺は気が滅入るのを抑えられず、不満が口から出てしまった。


「天ヶ瀬君って、勉強できないの?」


「……神代から見たら、誰だってできていないと思うぞ」


「そんな皮肉が聞きたいわけじゃないんだけど」


 神代はジト目で俺を見てくる。

 軽い冗談だったのつもりだったんだが……。


「本当のところはどのくらいなの?」


「平均より、ちょい上くらいだ」


「……ふーん」


 神代は何か考えながら相槌を打つ。

 その様子を疑問に思いながらを見ていると、何かを決めたように俺を見た。


「うん! 私が天ヶ瀬君の勉強を見てあげる!」


 神代は唐突にそんなことを言って来た。


「え? いや、どういうことだ?」


 あまりに突拍子もないので、俺は驚かずにいられなかった。


「まだ、お弁当のお礼を返していないでしょ? そのお礼として、勉強を見てあげる!」


 こいつ、まだお礼の件を忘れていなかったのか……お礼は十分だと言ったのに。

 そんなことを思っていると、神代は笑顔でじっと俺を見ていた。

 何となく、その笑顔が少し怖いのは気のせいなのだろうか。


「どうしたの? 不満?」


「い……いえ、滅相もないです……」


 笑顔でそう言われたが、まるで有無を言わせない圧を感じた。

 俺は何も言えず、神代の言葉を受け入れるしかなかった。


「じゃあ、テスト期間になったらよろしくね!」


「……わかった。じゃあ、テスト期間中よろしく頼む」


 少しテンションは下がったが、学年一位から勉強を教えてもらえるとプラスに考えることにした。


「任せなさい!」


 俺達はそんな約束を交わして家に帰宅した。




 次の日の昼休み、

 俺と神代は、幸太と一之瀬を屋上に呼んだ。


「修司、来たぞ~」


「えっと、話があるんですよね?」


 幸太は何も気にせず、一之瀬はどこか不思議そうに屋上に来た。


「そんな大したことじゃない。あと一人来る予定だから、先に飯でも食べよう」


 俺の提案に頷いた二人は弁当を広げ始め、俺も購買で買っておいたパンの袋開ける。

 俺達は昼食を取り始めると、すぐに神代が屋上に来た。


「遅れてしまって申し訳ありません」


「え? 神代さん?」


「なぁ修司、どういうことだ?」


「なりゆきで少し神代に手伝ってもらったからな。昨日の当事者として俺が呼んだ」


 俺が理由を話すと、二人は疑問の表情を浮かべた。

 それから昨日のことを、証人として神代に確認してもらいながら、細かく二人に話し始めた。




「……嘘」


「……マジか」


 二人は俺の話を聞いて、血の気が引いている。

 神代も辛そうにして二人の様子を見ている中、俺は頭を下げた。


「すまなかった」


 謝罪に驚いたのか、全員黙ったままでいるようなので、俺はそのまま続ける。


「俺がもっと早く気付いて、幸太に伝えていれば二人にこんな思いをさせることはなかった。本当に申し訳ない」


 頭を下げているため、三人がどんな顏をしているかわからないが、二人を傷つけた事実は変わらない。

 俺は誠心誠意で二人に謝った。


「はぁ~」


 そんな深いため息をつく声が聞こえた。

 次の瞬間、盛大な音と共に背中にひりついた痛みが走る。


「っ!?」


「どうして天ヶ瀬君が謝るんですか! ここにいる人達は誰一人として、あなたのせいだとは思っていないですよ!」


 神代の言葉で頭を上げると、幸太と一之瀬は優しく微笑んでいた。

 俺は驚いて神代の方を見ると、呆れながら苦笑していた。


「そうだぞ修司! いつ俺達がお前のせいなんて言ったんだ!」


「幸君の言う通りです。一人で勝手に罪悪感を感じないでください」


 俺は二人がそんな風に言ってきたことに呆然としてしまう。


「そもそも、最初に騙された俺が一番悪いだろ……」


「あんな風に近づいて来たら、誰だって騙されておかしくないです。幸君が悪いなら、騙された私も悪いです……」


 そんなことを言いながら、二人は騙されたことに自己嫌悪し始めた。

 そんな二人を見て、神代が手を叩いて大き目な音を出した。


「はい! そこまでにしましょう。今回の件について、この中に悪かった人などいません。だから、各々が自分を責めることはやめましょう」


 神代は優しい笑顔でそう言った。


「だが……」


「天ヶ瀬君は、もう一度叩かれたいのでしょうか?」


 あの痛みはお前が叩いたからかよ……。


「諸悪の根源は黒嶺先輩です。赤桐君と一之瀬さんの優しさ付け込んで、同情を誘ったんですから」


 神代がそう言うと、俺達三人は顔を見合わせて苦笑いする。


「神代さんの言う通りで、俺達がこうやっていても意味ないな!」


「ですね、あー! なんかムカついてきました!」


「一之瀬さんは、これ以上面倒なことにしないでくださいね?」


「わかっていますよ。せっかく神代さんと天ヶ瀬君が助けてくれたんです。もう、あの女に関わるのはこりごりです」


 一之瀬の言葉に神代と幸太は笑っている。

 そんな様子を見ていた俺だが、どうしても気になっていることあった。


「二人は今回の件で、人を信じられなくなったりしないのか?」


 俺がそう聞くと、幸太と一之瀬は顔を見合わせて不思議そうな顔をする。


「うーん。確かに黒嶺先輩のことは怖いなって思うけど」


「……そうですね。でも、天ヶ瀬君や神代さんみたいな人もいるんですから」


「そうそう! 人を信じたり信頼することを怖がって、修司や神代さんみたいな人と出会えなくなるなんて、俺は嫌だな!」


 そう言った二人は良い笑顔をしていた。

 二人の言葉に少し熱いものが込み上げて来そうになった。

 俺は何とかそれを飲み込んで、二人から目を逸らした。


「……このお人好し共め」


「……天ヶ瀬君は人のこと言えないですからね」


 神代には俺の言葉が聞こえていたようで、幸太達に聞こえないように小さくそう言ってきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 日常回楽しみです。
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