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第三十八話 事情と作戦

 女は落ち着くと、色々と話してくれた。

 女の名前は黒嶺礼奈(くろみねれいな)

 学年は三年で先輩だった。

 家が貧乏でバイトなどを掛け持ちしているが、カースト上位のグループに目を付けられていじめられているという。

 カツアゲ紛いのお金の要求や罰ゲームの強要などやらされたことは様々らしい。

 今回の件もその一つではあるが、少し違うのはグループの中に幸太のことが好きな奴がおり、別れさせるためだったと言う。

 今日の件は全て指示されたことのようだ。


「……許せないです」


 一之瀬は下唇を噛み締めて怒りを抑え、幸太も爪が食い込むほど拳を握りしめている。


「じゃあ、お前の幸太に対する好意の視線は嘘だったってことか?」


 黒嶺先輩は俺の言葉を聞くと、こちらを向いて目を合わせた。

 しかし、すぐに視線を逸らして下を向きながら答える。


「……嘘ではないわ。赤桐君は覚えていないかもしれないけど、購買でパンを譲ってくれた時に一目惚れしたの」


 黒嶺先輩は申し訳なさそうな声色で言った。

 幸太の方を見ると、幸太は腕を組んで思い出そうとしているが出てこないらしい。


「でも! その時には彼女がいるってことを知っていたから邪魔しないようにと思って、ずっと胸の内に秘めたままにしておこうと思っていたの!」


 ファミレスと昼休みの時の表情は、好きな人と話せた嬉しさからといったところか……。


「黒嶺先輩に指示を出したグループはまだ学校に?」


 幸太がそう聞くと黒嶺先輩は答える。


「……多分いないと思うわ」


「指示に従ったかの確認はどうしているんだ?」


「……ボイスレコーダーで録音して」


 黒嶺先輩は俺の質問に答えると、ポケットからボイスレコーダーを出してきた。


「これで確認していると……」


 普通ここまでして確認させるか……。

 いじめって大体が指示したことをやらせて、それを見て楽しむクソみたいな思考が多い気がするんだが。

 それだけ相手は幸太に対して執着があるのか。


「どうする幸太?」


 俺がこれからどうしていくのか幸太に聞くと、真剣な表情で答える。


「明日、俺がそいつらと話すのが一番効果的だろ?」


「私も行きます!」


「いや、一之瀬は来ないほうがいいだろう」


「なんでですか!?」


「こういうのは好きな相手から直接何か言われる方が効く。万が一の時のために、俺が一緒に付いていくから我慢してくれ」


「陽香。俺も修司に同意見だ」


 一之瀬は俺の意見に納得できないようだったが、幸太の同意もあって渋々承諾してくれた。


「じゃあ、黒嶺先輩には今日の音声を録音するために、また演技してもらうか」


「……え?」


 俺の提案に、黒嶺先輩がどうしてと言うような様子で驚く。


「なるほどな。このままだと黒嶺先輩が明日何されるかわからないから、ちゃんとやりましたよって言う証拠を残すってことだな」


「そういうことだ」


 幸太の奴、こういうところは謎に理解が早いんだよなぁ……。

 一之瀬も黒嶺先輩も納得したところで、指示に従った証拠の偽装をする。

 一之瀬と黒嶺先輩で言い争う演技をしてもらった後、幸太にも黒嶺先輩に言い寄られる時の演技をしてもらって、それらをボイスレコーダーに録音した。


「もし明日の放課後までに新しい指示を出されたら、指示通り動いてください。その時も演技をして証拠を偽装するってことで。一之瀬もそれでいいよな?」


「はい、大丈夫です」


 一之瀬が俺の提案に頷く。


「修司、俺に関しては好きなように話していいんだよな?」


「ああ、それでいいぞ。どうせ一之瀬のことを一番に思っているだとか、そんなところだろ? 好きに話してくれ」


「たはー! バレバレか!」


 幸太は重い雰囲気を変えようとするかのように、おちゃらけて言った。




 明日の放課後に全部解決させるつもりで、俺達は作戦を練ってから解散した。

 俺以外の三人は家の方向が同じらしく、三人で一緒に帰ることになった。

 俺は図書室から借りていた本があることを思い出して、返却してから帰ることにしたので、三人とは教室で別れた。

 俺が帰ろうと玄関に行くと、丁度靴を履き替えている神代がいた。


「あ! あの後どうなったのでしょうか!?」


「おっ……おい! 歩きながら話すから、少し落ち着いてくれ!」


 神代は放課後の件が気になりすぎて、靴を履き替え途中のまま俺に詰め寄ってきた。

 俺と神代距離がほぼ数センチと言ったところまで近づいていたため、俺は焦りながら落ち着くように言葉を掛ける。


「私は落ち着いています!」


「わかった! なら少し離れてくれ! 距離が近すぎる!」


「え? ひゃあ!」


 神代は近すぎる距離に気付くと、俺を突き飛ばして距離を取った。


「……お前……このやろう」


 突き飛ばすために出した手が、俺のみぞおちに直撃し胸を抑える。


「……ごっ……ごめんなさい」


「……落ち着いてくれたならいい」


 そう言って俺は靴を履き替え、神代と一緒に帰り始める。


「結局どうなったの?」


 学校出て、しばらく歩いたところで神代が聞いてきた。


「どうやら指示されてやっていたみたいだ」


「指示?」


「……いじめだ」


 その言葉を聞いたときに神代の顏色が変わる。

 先程まで心配していた様子から恐れるような感じになり、何かを我慢するように顔が強張っている。


「……明日には解決するから心配するな」


 俺はあえて神代の様子には触れずに、今回の件についてどうするか説明する。


「……そう」


 神代は一言だけ呟いて、その後に会話は一切せず俺達は帰宅した。

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