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第三十四話 忘れ物

 俺達は料理を食べ終わると、会計を済ませて外に出た。

 片桐と速水は電車通学のため、二人を見送った。 


「修司はまだ帰らないのか?」


 俺が電車通学であることを知っている幸太が聞いてきた。


「あー……少し本屋に寄ってから帰る」


「それなら俺と同じ方向か」


 本屋は幸太の帰宅コースにあるため、一緒に帰ることになった。




「あと少し残ってるけど、かなり終わらせられて良かったー」


「最初から少しずつでもやっておけば、こんなことにはならないぞ」


「それが出来ればいいんだけどなぁ。やろうと思って課題を見ても、全く分からなくてやる気なくすんだよ」


「真面目に勉強してれば、そんなことにはならないんだけどな……」


 幸太は面目ないというような顏で苦笑いした後、急ににやけ始めた。


「……気持ち悪いぞ」


「いやー今日の片桐と速水さんの仲良い感じを見たら、陽香に会いたいなぁって思ってさ」


「いきなり惚気てくるな」


「そうだ! 今日の頑張りを陽香に伝えて褒めてもらおう!」


「はいはい。勝手にやってくれ」


 そんな会話して、幸太が携帯を出そうとポケットに手を入れた。

 だがポケットの中にないようで、今度は背負っていたリュックを前に持ってきて探し始めた。


「もしかして携帯どこかに落としたのか?」


「……そうかも。最後に携帯を触ったのはファミレスだったとは思うんだけど……」


 幸太は腕を組んで記憶を辿っていた。

 どうやら最後に携帯を触った場所がファミレスということは覚えているようだ。

 ただ、それ以降が分からないらしく、携帯を出したような出さなかったようなという感じだ。


「じゃあ、とりあえずファミレスに置いてきてないか確認するか」


「……そうするかぁ……悪いな付き合わせちゃって」


「別に気にしなくていい。さっさと戻るぞ」


 俺達は来た道を戻って、さっきまでいたファミレスに向かった。

 ファミレスに入ると、すぐに接客を受ける。


「いらっしゃいませ。二名様ですか?」


「いえ、携帯なくしてしまって。こちらのお店に携帯の忘れ物ってあったりしますか?」


 幸太がそう聞くと、少々お待ちくださいと言われ、俺達はしばらく待つことになった。


「あるといいな」


「……だといいんだけど」


 幸太は携帯をなくしたことがショックで、テンションが下がっていた。

 すると、店員が戻ってきた。


「携帯の特徴などをお聞きしてもよろしいですか」


「携帯は黒で、ケースは縁が黒で後ろが赤色のやつなんですけど……」


「こちらで保管しています。ただいまお持ち致します」


 店員は無線で連絡を取ると、別の店員が持ってきてくれた。


「……よかったぁ~」


 店員から携帯を受け取ると、幸太は安心した様子で安堵した。

 その時、携帯を持って来てくれた店員が、先程まで笑顔で応対をしてくれた店員とは正反対で、笑顔一つなく幸太の方を見ていることに気づいた。

 幸太が何かしたのかと思って、ファミレスのことを思い返す。

 その店員は幸太とぶつかりそうになった人だった。

 幸太に対して、営業スマイルの一つもせずに真剣な表情で見ていた。

 すると、その店員が話しかけて来た。


「……お礼を言いそびれてしまって申し訳ありません。転びそうになったところを助けていただきありがとうございます」


「あっ、あの時の店員さん! いえいえ、急に俺が席を立ったのがいけないので気にしないでください!」


「……ありがとうございます」


 幸太は自分が悪かったことと、気にしないで欲しいことを店員に伝える。

 店員の二回目のお礼の言葉は、あまりにも最初の表情と違う柔らかい表情とセットだった。


「携帯を保管してくれてありがとうございました!」


 幸太がそう言って俺と一緒に頭を下げてから、俺達は店を出た。


「本当にあってよかったぁ~」


 幸太は不安だった気持ちが晴れていた。

 その後、たわいもない話やくだらない話をしているうちに本屋に着いた。


「じゃあな修司! 多分次は学校で!」


「おう。学校で」


 そう言うと幸太は帰り、俺は本屋で面白そうな文庫本をいくつか買って自分の家に帰る。




 帰り道、幸太と最後に柔らかい表情を見せた店員とのやり取りを思い出す。

 当たり前のやり取りのはずで、気にするようなことではないのだが、少し引っかかる。

 前にも似たような表情をしていた奴がいたことを覚えているのだが、その後にどんなことがあったのか思い出せない。

 俺は結局客と店員の関係であるため、今後関わる事などないと思い、考えるのをやめた。


 それから、残りの二連休を趣味と勉強に費やして、ゴールデンウィークが終わった。

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