第三十三話 友達と夕飯
それから、幸太は弱音を吐きつつも課題をほとんど終わらせることができた。
文系の科目を俺が教え、理数系の科目は片桐にかなり手伝ってもらった。
片桐は期末考査十五位なこともあって、教え方も分かりやすい。
俺も教わるような形になって非常に助かった。
「赤桐先輩、やっと終わったんですか?」
「あと少し~」
「……六花ちゃんはもうずっと読書してたね」
速水も課題が終わっていなかったはずだが、いつの間にか終わらせていた。
俺と片桐が幸太の勉強を見始めてから、一人黙々と集中して取り組んでいたみたいだ。
「……速水は……片桐と一緒に課題する必要あったか?」
「え~天ヶ瀬先輩無粋です~。好きな人と一緒に勉強するっていうシチュエーションって憧れませんか?」
「わかる!」
「わかるのはいいが、幸太は彼女に迷惑かけないようにしろ」
速水の言葉に同意していた幸太だったが、俺が注意すると少し申し訳なさそうに笑っていた。
「ところで先輩方、もうこんな時間ですけど、近くのファミレスでご飯でも食べて帰りますか?」
速水に言われて時計を見ると十九時を過ぎていた。
「行こう!」
俺はどちらでもよかったが、幸太が思った以上に乗り気だった。
「僕もいいが……天ヶ瀬はいいのか?」
「ん、何がだ?」
「天ヶ瀬は僕と一緒が嫌だろうと……」
片桐はこの前のことをまだ気にしてるのか。
少なくとも俺の中で、片桐は悪い奴ではないから別に気にしなくていいのだが……。
「前も言ったが、特に気にしてないからお前も気にするな」
「……そうだったな」
片桐は何とも言えないような顏で少し笑った。
「じゃあ! もう少し親睦を深めるためにご飯を食べに行きましょう!」
そう言った速水は早々と帰る支度をして、一足早く図書館を出て行こうとする。
そんな速水を幸太が追いかける。
俺と片桐は顔を見合わせ、やれやれといった感じで後に続いて、図書館を出た。
ファミレスの四人席に片桐と速水、俺と幸太で向かい合わせになって座る。
速水と幸太は率先してメニューを選び始める。
しばらくすると、速水の方が決まったようでメニューを片桐の方に渡した。
幸太はまだ悩んでいるが、俺はもう決めていた。
「速水は何にするんだ?」
「私はオムライスです!」
「僕はチーズハンバーグにしようかな」
「俺はチキン南蛮とハンバーグのセット!」
片桐がメニューを決めると、丁度幸太の方も決まった。
「じゃあ、店員呼ぶぞ」
全員がメニューを決めたのを確認して、俺は呼び出しボタンを押した。
「天ヶ瀬は何にしたんだ?」
「俺は」
「どうせ和風ハンバーグとかだろ?」
俺が答える前に幸太が俺のメニューを答えた。
確かに合ってはいるのだが、こうも幸太の予想通りであると違うメニューを頼みたくなる。
だが、それ以外特に食べたいものがなかったので、メニューの変更をする気が起きなかった。
俺は幸太の方を少し睨むが、素知らぬ顔で店員が来るのを待っている。
「お二人はかなり仲がいいんですよね」
「一年の頃からの付き合いだからなぁ」
「そそ! ずっと読書してる変な奴が、俺の席の後ろで話しかけてって感じで!」
幸太が適当に仲良くなった経緯を二人に話す。
俺はその会話を黙って聞いて、料理が来るのを待っている。
「でも、天ヶ瀬がよく仲良くしようと思ったな。赤桐なんか嫌いなタイプじゃないのか?」
「嫌いなタイプだぞ」
「ひでぇ!」
片桐の質問に俺は秒で答える。
幸太はショックを受けたフリをしている。
「じゃあ、なぜ仲良くしてるんだ?」
「まぁ嫌いなタイプではあるけど、こいつは一緒にいて退屈しないからな」
俺は考えるフリをして適当に誤魔化す。
速水も片桐も俺の言葉に納得して、確かにといった表情で笑っていた。
そんな会話をしていれば、店員が注文を聞きに来た。
俺達は各々のメニューとドリンクバーを頼む。
しばらく雑談をしていれば、全員分の料理が揃った。
「一馬せんぱ~い。私のオムライスを一口あげるんで、先輩のハンバーグを一口くださいな!」
「僕にオムライスをくれなくていいけど、一口どうぞ」
「え~。食べさせ合いっこしましょうよ~」
「……それは遠慮するよ」
速水と片桐は付き合ってもいないのに仲睦まじい姿を見せつけてくる。
あれから速水のアプローチは休まず行われており、片桐も最初に比べたら気を許しているように感じる。
「……なぁ修司、俺達は何を見せられているんだ」
「さぁな」
「この光景を見て羨ましいと思わないのか!?」
「いや特に何とも……というかお前は彼女いるだろ」
「そうだよ! あー! 陽香に会いたい!」
幸太はそう言ってジュースを一気飲みすると、飲み物を取りに行くために席を立つ。
「えっ!」
「あっ! やば!」
席から勢いよく立ったこともあるが、一番の理由は立ち上がるときに周囲をよく確認していなかったことだろう。
空いた皿を運んでいた店員とぶつかりそうになる。
体勢を崩した店員はそのまま倒れそうになるが、幸太が何とか転ばないように店員の肩を抱きとめて支えた。
運んでいた皿は運良く? なのか、一枚だけで俺の方に飛んできてため、床に落とさずキャッチする。
「大丈夫ですか?」
「……あの……申し訳ありません」
幸太が店員をゆっくり立たせて声をかけると、店員は俺達に謝ってきた。
「気にしなくて大丈夫ですよ~」
速水にそう言われると丁寧に頭を下げてから、俺がキャッチした皿を受け取って厨房の方に戻っていった。
「赤桐。ちゃんと周りは見たほうがいいぞ」
「そうですよ~」
「六花ちゃんもだよ。階段で転びそうになったこと忘れてないよね?」
「……うっ。あれはちょっと無理しちゃったって言うか……」
速水がとばっちりで片桐に怒られ始めたが、俺は幸太に注意を促す。
「……気を付けろよ」
「ごめんごめん。不注意だったわ」
幸太はそう言うと、改めて飲み物を取りに向かった。