第三十二話 各々の成績発表
「だめだぁ~。全然分からねぇ~」
勉強を始めてから一時間で、幸太がダウンした。
「まだ始めたばかりだろ」
「でもさ~」
「赤桐先輩は全然勉強できないんですか?」
幸太の様子を見ながら、速水が聞いてきた。
「こいつは一年の頃から全然だめだ」
「一年の頃は、ほぼ毎回赤点があったぜ!」
幸太が良い笑顔で言うが、自信満々に言うところではない。
「自慢するところじゃないだろ……」
幸太の奴、片桐にも呆れられてやがる。
「あれ? 一緒に勉強してるってことは、天ヶ瀬先輩は勉強できるんですか?」
「平均ちょい上くらいだな。片桐には及ばないよ」
「なんで天ヶ瀬が、僕の成績を知っているんだ」
片桐は嫌そうな顔するが、こっちだって知りたくて知ったわけじゃない。
「細かいのは知らねぇよ。ただ教室で、よくお前が勉強できてスポーツもできるっていう話を周りがしてんだ。それでそう思っただけだ」
「なるほど」
俺がそう言うと、片桐は納得した。
「実際どうなんですか? 最近あったテストだと、期末考査が最後だと思うんですけど、その時の順位は何位なんですか?」
速水が順位について聞いてきた。
俺達の学校は、テストが全て返ってきた後、成績表が渡される。
そこに全教科の点数と順位が書いてある。
そのため、順位については個人に聞かないとわからないのだ。
ただ例外があって、上位十人だけは上から昇順に合計点が張り出される。
生徒会に入れるのは、そこに名前が載っている奴だけだ。
「俺は百七十六位!」
「赤桐先輩はどうでもいいです」
「はい……」
幸太が最初に自分の順位を言うが、分かりきった順位なので速水はあしらっていた。
特に気にする必要もないので、俺も答えることにした。
「五十位だ」
「僕は十五位だった」
「一馬先輩の方が順位上ですね!」
「六花ちゃんみたいに、上位十人には入ってないけどね」
やはり片桐の方が俺よりも上だった。
というか、もう少し頑張れば上位十人の中に入れるんじゃないか?
「その成績なら、頑張れば十人の中に入れるんじゃないか?」
「部活のせいにしたくはないけど、僕はこれが限界だ」
部活をしてたら、勉強時間を作るのが大変か。
それでも十五位はすごいけどな。
「速水は入試の時、何位だったんだ?」
俺達の学校は入試の時も、合否の結果と一緒に点数と順位が書かれている。
一年なのに成績優秀者しか入れない生徒会に入っているのだから、入試の時の順位が相当いいのだろう。
「私ですか? 私は満点で一位ですよ」
「「「え?」」」
俺達は、間抜けな声を出していた。
いや、だって満点だぞ?
入試で満点を取る奴なんて、本当にいるんだな。
「なんでそんなに驚いてるんですか? うちの学校に、私なんかと比較にならない頭の良い人がいるじゃないですか」
「え? そんな人いるの?」
「六花ちゃんの満点よりすごい人?」
神代も毎回学年一位ではあるが、点数は満点ではない。
それでもマイナスが五点以内に抑えてるのもおかしいと思う。
そんな奴ら以上に頭が良い奴……。
「……もしかして会長か?」
「天ヶ瀬先輩、正解です!」
まさか、ふと頭に浮かんだ人が正解だとは。
でも、あの記憶力を目の当たりにしたからか、俺は納得できた。
「成績優秀とは聞いてたけど、あんまり話聞いたことないなぁ~」
「ちなみに六花ちゃん、会長って常に満点とか?」
「はい。それも小学校からずっとらしいですよ」
「……あはは」
そりゃ天才って言われるわけだ。
全国模試とかも満点で一位だったりしてそうだな。
「修司……。俺なんか……課題に対するやる気が消えたわ……」
幸太が会長の凄さに圧倒されて、やる気をなくしていた。
「……僕もそんなに頑張らなくていい気がしてきた」
おいおい、片桐にも伝染してんじゃねーか……。
「お前ら、あんな化け物と比べても仕方ないだろ。片桐は普通の学生からしたら、かなり良い成績なんだから気にするなよ」
「そうですよ! 会長がおかしいだけですから!」
いや、慰めてる速水さんも大概ですよ……。
「……天ヶ瀬はこの話を聞いて、なんで平気そうなんだ?」
「……そうだぞー」
片桐と幸太が虚ろな目をして、そんなことを言って来た。
驚きはしたけど、自分が凹むのは何か違う気がする。
「別に誰かと競うために勉強しているわけじゃないからな。あくまで、自分が困らない程度にやってるだけだ」
俺は二人にそう言った。
というか、幸太なんか比較対象にもなれないんだから、気にする意味がないと思うのだが。
「……確かに天ヶ瀬の言う通りだな」
片桐は持ち直したようだ。
で、幸太の方はというと。
「……困らない程度にも勉強してない俺って」
ああ……更に落ちてやがる。
普段は明るいのに、一度に結構なショックを受けると、落ちるところまで落ちるんだよなぁ。
開いていた自分のノートを丸めて、幸太の頭を叩いた。
「痛ってぇ!」
「んなこと気にする暇があるなら、さっさと課題終わらせるぞ。ほら問題を見ろ」
「……えぇ」
「文句あるのか」
「いえ! やります!」
幸太を一瞬睨むと、姿勢を正して勉強する体制に戻った。
「片桐。面倒だと思うが、俺にも教えられない問題があるから、その時は幸太に教えてやってくれないか?」
「あっ……ああ。わかった」
「修司、ここわからん~」
「そこはさっき説明しただろ。ノートを見返せ」
そう言いながら幸太の勉強を見る。
「……一馬先輩。天ヶ瀬先輩って……結構スパルタなんですね」
「……ああ、僕もそう思った」
正面の二人が何か小声で話していたが、気にせず幸太に勉強を教え続けた。