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第二十八話 お隣さんの頼み

「は~い! じゃんけん大会の列は、こちらになりま~す!」


 多くの人達が列に並んでおり、その中に俺と神代はいた。

 俺達が、なぜこんなところにいるのかというと、少し話が戻る。




「天ヶ瀬君! この通り!」


「わっ、わかったから、その頭をあげてくれ」


 神代が、九十度のお辞儀して頼み込んできた。

 そんな神代に圧倒されて、俺は頼みを聞いてしまった。


「本当に!? ありがとう! 明日の朝九時に、最寄り駅で待ち合わせね!」


「あっ、おい!」


 それだけ伝えると、神代は自分の部屋に戻って行ってしまった。

 正直、訳が分からないままだが、あの必死な様子の神代を見て断るのも忍びない。

 俺は約束通り、待ち合わせ場所に行くことにした。




 次の日。

 待たせるのも申し訳ないので、予定の時間よりも三十分早く駅に着いた。

 まだ神代は来ていないだろうと思い、携帯で暇を潰しながら待とうとした。

 その時、急に肩を叩かれた。

 誰だと思い振り返ると、長い黒髪で黒のベレー帽をかぶり、大きめの黒縁眼鏡をかけた可愛らしい女性がいた。

 その可愛さに少し見惚れて、固まってしまった。


「え? どうしたの天ヶ瀬君」


 その女性は、不思議そうな顔で俺の名前を呼んできた。

 その声に聞き覚えがあり、女性の名前を確認した。


「……神代か?」


「正解。前から上手く変装できてるのはわかってたけど、天ヶ瀬君がその反応なら問題なさそうね」


「……当たってるのか。いや、それよりもお前……その髪」


 入学してすぐに、神代の金髪が地毛というのは、噂で聞いていた。

 だが、今日の神代は金髪ではなく、まさかの黒髪だった。

 髪の色が違うことに驚いて、俺はすぐに髪について聞いてしまっていた


「ああ、これ? これ実はウィッグなの」


「ウィッグ?」


「そう。金髪だと目立つから、一人で何か用事があるときはウィッグをつけてるの」


「この前出掛けてた時は金髪だったと思うが……」


「それは気にしなくてよかったもの。天ヶ瀬君は、私と一緒にいるの気にするでしょ?」


「確かにそうなんだが……」


 結局美少女といることは変わらないし、これはこれで幸太とかに見つかった時に、誰!? とか言われそうではあるのだが。


「そんなことより、早く行こ!」


「ちょっ! おい!」


 神代は早々と改札を通って行くので、俺はその後を追った。




 電車で揺られて、俺達は隣街まで来た。

 駅から出ると、そのまま目的地へ歩いてるようだった。

 未だに何処に行くのか、何をするか分からないままだったので、俺は神代に聞いた。


「なぁ。結局、今日は何を手伝ってほしいんだ?」


「ああ! 今日はこれに一緒に出てほしくて」


 神代が携帯の画面を見せてくる。


「特大ぬいぐるみのじゃんけん大会?」


「そう!」


 画面に映っていたのは、今日のイベント告知のもので、某すみっこで生活するキャラクターのイベントだ。

 そのイベントは、参加者の中で勝ち残った一人だけが、キャラクターの大きなぬいぐるみをもらえるらしい。

 告知情報をみると、縦が約70cmで横が54cmとかなり大きめだ。


「え? 俺もこれに出るのか?」


「もらえる確率を少しでも上げておきたいの!」


「……俺がもし勝った時は神代がもらうと」


「そう! もし二人とも負けちゃっても、お礼は必ずするから!」


 神代は真剣な表情で、そんなこと言ってきた。

 どうやら、かなり欲しいみたいだ。


「それなら、一之瀬や会長とかにも頼んだ方が良かったんじゃないか?」


 俺がそう聞くと、神代はしょんぼりして残念な顔をする。


「一之瀬さんにはこういうのが好きなことを話していないし、会長はお願いしてみたけど用事があるって……。事情を知っている天ヶ瀬君しか頼めないの……」


 神代は。少し潤んだ瞳の上目使いで頼んできた。

 普通の男なら、完全惚れてしまうような仕草である。

 だが、これは完全にわざとやっているというのが分かった。

 それでも可愛いのは可愛いのだが。


「……お前それわざとだろ。あざといぞ」


「あーやっぱりばれた?」


「はぁ~……。まぁこれに関しては手伝う」


「ほんと!」


 さっきまでと違い、瞳を輝かせて神代が俺を見てくる。


「ああ。この前のお詫びとしてってことでな」


「む~、それは気にしなくていいのに……」


「それでいいなら一緒に参加してやる」


「えー……。じゃあ、それでお願いします」


 神代は渋々だったが、納得してくれた。


「でも、勝てなかったらすまんな」


「別にそれは気にしないから大丈夫。せっかく欲しいものが手に入るチャンスがあるのに、動かないのが勿体無いと思ってただけだから」


「……そうか」


 神代の言葉が、俺の考えと近いものがあって、少し好感を覚える。

 何事にもチャンスが来た時、それを活かすも殺すも自分次第。

 何もせず諦めるのも選択の一つだし、あがきもがいて掴みに行くのも一つ。

 タイミングや運が良ければ、何もしなくても手に入れられることもあるだろうけど。

 まぁ俺は心が折れて、色々諦めた人間だが……。


「それじゃあ、参加券をもらいに行かないとだから! 早くいこー!」


 神代は良い笑顔で歩き出した。

 そんな神代を見て、たまにはこんな日があってもいいかと思った。


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