第二十七話 ゴールデンウィークと母親からの連絡
あれから、特に何事もなく日が過ぎていく。
普段通り学校に行って、放課後になったら早々と帰宅する。
ただ、前と比べて少し変わったこともある。
今まで話をする相手は桜花夫婦の二人だけだった。
それが、たまに片桐と話すことが増えた。
基本的に片桐と会話する時は、周りに人がいない時や朝ばったり会った時に、軽く話す程度だ。
その際、片桐から前のような嫉妬の視線などはなくなっていた。
速水との関係は保留中みたいだが、お昼を一緒に食べたり、デートなどはしているみたいだ。
神代とは、湯呑みを返す時に少しだけ会話をした。
それからはマンションですれ違った時に、挨拶を交わすくらいしかしていない。
学校では、出来るだけ干渉しない約束があるため、お互いに話しかけることはない。
そんな生活が続き、あっという間にゴールデンウィークに突入した。
ゴールデンウィーク初日は、部屋の掃除と宿題を消化して、ある程度やるべきことを終わらせる。
そして次の日、俺はだらけていた。
「……休み最高」
ソファで横になって携帯で動画を見ながら、そんなことを呟いた。
普段の休みなら、買い物や予習復習、軽めの掃除などして、後は読書するという繰り返し。
だが長期休みだと、初日にやることを済ませてしまう。
そのため、まだ休みが残っていると思ってしまい、ずっと横になって何もしないようになる。
せっかく自由な時間が多いのだから、趣味の読書でもすればいいことはわかっているが、わかる人にはわかると思う。
長期休みになると、まだまだ時間があると思って、だらけてしまう日があることを。
俺にとって、今日がその日だ。
そんな感じでだらけていると、携帯が着信画面に変わる。
電話をかけてきたのは、母さんだった。
「はい」
「修司? 久しぶりね~」
「急にどうしたの?」
「用事がないと、電話しちゃだめなのかしら?」
「いや……そういうわけじゃないけど」
母さんの声が少し低くなったため、俺は少したじろぐ。
「ならいいわね。電話したのは、全然修司が連絡してこないからよ」
「してこないって……。用もないのに電話かけるのって、なんかおかしくない?」
「おかしくなんかないわよ。親はいつだって子供の声を聞きたいものなのよ」
「そういうもん?」
俺は良く分からなかったため、少し疑問に思う。
まだ子供の俺が、分かるはずがないんだろうけど。
「そういうものよ。ところで、一人暮らしはもう慣れたの?」
「結構なれたかな。母さんに料理を教えてもらったおかげで、自炊できてるし、部屋の掃除も小まめにやってる」
「そう? ならよかった」
母さんは安堵した声色で、そう言った。
やっぱり息子が一人暮らしをするということで、少し心配をかけていたようだ。
今後、小まめに連絡をしようと思う。
「そっちは何か変わったことあった?」
「なんにも。いつも通りよ」
「そっか」
「ゴールデンウィークは、こっちに帰ってくるの?」
「いや、やめておくよ」
「……そう」
俺が実家に帰らないことを伝えると、母さんは少し寂しそうにする。
「お母さんとしては早く仲直りしてほしいんだけど……」
「ごめん、母さん。沙希にとって、このままの方がいいと思うから」
俺は、自分の考えを変えないことを伝えると、母さんは軽くため息をついた。
「ほんと……司さんの変なところが、似ちゃったんだから」
「どういうこと?」
「そのうち分かるわよ」
前にも父さんに、言葉足らずのところが自分と似ていると言われた。
思ったことは率直に伝えているから、そんなことはないと思う。
だが、母さんも同じことを言うということは、やっぱり父さんと何処か似ているのか。
そんなことを考えていると、母さんが夏休みの話をしてきた。
「ゴールデンウィーク中は修司の家に行けないけど、夏休みはお父さんと一緒に様子を見に行くから」
「泊まったりするの?」
「日帰りよ。そのままお父さんとデートしてくるの♪」
「……仲が良くて何よりです」
俺の両親は、かなり仲が良い。
タイプの違う二人ではあるが、子供の頃から夫婦円満である。
相変わらずの仲の良さに、呆れて敬語になってしまった。
「じゃ、そういうことでよろしくね~」
母さんは、そう言って電話を切った。
久しぶりに母親の元気な声を聞いたため、教えてもらった料理でも作るかと考えていると、携帯が震える。
『今家にいらっしゃいますでしょうか!?』
妙な口調のメッセージが、神代から届いた。
ものすごく怪しい雰囲気を感じる。
メッセージの雰囲気から分かる通り、急ぎの用事ではあるようなので、俺は簡潔に返信した。
『ああ。今家だ』
返信した瞬間、俺の部屋のインターホンが鳴った。
まさかと思いながら玄関の扉を開けると、真剣な表情の神代が立っていた。
「手伝って下さい! お願いします!」
「え?」
玄関の扉を開けた俺にそう言って、神代は九十度のお辞儀をしてきた。