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第二十六話 お隣さんと一件落着

 教室に戻ると、神代が俺の様子を窺っているように見えた。

 席に座って、何か用かと神代にメッセージを送ろうとすると、すでに神代からメッセージが届いていた。


『片桐君と何処かに行ったけど、私が関係してること?』


 神代の方を見ると、少し不安そうにしていた。


『昨日のお礼を言われただけだ』


 そうメッセージを送ると、授業開始のチャイムが鳴って、神代が授業の準備をする。

 その時、急に携帯が震えたため、神代は背筋を伸ばして驚いた。

 そんな様子に、俺は思わず軽く笑ってしまい、すぐに笑いを堪える。

 しかし、すでに俺が笑ったことが、神代に気付かれていた。

 神代は顔を少し赤くし、頬を膨らませて、先生が来るまで俺を睨んでいた。




 俺は学校が終わって帰宅すると、夕食などを一通り済ませる。

 その後は、最近疎かになっていた勉強をしていた。

 集中力が切れて、ふと時計を見ると始めた時間から二時間くらい経っていた。

 少し休憩を取ることにして、外の空気を吸いにベランダへ出る。

 しばらくすると、隣の部屋から窓を開ける音が聞こえた。


「あ、やっぱりいた」


 神代は今帰ってきたばかりなのか、制服のままだった。


「やっぱりってなんだよ」


「今日、片桐君に呼び出されてたから、また気分転換にいるのかなぁって思って」


「それとは別に関係ない。ただ外の空気を吸いに来ただけだ」


「ふーん、でもまぁいっか。はいこれ」


 神代は興味がなさそうに答え、湯気がゆらゆら出ている湯呑を、俺に差し出してきた。


「……これはなんだ?」


「玄米茶。疲れた時とかに効くらしいから、今日の天ヶ瀬君にいいかなって」


「……いただきます」


「どーぞ」


 神代が自分用の湯呑でお茶を飲んでいるので、俺もゆっくりとお茶を飲んだ。

 お茶を飲んで落ち着いていると、神代の表情は一変して少し睨んできた。


「今日のお昼休憩の終わり際、あんなに笑わなくてもいいじゃない」


「すまんすまん。神代のあんな反応見たことなかったっていうのと、無理な体制で寝ている時に起きる現象に似ていて、つい笑ってしまった」


「う~……そんな反応されると、なんか怒りにくい……」


「どうしてだ?」


「だって、天ヶ瀬君ってめったに笑わないじゃない。軽く笑ったりとかはするかもしれないけど、しっかり笑ったところなんか初めて見た。私と話している時って、大体嫌そうな顔だったり、興味なさそうな顔しかしないし」


 そう言われて少し考えてみるが、自分としては笑っている方だと思う。

 幸太と話してるときとか、結構笑ってると思うんだが……。

 おそらく、神代と話している時の内容が面倒事についてなので、俺のテンションが低いからだと思う。


「神代と話すときは、面倒な事が起きているときだからじゃないか?」


「……確かに」


 神代は、納得した様子でお茶を飲んでから、話題を変えてきた。


「……結局本当にこれでよかったの?」


「ああ、全部丸く収まったからな」


「う~ん。天ヶ瀬君にとっては、目立たない方がいいんだろうけど、どうしてそこまで目立たないようにするの?」


 俺はお茶を飲んで、一息ついてから答える。


「俺が関わらなければ、結局丸く収まるってことに気づいたって話を、前にしたのは覚えてるか?」


「うん」


「でも今回みたいな、知り合いや友達のそういう場面に遭遇した時に、いくら結果的に丸く収まるだろうと思っていても、見て見ぬ振りはしづらい」


 神代は両手で湯呑を持ったまま、真剣に俺の話を聞いている。


「だから、できるだけ周りと関係を持たないために、目立たないようにしているんだ。目立つと、良い意味でも悪い意味でも関わろうとする奴が現れるからな」


 話が終わると、神代はとても優しい目で俺を見ていた。


「優しいんだね」


 ――――君は優しいんだね


 神代のその言葉を聞いた俺は一瞬だけ、誰かの言葉と重なった。

 それが誰かなのかは思い出せないけど、頭の片隅にその人の言葉が記憶をよぎった。


「えっ、どうしたの? 私何か変なこと言った?」


 急にぼんやりとしてた俺を心配して、神代がそう言ってきた。


「……あ、いや大丈夫だ。別に変なことは言っていないぞ」


 神代の声で我に返り、そう言った。


「そう? ならいいけど」


「……とりあえずあれだ、今回の件はこれで終わりだ。これ以上、何かあることはないと思うぞ」


「そうなの?」


「俺の経験上だとな」


 そう言って、俺は残ってるお茶を飲み干した。


「お茶美味かった。湯呑は洗って返す」


「まとめて洗うから、別にいいのに」


「洗って返さないのは、俺が気にする」


「わかった。じゃあ、そっち湯呑はお願いするね」


 俺が引かないだろうわかると、神代はそう答えた。


「じゃあ、また明日な」


「また明日ね」


 俺達は挨拶をして、お互いの部屋に戻った。

片桐君と速水さんの話はこれで終わりになります。

この二人の話は終わりましたが、二人は今後も登場する予定です。


よかったら今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日も面白かった!! 1日頑張る気力がもらえた!
2019/11/11 08:22 退会済み
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