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第二十五話 美少女後輩とイケメン君のお礼

 次の日、なぜか片桐が昼食に誘ってきた。

 断ろうかと思ったが、話したいことがありそうだったので、仕方なく付き合うことにした。

 俺達の様子を見て、周りの奴らが興味本位に集まってきそうになった。

 だが、片桐が説得してくれて、二人だけで飯を食べるようにしてくれた。




 場所は中庭で食べるらしく、俺は購買で適当にパンを買いに行ってから向かう。

 指定された場所に着くと、そこには片桐だけではなく速水も一緒にいた。

 二人は速水が用意したであろう、レジャーシートに座って待っていた。


「すまん、待たせたか」


「いや、たいして待ってはいないよ」


「はい、全然です」


 二人がそう言って返してくれたので、俺は靴を脱いでレジャーシートに座った。


「私達って、ちゃんと自己紹介してないと思うんですよ! 目撃者さんとしか言わなかったですし、一馬先輩に聞いて、やっと名前わかったくらいなんですから!」


 俺が座ると、速水がすぐさまそう言ってきた。


「そうとしか言ってないんだから、そりゃそうだろうな」


「では、改めまして! 一年の速水六花(はやみりっか)って言います! 生徒会役員で、こんなんでも勉強はできる方です!」


「ん、天ヶ瀬修司だ」


「え! それだけ!?」


「あー、趣味は読書だ」


「え~、一馬せんぱ~い。この人もしかして陰キャラですか?」


「言ってしまえばそうかな」


「お前ら……喧嘩売りに俺を呼んだのか……」


 俺は軽く睨むが、二人は誤魔化すように笑って受け流していた。


「ちなみになんだが、僕の名前は覚えているよな?」


 片桐が急にそんなことを聞いてきたので、すぐさま答える。


片倉一人(かたくらかずと)


片桐一馬(かたぎりかずま)だ! しかも名前の方は、さっき六花ちゃんが呼んでいたからわかるはずだろ!?」


「すまんすまん。間違えた」


 丁度、最近読んでいた本が歴史もので、その登場人物の苗字が口から出てしまった。

 名前の方はわざとだ、やっぱりこいつ意外と乗りが良い。

 俺は片桐で遊ぶのをやめて、パンの袋を開けながら二人に聞いた。


「それで、俺が呼ばれた理由はなんだ?」


「この前のお礼を言いたかったからです!」


「僕の方からも改めて、お礼を言おうと思ったからだ」


 ……気にしてくれないほうがよかったんだけどなぁ。


「あの時は助けていただいて、ありがとうございます!」


「本当にありがとう」


 二人はそう言って頭を下げてきた。


「やめろやめろ。ここでそんなことすると、周りの奴に見られるから勘弁してくれ」


「そっ、それもそうだな。ごめん」


 やっぱり片桐は俺が言ったこと覚えていて、昨日のことを周りの奴らに話さなかったらしい。


「昨日のことを周りの奴らに言わなかっただけで、お礼としては十分だ」


「いやあれは……」


「確かに、言えないような雰囲気ではあったかもしれない。それでも言わないって決めたのはお前だろ? なら、お礼としては成り立ってるから、もう気にするな」


 俺がそう言うと、片桐はまだ申し訳なさそうな顔をしている。


「じゃあ! 私はお礼をする必要があると思います! まだ何も返してないですし!」


 話の内容を聞いた上で、速水がそう言ってきた。


「特に何もいらん」


「え~、それだと私の気が済みません! あ~このままだと、天ヶ瀬先輩のせいで罪悪感に押しつぶされて、精神が病んでしまいます~」


 速水はお礼の押し売りをするために、そんなことを言ってきた。

 この後輩すげー面倒くさい奴じゃん……。


「じゃあ、適当に飲み物を奢ってくれ」


「わかりました! 今から行ってきますね!」


「あ! おっ、おい!」


 速水は俺の言葉を待たずに靴を履いて、走って飲み物を買いに行ってしまった。

 呆れている俺に対して、片桐は横で笑っていた。

 さっきまでの申し訳なさそうな顔が嘘のようだ。


「あんま笑うなよ」


「いや~悪い。いつもおもちゃにされている側だったから、天ヶ瀬が振り回されているところを見るのが面白くて」


「ちっ……」


 少しすると片桐の笑いが収まったので、俺は気になったことを片桐に聞くことにした。


「速水とこんな風に飯食ってるが、神代の方はもういいのか?」


 片桐は、いつもの爽やかな顔をしてこちらを向いた。


「どうなのかな、確かに神代さんに対する恋心はまだあると思う。でもそれと同時に、六花ちゃんの気持ちが無視できないくらいに、自分の中で大きくなっている感じがする」


「……そうか」


「天ヶ瀬が前に言った、あんなに自分のことを想ってくれてる子なんかそうそういないって言葉。あの時は、そんなことあるわけないって思ってた。今まで僕と付き合いたいと言ってきた子達は、僕のことが本当に好きかどうかよりも、ステータスとして付き合いたいって子が大半だったからさ」


 俺は黙って片桐の言葉を聞く。


「でも、六花ちゃんは僕という人間を見て、本当に好きになってくれていると、この前の件で感じたんだ。だから、六花ちゃんの想いと真剣に向き合って、答えを出そうって決めた」


 そう言った片桐の顏には、決心にも近いような男の顔をしていた。


「いいんじゃないか。自分の気持ちも大切にしてるし、相手の気持ちも軽んじていない。それだけで、軸がぶれてる俺よりはマシだよ」


「どういうことだ?」


 片桐が、俺の言葉の意味を聞いてきた。

 だがタイミングが悪く、速水が戻ってきているところだった。


「まぁ、これから頑張れって話だ」


 俺はそう言って立ち上がり、速水が買ってきた紙パックの飲み物を受け取った。


「あれ? 天ヶ瀬先輩、もう戻るんですか?」


「ああ。こんなところにずっといて、馬に蹴られたくないからな」


「あ! ありがとうございます! 私、頑張りますね!」


 そう言った速水に対して、片桐が苦笑いをしていた。

 だが屋上の時とは違って、片桐の表情はまんざらでもなさそうだった。




 歩きながら渡された飲み物を確認すると、マンゴージュースと書いてあった。

 少し悩んだ後、ストローを刺して一口飲んだ。


「あー……やっぱりいまいちだな」


 正直に言うと、果物の中であまり好きでないのがマンゴーだった。

 口に出来ないほど嫌いと言うわけではないが、めったに口にしたりはしない。

 だから、これに関しては頑張って飲み切った。

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