第二十三話 友達のお礼と仕返し
昨日色々あって早く寝たせいか、いつもより早く目が覚めた。
今から準備して学校に行けば、まだ誰も登校していないだろう。
去年は満員電車を避けるために、このくらいの時間に登校していた。
その時は予習や読書をして、朝の時間を有意義に使っていた。
そのことを思い出した俺は、いつもより早く学校に行くことにした。
学校に着くと、やはり教室には誰もいなかった。
自分の席に座って、いつも通り本を開いて読み始める。
しばらくすると、ちらほらとクラスメイトが登校してきた。
そのまま特に気にせず本を読んでいると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「天ヶ瀬君、昨日はありがとうございました!」
本から視線を上げると、お礼を言ってきたのは一之瀬だった。
「あー……おう」
俺は昨日のことについて、お礼を言われることに納得できていない。
しかし、神代に素直に受け取るように言われてしまったためか、何とも言えないような返事を返してしまった。
「何か様子が変ですけど、どうかしたんですか?」
「あーなんていうか……一之瀬。まだあんまり人がいない教室で、その声の大きさは目立つから勘弁してくれ」
俺がそう言うと、一之瀬は自分の状況に気付いて、恥ずかしそうしながらも、周りに何でもないとアピールをした。
「その……ごめんなさい」
「悪気があったわけでもないんだ。気にするな」
恥ずかしさが抜けていないのか、一之瀬は小さい声で謝ってきた。
そんな会話をしていると、幸太が勢いよく教室に入ってきて、そのまま俺達の方に向かってきた。
「修司!」
「あっ、幸君!」
「修司! 昨日は本当っにぃ!」
「周りを見ろ。あと少し声のトーンを下げろ」
向かってきた幸太に対して、一之瀬はさっき受けた注意を幸太にも伝えようとしたのだろう。
しかし、幸太が何か言おうとしてきたところで、俺が幸太の頬を潰して話せないようにしていた。
幸太は、俺の注意に対して頷いたので手を離してやる。
「昨日は陽香のことを助けてくれてありがとな」
「……う~ん。ん?」
幸太にもお礼を言われて、一之瀬の時と同じように何とも言えない返事をした。
だが翌々考えてみると、確かに揉め事を収めたのは俺かもしれないが、その場で一之瀬を助けたのは、神代であることに気づいた。
「昨日のことを思い返すと、一之瀬を助けたのは俺じゃなくて神代だと思うぞ」
「それでも、速水さんと神代さんを助けてくれたのは天ヶ瀬君じゃないですか。私が助けを呼ぶ前に、二人を助けてくれたからお礼を言ったんです」
「じゃあ一之瀬のお礼は受け取るけど……。幸太は、俺じゃなくて神代にお礼を言ってくれ」
「話を聞くとそうするべきだな!」
幸太は、素直に俺の言ったことを聞いて、神代にお礼を言うつもりらしい。
こいつ素直すぎて、いつか詐欺にでも引っかかりそうで怖いな。
それから俺達は、昨日のことについて話をした。
速水さんが、神代を連れてくるという餌をちらつかせて、片桐と遊ぶ約束を取り付けた。
その約束のために誘われた神代は、一之瀬が一緒という条件で遊ぶことにしたらしい。
幸太が一緒じゃなかったのは、その日用事があったからのようだ。
色々話しているうちに時間が過ぎており、神代が登校して来て俺達に挨拶をした。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「おはよう! 神代さん!」
「おはようさん」
俺達が挨拶を返すと、神代は自分の席に座る。
「神代さん! 昨日は陽香を助けてくれてありがとう!」
「えっ……ど、どういうことですか?」
「修司から、危険な場面で神代さんが陽香を逃がしてくれたって」
神代は一瞬だけ俺の方を見て、すぐに幸太の方に視線を戻した。
ただ、一瞬だけ向けられた神代の目には、なんでそんなこと言っているのよと言いたそうな目だった。
そんな神代の目に気付かなかった振りをして、俺は読書を続ける。
「えっと、はい。一之瀬さんに何かあっては、赤桐君に申し訳が立ちませんからね」
神代は、少しからかうような笑顔でそう言った。
「かっ! 神代さん!」
「あはは! 本当にありがとう!」
一之瀬は顔が真っ赤になって恥ずかしがっていて、幸太も照れてはいたが開き直って笑っていた。
そんな様子を見て和んでいると、ポケットに入れていた携帯が震えた。
どうやらメッセージが届いたようで、画面を確認すると、送り主は隣にいる神代だった。
『一之瀬さんのお礼は素直に受け取るって話だったでしょ。なんで私がお礼の言葉をもらってるの!?』
そんな内容だったので、俺は簡単に返信した。
『幸太からのお礼は約束に含まれてない』
俺が返信すると、神代はすぐさま確認して、新しく返事を書いてるようだった。
そんな神代を横目に、俺は携帯をマナーモードにして鞄の中にしまう。
神代は軽くこちらを睨んでいたようだったが、何も気づかなかった振りをして会話を楽しんだ。
後々、休憩時間に携帯を確認すると、『そういうのを屁理屈って言うこと知らないの?』と『なんで見ないのよ! バーカ! バーカ!』と書かれた、二件のメッセージが送られていた。