第二十一話 解決報告
海斗達がいるところに戻ると、片桐が怪我の手当てをされていた。
その場には一之瀬もいて、海斗が上手く話をしてくれたのだろう。
「もう終わったのか?」
「ああ。これに懲りて、大人しくするだろうな」
鎮圧に成功したことを伝えると、一之瀬が不安そうな顔をしていた。
「あ、天ヶ瀬君の方は……大丈夫なんですか?」
「ちょっと取っ組み合いになったが、問題ない」
「そっ……そうですか……」
怖い思いをしたのにも関わらず、他人の心配をできる一之瀬は、本当に優しい奴である。
幸太には勿体無いなと思っていると、片桐が口を開いた。
「情けない……。六花ちゃんを助けられず……挙句の果てに、神代さんに庇われて……」
片桐は下を向きながら、自分の無力さに打ちひしがれて、涙を流していた。
そんな片桐を見て、海斗や一之瀬は何も言葉をかけられずにいる。
「別にそんなことないだろ」
俺がそう言うと、片桐が少し驚いたような反応したため、そのまま続けた。
「絡まれている時のお前を見てたけど、どうすればこの状況を回避できるか探っていたじゃねぇか。周りに駆け込める店がないか、交番はないかとか。最悪の場合、自分が囮になってでも、三人を逃がすくらいは考えてたんだろ?」
俺の言ったことが的を射ていたようで、片桐は驚いて俺を見てきた。
「今回は、場所もタイミングも悪かっただけだ。俺みたいな方法で解決するより、よっぽど偉いと思うぜ。正直、こういうことが起こらないように動くのが一番良いけどな」
片桐は少し気持ちが楽になった様子だが、今度は別のことでショックを受け始めた。
「こんな情けない男なんか、神代さんに……。いや、速水さんにも幻滅されただろう……」
「あいつらなら、そんなことを思わないと思うが……。気になるなら、あいつらに直接聞いてみろ」
俺はそんな言葉を、片桐に返す。
すると、一之瀬が切羽詰まった様子で、俺に問いかけてきた。
「あの! 神代さんと速水さんが一緒ではないですけど、無事なんですか!?」
「ああ。あいつらには先に走って逃げてもらったから、大丈夫だと思うぞ。多分一之瀬の方に、連絡が来ているんじゃないか?」
「え? ……あ! 今来ました! よかったぁ」
どうやら、二人は逃げるのに必死で、ようやく落ち着いて連絡できるようになったんだろう。
「どこにいるとか書いてあるか?」
「はい! えっと、駅の近くの喫茶店のようです!」
駅近くなら交番もあるし、喫茶店などもあるから、多分そこにいるだろう。
速水は軽くパニックになってたから、きっと神代の判断だな。
「このままここにいるのも危ないから、そっちに向かうと伝えてくれ」
「わかりました!」
一之瀬は、すぐさま神代にメッセージを送っていた。
「あとは、また絡まれるのも嫌だろうから、ボディーガードととして、こいつを連れていけ」
俺はそう言って、海斗の肩に手を置いた。
「おい。何を勝手に決めているんだ」
海斗は不満そうな顔で、俺の手を払いのけた。
「えっと、そういえばそちらの人は?」
少し落ち着きを取り戻してきた一之瀬は、海斗について聞いてきた。
「こいつは中学の友人だ」
「唯一のな。初めまして、黒田海斗と言います」
「一之瀬陽香と言います」
海斗と一之瀬が、お互いに自己紹介する。
海斗に片桐も紹介しようとすると、怪我の手当てをしている時に済ませたと言われた。
紹介が終わったところで、話を元に戻した。
「それじゃ二人は、海斗を連れて神代達と合流してくれ。流石に電車で移動すれば、もうこんなことは起こらないと思う」
「天ヶ瀬君は、一緒に来ないんですか?」
「ああ。神代と関わらないって約束があるから、一緒に行けない。あと、買い忘れたものがあるから、それを買いに行く」
「後者は、お前の都合だろう」
「そうだよ。悪いけど、今度なんか礼するから頼むわ」
「はぁ~。仕方ない」
その会話を聞いて、一之瀬は不思議そうな顔をする。
片桐は気まずそうな顏しながら、俺に話しかけてきた。
「天ヶ瀬……。今回のことで助けられてしまったから、あの約束はもういい。神代さんを助けたのもお前だから、好きにしてくれ」
片桐から、神代に関わらないという約束をなかったことにされたが……。
「なら、俺の好きなようにするわ。じゃあな」
その言葉を聞いて、一之瀬と片桐は驚いた表情をしていて、海斗は手を前頭部に添えて呆れていた。
そんな三人の様子など気にせず、俺は適当に歩き始めた。