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第十八話 お隣さんと雑談

 今日一日疲れてしまった俺は、ベランダでいつもの飴を咥えながら、外を眺めていた。

 俺が住んでいるマンションは六階建てで、俺の部屋は五階の角部屋にある。

 外から見える景色は、ほとんどがビルになっていて、後は道と街灯くらいだ。

 今はもう二十時を過ぎて暗くなっており、ビルと街灯の明かりが良く目立つ。

 ただぼーっと景色を眺めていると、隣の住人である神代がベランダに出てきた。


「はぁ~」


 神代はため息をつきながら、ベランダの手すりにもたれ掛かった。

 俺は特に声をかけるわけでもなく、そのまま外を眺めていると、神代の方から声をかけてきた。


「天ヶ瀬君もベランダに出てたのね……」


 その声色は、普段の落ち着いた感じとは掛け離れたもので、表情が憔悴しきっていた。


「……ああ」


 答えるのも面倒くさくて、短く返事をする。


「……どうしたの。だいぶ疲れた顏してるけど……」


「……それはそっちも同じだろ」


 神代曰く、俺も憔悴している顏のようだ。

 疲れているとは思っていたが、自分がそんな顔をしていることに少し驚く。


「……生徒会が忙しかったのか?」


 俺はふと、そんなことを聞いていた。


「……生徒会は別に忙しくなかったんだけど……速水さんがね」


「速水さん?」


「あぁ……生徒会役員の子なんだけどね」


 どうやら生徒会役員の速水さんって子が、何かやったらしい。


「その子に質問攻めされて……」


「質問攻め?」


「えぇ……あーもう! 同じクラスってだけで、片桐君のことなんか何も知らないのに!」


 神代は疲れていた感じから、急に苛立ち始めた。

 たぶん速水さんって人から、片桐のことをやたら聞かれたんだろう。

 うわぁ……すごく嫌な予感がする。


「彼のクラスの立ち位置や普段の様子なんか興味ないのに……私が知るわけないでしょ!」


 興味のない男の情報をやたら質問されたようだ。

 わかる……わかるぞ。

 幸太と軽く話す程度の関係だった時に、やたら女子が幸太について聞いてくる怠さに近いのだろう。

 その時はそこまで仲良くないから、そんな情報まで知らないのに質問攻めに合う感じ。

 まぁ幸太が一之瀬と付き合ってから、そういうことはなくなったけど。


「結局色々聞いた後に、あ~よかったぁ~神代先輩が全然興味なさそうで! って何!? なら最初から聞いてこないでよ!」


 神代は苛立ちを発散させるかのように、両手で髪の毛をぐしゃぐしゃにしている。

 そんな神代に、俺が予想している人物と一致しているか、確認を取ることにした。


「あーちなみにその速水さんの名前って、六花って名前か?」


「そうよ!」


 どうやら、予想した人物で間違いないようだ。

 俺は予想が当たり、その子が神代に色々聞いたことに納得した。

 しかし、安心したとか言っていたけど、結局不安な部分はあったのか。

 そんなことを考えていると、神代は嫌そうな顔でこちら見ていた。


「え……やめてよ? 今度は天ヶ瀬君が速水さんのことを好きで、あの子について聞きたいとか……」


「そんなんじゃねぇ」


「じゃあ、なんで他人に興味のない天ヶ瀬君が、速水さんの名前知ってるのよ」


「あーそれはだな」


 俺は昨日の話と、今日あった出来事を神代に話した。


「で、結局呼び出されたけど、片桐と速水さんの惚気を見せつけられただけってことだ」


「ごめんなさい。なんかほとんど私のせいっていうか……」


 神代は、俺が巻き込まれたことを申し訳ないと思っているようだ。

 確かに俺も神代のせいでと思っていたが、そんな申し訳なさそうな顔をされると、俺の方が申し訳なくなってくる。


「別にこの前の昼食について謝ってもらってる。この件に関しては、お前は別に何も悪いことしてない。だから気にするな」


 そう言ってみるが、神代の表情は戻らない。

 どうするべきか悩んでいたが、俺はあることを思いついた。


「それなら俺のお礼を返すってことで、速水さんが片桐と付き合えるように手助けしてやれよ」


「えっ? ……えぇっ、ど……どうして?」


 すげー嫌そうじゃんこいつ。


「あいつらが付き合えば、俺達は面倒くさいことがなくなって、全部丸く収まるから」


「んー確かにそうなんだけど……」


「無理にそうしてほしいわけじゃないから、あんまり考えるな」


「ちなみに天ヶ瀬君は手伝ってくれるの?」


「いや俺は、もう神代に二度と関わらないと、片桐と約束したから手伝えん」


「えー何それー」


 それに俺が自分から手助けをすると、ロクなことにならない。

 それなら、あいつらと関係している神代に手助けしてもらうのが、一番丸く収まるだろうと考えた。


「今こうやって、私と話してるくせに……」


「今は学校の奴らが知っている、お嬢様の神代じゃないだろ。俺はただ、お隣さんと雑談しているだけだ」


「っふふ! すごい屁理屈ね」


 神代は軽く笑った後、何か決めたような顔つきになった。


「それじゃあ、私の方で何とかしてみる」


「そうか……すまないけど、頼む。もし困ったら、一之瀬に相談するといいぞ」


「なんで?」


「優しすぎる奴だからだよ。きっと、何か手伝ってくれると思うぞ」


 一之瀬はお人好しのところもある。

 繋がりが深くなった人に対して、偏見や周りの評価なんて気にしない奴だ。

 いつか神代が、素の部分で一之瀬と付き合えれば、なんて柄にもなく思う。


「わかった。困ったら一之瀬さんに相談してみる」


「ああ、そうしろ。あとは頼んだ」


 俺達はそう言葉を交わすと、自身の部屋に戻った。

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