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第十七話 お隣さんの後輩とイケメン君

 昼休み、俺は飯も食わずに屋上に向かっていた。

 朝、下駄箱にメモが入っていた。

 メモの内容は、昼休みに屋上へ来いというようなものだった。

 書いた奴なんか一人しか思い浮かばず、どうせ昨日の続きだろうと思っている。

 それにしても、一々ベタというか古いというか。

 正直、メモを無視して昼飯を食べてようかと思った。

 しかし学校に来る度に、呼び出されることになるのは面倒なので、仕方なく行くことにした。

 幸いにも、学校が終わったら早く帰りたい俺にとっては、指定された時間が昼休み中なのはありがたかった。




 屋上に着くと、まだ誰もいなかったので、購買で買ったパンを食べながら待つことにした。

 パンを一つ食べ終えたところで、予想していた人物が現れた。


「今日は逃げずに来たんだな、天ヶ瀬」


 そう言いながら片桐は現れた。


「昨日の呼び出しの続きか?」


「そうだ! 昨日はよくもあのまま逃げてくれたな!」


 片桐は、こちらを睨みつけていた。

 俺は言われた言葉が腑に落ちず、腕を組みながら首を傾げた。


「ん? あの時は何というか、邪魔かなと思って」


「とぼけるな! どうせ逃げる好機だ、とでも思っただろう!」


 こいつ案外察しが良いな。

 このまま昨日の話をしていてはラチがあかないので、俺は本題の方に移るようにした。


「で? 結局、昨日の呼び出しは何なんだ?」


「それは!」


「あー! 一馬せんぱ~い!」


「うわっ!」


 片桐が何か言おうとした時、後から来た誰かが片桐に抱き付いていた。


「せんぱ~い! こんなところにいたんですね~。私探しちゃいました~!」


「六花ちゃん!?」


 どうやら片桐の知り合いの女らしい。

 やっぱりイケメンは学年関係なくモテるようだ。

 あと名前が一馬ってことは、初めて知った。


「誰かと話してたんですか? あ! 昨日の目撃者さん!」


 後ろから抱き付いた女は、昨日階段から落ちそうになった女だった。

 昨日は後ろ姿と横顔だけだったので、顔を見てもわからなかった。

 茶髪のショートボブで、身長はやや小さめだが、出るところはしっかり出ている女。

 神代や生徒会長には及ばずとも、かなりの美少女だ。


「あ、どーも目撃者です」


「これはこれは、ご丁寧にどうも!」


 俺が軽く会釈をして挨拶すると、女は片桐から離れて、同じように軽く挨拶をした。


「君達! 律儀に挨拶を交わすな!」


 そんな俺達に対して、片桐がツッコミを入れた。

 誰にでも愛想が良くて冷静な奴かと思いきや、案外ノリがいい男なのかもしれない。


「あっ先輩、一緒にお昼ご飯食べましょう! 先輩のためにお弁当作ってきました!」


「いや! 僕はこいつに用があって!」


「えーそんなのまた今度でいいじゃないですか~。ね? 早くご飯食べましょう?」


 なんだこれ、もしかしてこんな惚気を見せつけられるためにだけに、俺は呼び出されたのか……。


「あー……もう戻っていいか?」


「いいですよ!」


「だめだ! まだ話が終わってない!」


 どっちなんだよ……。


「昨日も言ったけど、六花ちゃんの気持ちは嬉しい。でも、僕には好きな人がいるから、君の気持ちに答えられない」


「それって、彼女がいるわけじゃないんですよね!」


「いや、それはそうなんだけど」


「だったら! 一馬先輩に好きになってもらえるように、私からアプローチかけていきます! 今日は、その初めの一歩です!」


 えー何このよくあるラブコメみたいな展開……。

 結局、片桐が落ちてハッピーエンドってやつだろ? 主人公とヒロインじゃねぇかこいつら。


「いいじゃねぇか。そんなに自分のこと思ってくれる奴なんか滅多にいないぞ? 神代のことは諦めて、その子の気持ちを真剣に考えてやればどうだ?」


 俺は目の前で見せられている惚気に嫌気が差して、つい本音を口にしてしまった。


「無理だな! 初めての一目惚れを、そう簡単には諦められない!」


 神代のことは、本気も本気のようだ。

 どうしたものかと考えていると、女が驚愕の表情をしていた。


「え? 一馬先輩って……神代先輩のことが好きだったんですか……」


 もうすでに後輩に知られてるって神代の人気はすごいな。

 というか、急に女の声が小さくなったんだが。

 もしかして、本音を口に出したのはまずかったか?


「あ……ああ。僕の好きな人は、生徒会副会長の神代和奏さんだ」


 女は下を向いたまま、その言葉を聞いて少し震えていた。

 いらない情報を知ったせいで、片桐を落とすことを諦めてしまったか?

 俺がそんなことを思っていると、女はものすごい良い笑顔で片桐に抱き付いたのだ。


「やった~!! 一馬先輩の好きな人が、神代先輩でよかった~!」


 俺と片桐は、その言葉に驚きを隠せなかった。

 驚きながらも、片桐は何とか理由を聞いてた。


「えっ、えっと……それはどういう」


「神代先輩って、男の人が好きじゃないって言うもあって、恋愛ごとに全く興味がないんです! でも、女の子とは普通に仲良くできるんで、実は百合なんじゃないかって話があるんです!」


 そうだったのか、神代にそんな噂があるなんて知らなかった。

 そんなことよりも女が神代について、やけに詳しいことが気になった。


「一年なのに詳しいな」


「そりゃそうですよ! だって私、生徒会役員ですもん!」


 おいおい……どいつもこいつも神代に関係している奴ばかりじゃねぇか。

 どんだけ神代関係の面倒事が襲い掛かってくるんだよ……。


「一馬先輩が神代先輩を落とすにしても、ものすご~く時間がかかると思うので、その間に先輩が私のことを好きになるようにしてみせます!」


 後輩の子は嬉しそうにそう言って、両手を胸の前でガッツポーズをして、頑張りますという素振りを見せた。

 それを見た片桐は、どうしたものかとたじたじになっている。

 そんな片桐を見ていると、突然の展開で忘れていたが、呼び出されてこの場にいることを思い出した。

 そもそも俺が、片桐の聞きたいことを答えれば解放されることに気づいた。

 ちょうど後輩の女が理由付けをしてくれたため、このタイミングで片桐が聞きたいであろうことを話すことに決めた。


「おーい片桐。お前が俺に聞きたいことって、この前の昼飯の時のやつだろ? たまたま幸太の付き添いで、一緒に食べただけだ。誘われた理由は、俺が他人に興味がないからってだけだと思うぞ」


「どういうことだ?」


「簡単に言うと、俺なんかが神代と関わる事なんて、もう二度とないから安心しろって話だ」


「本当か?」


「ああ、それと俺は神代が苦手だからな。極力目立ちたくないのに、神代と関わると必ず目立つだろ? それが嫌なんだよ」


 俺はそう言って屋上から出て行こうとしたが、最後に一言だけ伝えておこうと振り返った。


「もう、このことで呼び出すのは勘弁してくれ。それと、お似合いだからお幸せに」


「はい! 私がんばります!」


「やめろ! 応援するんじゃない!」


 最後になんか言われたが、気にせずに俺は屋上から去った。

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