第百五十五話 遭遇と入れ替わり
さっきのナンパ避けの理由にされたわけだし、こうなるとは思っていたけど……まさか諏訪姉も一緒とはな。
昼食を食べ終えた後、俺達四人は目的の店に向かって歩いていた。
和奏と速水が向かおうとしていた文房具の店と本屋は近くにあり、諏訪姉は俺と同じ目的だったため、この女子三人と行動を共にすることになった。
周りの女子を見た後、男のほうはという見定められる視線をひしひし感じる。
「大丈夫ですか?」
「えっ? ああ、大丈夫だ」
和奏は俺の様子が気になって、心配そうに声をかけてくる。
関係ないと気にしてないようにはしていたが、慣れない状況に少し疲弊していたようだった。
心配かけないようにと普段通りの表情を意識する。
「天ヶ瀬先輩どうしたんですか? せっかく可愛い女の子三人も連れてるんだから、もっと浮かれて鼻の下伸ばしてもいいんですよ~?」
「……伸ばしてるのですか?」
「……けだもの」
からかうようにニヤニヤ笑いながら速水が言うと、二人が辛らつな目を俺に向けてくる。
「一ミリも浮かれてないから、二人して速水の冗談を真に受けないでくれ……」
そんな俺を見て速水が楽しげに笑った後、少しだけ嫌な笑みを浮かべて小声で俺に言う。
「でも、満更でもないんじゃないですか?」
そう言いながら、速水は和奏のほうを一瞥した。
「……んわけ。何が起こるかわからなくて気が気じゃない」
「ちぇっ、天ヶ瀬先輩の本音は簡単に聞けなさそうですね」
内心焦る俺には気付かず、速水が残念そうな顔をした。
そんな俺達の様子を見ていた和奏が、何故か不機嫌な様子で声をかけて来た。
「二人して小声で何を話されてるのですか?」
「いえいえ、何でもないですよ? ただ滅多にない機会で、天ヶ瀬先輩が実は恥ずかしがってるんじゃないかなーと聞いてみただけです」
「ふーん、そうですか」
そう呟きながら和奏の足が早々と目的地に向かおうと、一人先を歩き始めた。
「んー! やっぱり神代先輩は可愛いですね!」
速水はそう言って、前を歩く和奏に追いついて隣を歩き始めた。
何がどういうことなのか分かっていない俺は、前を歩く二人を眺めながら歩いていると、隣にいた諏訪姉が話しかけてきた。
「ねぇ?」
「なんだ?」
「本当に神代さんとあなたってどういう関係なの?」
「どういう関係って、神代が言ってただろ? たまたま神代の秘密を知って、それを手助けしてるだけの奴だ」
他にも隣人や恩人だったり、他の奴よりも少し仲の良い異性なんて言い方も出来るけど、それは言わないでおく。
しかし、諏訪姉は俺の言った関係が腑に落ちないようで、何とも険しい顏をしていた。
「……私の思い違い、それとも……鈍感なだけ?」
諏訪姉が横で小さく呟いていたが、よく聞き取れなかった。
「今、何か言ったか?」
「独り言だから気にしないで」
そう一蹴されたため、言われた通り素直に気にしないことにした。
それから俺達は目的地に着いた。
和奏と速水は隣の雑貨屋に、俺と諏訪姉は本屋に入るなり一緒にいる意味もないため、それぞれが欲しい本を探しに行く。
俺は目当ての本を手に取って、レジで会計を済ませる。
その時、ついさっき見た諏訪妹と信城が店に入って来て、運悪く二人と目が合ってしまった。
無視するのも変なので頭で挨拶だけして店を後にしようとした時、最悪のタイミングで諏訪姉が現れた。
「ねぇ、さっきのことなんだけど」
何を聞こうとしてきたのかわからないが、会計を済ませた俺を諏訪姉が引き止める。
「……お前ってさ」
「え、何?」
渋い顏をしながらそう言った俺を見て、諏訪姉はただ不思議そうな顔をする。
正直、本屋に行くだけでも嫌な予感はしていた。
しかし、よりにもよってこんなタイミングじゃなくてもと思いながら、諏訪姉に二人の存在を知らせる。
二人はもうすでに俺達のほうに向かってきて、それを見た諏訪姉は焦り始める。
「な、なんで教えてくれなかったの!」
「いや、そんな暇はなかった」
二人は俺達の側に来ると、諏訪妹が俺のほうをチラチラと見ながら声をかけて来た。
「お姉ちゃんも買い物に来てたんだ。えっと、天ヶ瀬さんと一緒に?」
「ち、違う! たまたま! 偶然! ここで会ったの!」
そんな姉の様子を疑うかのように、諏訪妹が俺のほうに視線を向けてくる。
「こいつの言ってることは合ってるぞ」
「そ、そうだったんですね。なら、二人で遊びに来ていたわけでは――」
「なわけねぇな」
「ありえない!」
そんな俺と諏訪姉の言葉を聞いて、諏訪妹は何故か少し安心した様子をする。
そしてすぐに何かを思い立った様子になる。
「それじゃあ! ここからはお姉ちゃんと優君が一緒で!」
「え! どうして!?」
思わぬ妹の提案に、諏訪姉は動揺する。
「……三人で回ればいい」
「そ、そうよ……いや、そうじゃなくて! 私はいいから二人で見て回れば!」
一番良さそうな提案を信城がするが、諏訪姉が意を唱える。
「いいから二人で行くの! 私はお姉ちゃんが迷惑をかけてた件も含めて、少し天ヶ瀬さんに話があるから」
「えっ、俺に何か?」
「あっ、えっと。はい、少しだけでいいので、ダメですか?」
諏訪妹は二人の背中を押しながら、不安そうに俺に聞いてくる。
巻き込まれてる感は凄いが、普段気弱そうな諏訪妹の頼みを無下にしづらかった。
「……わかった」
「ありがとうございます」
そのまま諏訪妹はチラチラと見てくる二人に手を振って見送った後、俺と一緒に店を出た。




