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第百五十四話 双子姉の不審な行動理由

 店の前を通り過ぎた二人の背中を見送ると、何故か速水がワクワクしながら声を上げた。


「あれってデートですかね!?」


「なんでお前が嬉しそうなんだよ」


「いやーだって、なんかいいじゃないですか! あーいうの見てると、私も一馬先輩と一緒にデートしたいなぁなんて思うんですもん!」


「ああ、そういう感じか」


 速水は何か妄想しているのか、奇妙に体を捩じらせていた。

 大方、片桐との甘いデートプランでも思い浮かべているのだろう。

 そんな速水を放っておいて、俺は諏訪姉に聞く。


「別に俺達まで一緒に隠れる必要はなかったんじゃないか?」


「それは……そうかも。頭が回ってなくて」


 慌てていたせいのようで、諏訪姉は申し訳なさそうにしゅんとなってしまった。

 そんな諏訪姉をフォローするように和奏が言う。


「ほら、あれですよ。もしデートだとしたら、知り合いに見られると恥ずかしいと言う方もいらっしゃいますし……それよりも」


 そう言いながら、和奏が誘導するように視線を別の方に向けた。

 その視線の先には店員が苦笑しながら俺達四人を見ていて、何も買わないなら出て行ってくれと言われてもおかしくない雰囲気だった。

 俺達は平謝りした後、店に連れて来た諏訪姉が申し訳なさから、その店で買い物をしてから一緒に店を出た。


 それから全員昼食がまだだったということで、フードコートで一緒に昼食を取ることになった。

 その際、諏訪姉が俺と和奏の様子を見つつ遠慮していたが、速水の押しと和奏の誘いが決め手となって首を縦に振った。

 俺は色々と見てから自分の昼食を買ったため、すでに三人はテーブルに着いていた。

 そのテーブルを見て、正直気が引ける。

 一人は金髪で整った顔立ちの綺麗な美少女、一人は少し幼さのある可愛い系の美少女、そして二人に埋もれてしまってはいるものの諏訪姉も十分顔立ちが整った女の子だ。

 そんな三人がいるテーブルに、こんな冴えない男が合席すると思うと、場違いで嫌でも目立つ。

 成り行きとはいえ仕方ないと思いながら、そのテーブルに着いた。


「私達は生徒会で足りない備品を買いにきたんですけど、ちょっと男の人に呼び止められてしまって」


「ですです。それで偶然近くにいた天ヶ瀬先輩に助けを求めて、一緒にいただけです」


 会話の内容は、どうして俺が一緒だったのかを諏訪姉が聞いたようだった。


「俺は本の新刊を買いに来ただけだぞ」


「き、気を悪くしたならごめんなさい。神代さんとだったら色々想像したんだけど、速水さんも一緒だったから単純に気になって」


「いや、特にそういうわけじゃ」


 諏訪姉の態度が前と打って変わっていて、会話が変な感じになる。

 敵意だったりがなくなったことはいいことなのだろうけど、なんか調子が狂う。


「あはは。実はここだけの話、天ヶ瀬先輩に助けてもらったことがありまして、その縁で」


「へぇーそうだったんだ」


 速水も諏訪姉と気兼ねなく話をしているところ見ると、和奏と同じ理由で関わる事があるからなのだろう。

 そんなことを思いながら、俺は昼食に選んだ蕎麦に手を付ける。


「それにしても初めてこうやって話しましたけど、話しやすい人でよかったです。もっとキッチリした厳しい人かと思ってました」


「んっ!?」


 速水が俺の思っていたことと全く違うことを口にしたため、俺は驚いて食べていた蕎麦が喉に詰まった。

 あ、これやっばい!

 詰まった蕎麦に咥えて、薬味で使っていたネギが喉に絡み、ワサビのツーンとする辛みが鼻を襲う。


「ちょっと! はい水!」


 必死に胸を叩く俺に、すぐさま和奏が水を差し出してくれた。

 その水を受け取って、俺は蕎麦を流し込んだ。


「はぁ~ありがとう。助かった」


「急にどうしたんですか。もう私のほうが焦りましたよ」


「すまん」


 鼻を啜りながら打ち解けるのが早いだろと速水に言おうしたが、それは二人の視線によって遮られた。

 速水はニヤニヤしながら、諏訪姉は少し驚きつつも羨ましそうに、俺と和奏を見ていた。


「なんか二人いいですねぇ~。息があってる感じがして」


「うん。神代さんが気を遣っていない感じがする」


「そ、そんなことはないと思いますけど」


 和奏は誤魔化すように苦笑を浮かべて、二人の言葉を受け流す。

 俺も和奏の言葉に乗っかって、この話題を逸らす。


「今のは神代の気配りだから、むしろ気を遣ってくれた方だろ。それはそれとして、打ち解けるの早すぎるだろ」


「そうですかねー大体こんなもんじゃないですか? あーさっきのデートしてるっぽい二人の話で、盛り上がったのもあると思いますけど」


 女子ってのは、どうしてこう他人の色恋の話でこんな盛り上がれるのだろうか。

 そんな疑問が頭の中に浮かぶが、それとは別に速水の言葉に引っかかるものがあった。


「ぽいって、諏訪姉なら知ってるんじゃないのか?」


「そういうことなら真星が私に相談してくると思うんだけど、今日はただ買い物に行くって言ってただけなの」


「それはあれじゃないですか? 実は付き合い初めててーみたいな!」


「そ、それなら教えてくれると思うんだけど」


 速水がキャッキャッとテンションが上がってる中、諏訪姉は少しショックを受けて寂しそうな表情をしていた。


「それで物陰から二人の様子を見ていたと」


「うっ、それは……はい」


 諏訪姉は叱られた子供のように少し下を向いて、反省する様子を見せた。

 そんな反応をすると思っておらず、諏訪姉の様子に俺は戸惑う。

 すると、和奏が俺に言う。


「気になるからといって、あの二人を覗き見ているのはあまり良くないと思いましたので。あと、お店の邪魔や他の方々が不審にも思うので、先程注意しました」


「だから、こんなになってるのか」


「……すみません」


 とりあえず諏訪姉の不審な行動についての理由がわかり、それから俺達は雑談しながら昼食を食べ終えた。

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