第百四十五話 風紀委員の呼び出し
次の日の昼休み、幸太と一緒に食堂で昼飯を食べていた。
「連日俺と一緒だけど、一之瀬と一緒に食べないのか?」
「せっかく神代さんと近くの席になったから、しばらく友達と食べるってさ」
幸太は淡々とそう言った。
その様子が思ったよりも意外だった。
「もっと残念そうにするかと思ったけど、そうじゃないんだな」
「んー確かに、毎日陽香と一緒に飯を食べたいとか思うけど、友達付き合いも大事だろ? それに去年もこうやって、ほぼ毎日修司と食べてたじゃねぇか?」
「それもそうか」
幸太の言う通り、去年はほとんど幸太と一緒に昼飯を食べていた。
思い返せば、その時に幸太が残念そうにする様子を見せたことはなかった。そんなことを思い返していると、少し周りに気を配りながら小さ目な声で幸太は聞いてきた。
「それよりも体育祭なんだけどよ。修司はその」
気まずそうに言い淀んでいる幸太の姿を見て、すぐに何を言いたいのか察しがついた。
「ああ、見学だな」
「そうだよなー」
残念な顔をしながら、白飯を食べる。
幸太なら俺一人見学だからといって、気にする必要なんかないだろうと疑問に思う。
「俺が見学でも大した影響ないだろ」
「いやいや! 騎馬戦の時に最後まで逃げ切れたの、お前の指示のおかけといっても過言じゃないぞ!」
「それは過大評価だ」
去年の騎馬戦で、俺は幸太と他二人で組んだ。
その時、幸太が上で、俺は騎馬だった。
俺は後ろ側の騎馬で、他の二人は運動神経が良く機動力に申し分なかったため、適当に着いて行きながら周りの状況を逐一幸太に報告していた。
「お前なら誰とでも合わせられるから、今回も上ならそうしてもらうように言えばいいさ」
「そうかもしれないけどさー。やっぱりお前と出たかったなぁ」
こういうことを平気な顔で言えるのは、素直に凄いと思う。
こいつはこういうこと言って、気恥ずかしくならないのだろうか。
率直な疑問が浮かぶが言葉を飲み込んで、残りの飯に手を付けた。
丁度飯を食べ終えそうになった頃、勢いよく俺達の目の前でテーブルが叩かれた。
俺と幸太は驚きながら、テーブルを叩いた手の持ち主を見た。
「やっぱりあなたじゃない!」
テーブルを叩いたのは、昨日の風紀委員だった。
幸太は何がどうなっているのか分からずオロオロしている。
俺は風紀委員の言葉を余所に周りを見れば、少し遠くの方で心配そうに俺達の方を見ていた図書委員がいた。
あーやっぱバレたか。
恐らく食堂で俺を見かけたのは偶然なのだろう。
しかし、この前食堂に来ていたが二人でなら、こうなる可能性はあるだろうと予想はしていた。
風紀委員は、幸太の方を一瞥してから俺を見た。
「聞きたい事あるから放課後空けておいて!」
昼休みももうすぐ終わる頃だったためか、それだけ言うとすぐさま何処かへ行ってしまった。
誤魔化したせいで、あの風紀委員の怒りを買ってしまった。
自業自得だとわかってはいるが、面倒くさくてため息が出る。
そんな俺の様子を気に留めず、何故か幸太は恐る恐る聞いてきた。
「お前、諏訪さんに何かしたのか?」
「なんだ? さっきの奴、有名人なのか?」
「有名人っていうか……ある意味有名人か。さっきの人は諏訪彩月。風紀委員の中でも一番規律に厳しい人で、次期風紀委員長って言われてる人だ」
「へぇーそうだったのか」
確かに学校内だと、自分にも他人にも厳しそうな印象だった。
たまたま夏祭りの時に見たのがオフの姿だったからか、よりそういった印象を感じていた。
「目をつけられると色々と面倒くさい相手だから、何かしたならさっさと謝っておいた方がいいぞ」
「目を付けられても変なことをするつもりはないからいいんだが、話聞いて、もし俺が何かしてたら謝っとく」
そもそも誤魔化しただけで、あんなに怒る短気な奴なのか? この前の食堂で会った時から、恨まれてるような目を向けられてるけど、そんな覚えはないんだが。
それから食器を片付けて、幸太と一緒に教室に戻った。
放課後、帰り支度をしていれば他クラスの奴が呼んでると、クラスのやつが声をかけてきた。
「ああ、ありがとう」
すぐに俺を呼んだやつのところに向かう。
その時にクラスがざわざわしていたのは、俺を呼んだのが規律に厳しいという話の風紀委員だったからだろう。
教室に残っていたクラスメイトが、何かしたのかと言ったことをヒソヒソ話している。
俺は呼ばれた通りに諏訪の下に来ると、やはり視線から敵意を感じる。
「着いて来て」
「はいはい」
言われた通り諏訪に着いて行くと、着いた先はもちろん風紀委員室。
「適当に座って」
俺はそのまま指示に従って、空いていた椅子に腰かけた。
机を挟んで向かい側に諏訪も椅子に座った。
「何の用で呼び出されたのかわからないんだが、誤魔化したことについては謝っておく。すまなかった」
とりあえず諏訪が怒っていそうな思い当たる部分について、すぐに謝罪した。
「それはどうでもいい」
どうでもよかったらしい。
とすると、本格的に何故こいつが俺に対して敵意を剥き出しにしているのか、さっぱりわからない。
諏訪は少し考え込んだ後、何か吹っ切れたような顔になった。
「回りくどい言い方は性に合わないから率直に聞くけど、どうして夏祭りに神代さんと一緒にいたのか説明して」
想像していなかった質問に俺は言葉が詰まった。