第百三十五話 服選び
次の日、四人で車に乗って、昨日と同じようにショッピングモールに来ていた。
服を見ると言う話だったが、ただ沙希と母さんが和奏を着せ替え人形にしているようにしか見えなかった。
そんな二人に和奏は戸惑いつつも付き合っていた。
「和奏ちゃん、次これなんかどう!?」
「お母さん! 絶対こっちの方がいい!」
「あの、えっと!」
……家で寝ててもよかったかもな。
俺は店の近くにあったベンチに座って、少し眠い眼を擦りながら三人の様子を眺めていた。
和奏も戸惑ってはいるものの、自分の好みの服であれば目を変えて見ていた。
あまりにも二人が和奏を困らせるようなら、ストッパーが必要かと思っていたが、恐らく和奏も楽しんでいるようで、そんな心配は杞憂だった。
「そんなとこに座ってないで兄貴も来なよ」
ぼーっと眺めていたら、いつの間にか沙希が側にいた。
「少し入りづらいからなぁ」
「そんなこと気にしないで、ほら」
「ちょっ、おい!」
沙希が俺の腕を掴んで、そのまま店の中に連れて行かれる。
二人がいる場所に合流すると、母さんが服を持って俺に聞いてきた。
「修司はこれ、和奏ちゃんに似合うと思うわよね!?」
「えっ、あーうん」
母さんが持っていた服はボーダーのワンピースだった。
「なんか反応がいまいちね……」
母さんにそう言われたが、本当に似合うとは思っていた。
ただ何とかなくカジュアルなほうが、和奏っぽい気がした。
「あはは、私もこれはちょっと」
「えーそう?」
母さんは渋々服を元の場所に戻しに行く。
すると、沙希が俺に聞いてきた。
「兄貴はどんなのが和奏さんに似合うと思うの?」
「え、俺に聞くか?」
「じゃなきゃ、連れて来てないって」
「……俺、センスないぞ?」
「言うだけただじゃん」
沙希が俺の言い訳をどうでもよさそうに一蹴した。
すると、和奏も沙希と同じように俺に言ってきた。
「私も修司がどれを選ぶのか気になる」
「兄貴、だってさ?」
「……気に入らなかったら素直に言ってくれ」
白サマーニットで袖にレースが入ったものを手に取った。
「これに下はデニムとか? 裾は広いやつでも細いやつでも」
俺がそう言いながら、和奏に服を渡す。
和奏が手に取ると、沙希がその服を見ながら少し不満気な声を出した。
「えーちょっと、カジュアル過ぎない? 兄貴の好み?」
「俺の好みとかそういうわけじゃねぇ。ただ、何となく和奏に合うと思っただけだ」
俺は無愛想に言い返しながら、反応が気になる和奏に目を向けた。
和奏は手に取った服をじっと見ながら何か呟いていた。
「一人で来てたら選んでそう……それに似合うって……」
「和奏?」
「どうしたんですか、和奏さん?」
「え!?」
俺と沙希が声をかけると、和奏は驚いた声を出す。
俺達が不思議に思っていると、和奏は恥ずかしそうに笑った。
「あはは。えっと、この服いいなって思って色々考えちゃってた」
「そうか? なら、よかった」
「うん、その……選んでくれてありがとう」
「お、おう」
和奏は少し恥ずかしそうにお礼を言った後、服に視線を向けて嬉しそうに笑った。
その和奏の表情を可愛いと思い、照れて素っ気なく答えてしまった。
もちろん可愛いと思ったのは俺だけでなく、沙希も同じように思っていたようで、和奏に抱き付いた。
「ん~! 和奏さん可愛い!」
「えっ、ええ!?」
「おっ、おい沙希!」
急に抱き付かれた和奏は困った様子で、あたふたしていた。
そんな風になっている和奏に、沙希はお構いなしで抱き付きながら聞く。
「なんでこんなに可愛いですか!?」
「えぇ? えっと、ありがとう?」
「沙希……和奏が困ってるから離れろ」
和奏から沙希を無理やり剥すと、真顔で俺のほうを見た。
「兄貴」
「な、なんだよ」
「お願い頑張って」
沙希はそれだけ言うと、和奏と服の話に戻った。
俺は沙希が落ち着いて安心すると、後ろから母さんが話しかけてきた。
「皆で服を見るのは楽しいわねぇ~」
「それは良かったよ」
俺は少し疲れながらそう言うと、母さんが不思議そうに聞いてきた。
「修司は欲しい服とかはないの?」
「今は特にないかな」
「あら、つまらないわね。ほら、あっちにあるメンズ専門のお店があるから、もしかしたら欲しいのが見つかるんじゃない?」
「うーん、見てても変わらないと思うけど……あっ」
母さんに言われて視線を向けた店を見ると、表に出ていたマネキンが帽子を付けていた。
それを見て、昨日沙希に言われたイメチェンという言葉が頭に浮かんだ。
夏祭りには同じ学校の人もいるため、和奏は前に二人で出かけたような変装をするだろう。
学校の奴らに俺が変装した和奏を連れて歩いてるところ見られても、幸太と会った時のように妹として誤魔化せばいいと思っていた。
だけど、それだと和奏が妹として俺と接しなければいけない。
俺も見た目を変えないと、ちゃんとしたデートにならないか……学校で特に目立ったことはしてないし、伊達眼鏡と帽子でなんとか。
そんなことを考えながら、そのマネキンを眺めていた。
「何々? 気になるものがあったの?」
「え? あーうん、ちょっと見てくる」
「あら、そうなのね。それじゃあ、欲しいものがあった時ように、はい」
母さんはそう言いながら、現金封筒を渡してきた。
「え、いいの?」
「修司が何か欲しいって言うのは中々ないし、せっかくの機会だからよ?」
「ありがとう、母さん」
俺は母さんにお礼を言った後、目に入ったマネキンがある店に向かった。