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第百三十四話 夜中の相談

 リビングに入ると、すぐに母さんが俺に聞いてきた。


「明日は何時くらいに帰るの?」


「特に決めてないけど、暗くなる前に帰ろうかなって思ってる」


 俺がそう言うと、沙希と母さんが同時にガッツポーズを取る。

 その様子を不思議に思って、二人に聞いた。


「えっと、何かあるの?」


「明日、和奏さんと一緒に服を見に行きたいなって話をしてたの」


「和奏ちゃんに似合いそうな服をたくさん思いついてねぇ~。せっかくだし、気に入ったものを買ってあげたいなって」


「そういうことか。和奏も行きたいって言うと思うから、いいんじゃないかな?」


 俺がそう言うと、二人は楽しみになのか嬉しそうな顔になった。


「父さんは?」


「私は仕事だが、せっかくだ。買い物をするなら車を使ってくれていい」


「会社に行くのは、どうするの?」


「沙奈さんに送ってもらう」


「お仕事なのに貸してくれるんだから当然よ。司さん、ありがとう~」


「ん」


 父さんは母さんにお礼を言われると素っ気なく反応するが、よく見ると少し嬉しそうな気がした。

 そんなたまに見せる二人の惚気を見て、俺と沙希は少し呆れていた。


 そのままリビングでテレビでも見ていれば、和奏が風呂から上がり髪を乾かしてリビングに戻ってきた。


「お風呂、ありがとうございました」


「いいのいいの」


 母さんがそう言いながら、和奏にお茶を差し出した。


「和奏ちゃん、急なんだけど明日私達と一緒にお出かけしない? 修司からはもう許可を取ってるんだけど」


「えっと、いいの?」


 和奏が俺に許可を求めるように聞いてきた。

 もちろん駄目という理由もなく、俺は了承するように頷いた。


「じゃあ、決定!」


「いぇーい!」


 母さんがそう言うと、沙希が嬉しそうに声を上げた。

 和奏は楽しそうに笑った後、急に戸惑った様子になった。


「あ、修司。明日の帰る時間は」


「大丈夫。二人の帰りが遅くならないように戻ってくるつもりだから安心して」


「ってことらしい」


 和奏はそれを聞いて、ほっとしていた。

 その様子を見て俺も安心している中、沙希はずっと嬉しそうにしている。

 そんな沙希に俺は小声で聞いた。


「……お前、そんなキャラだったか? あと和奏のこと気に入りすぎじゃない?」


「別にいいじゃん。和奏さんいい人だし可愛いし、さっきのビシって言う感じもかっこいいし、もうこんなお姉ちゃんがいたらなって思う」


「そ、そうですか」


 そう言った沙希は何処か含みがあるように笑っていた。

 こいつ、和奏が海斗に言い返したの見てスカッとしたんだろうなぁ。

 正直、和奏が俺のために海斗を言い返してくれたのは嬉しかったので、沙希の気持ちは少し分かった。

 ただ俺自身、もう俺のことを気にせず二人が前に進んでくれれば、それでいいと思っていた。

 ただ気持ちが少し分かるっと言ってもなぁ。

 決別したからと言って、反省してるやつを良い気味だと思うのは、自分の器が小さく思えた。

 そのため、沙希の含んだ笑いに気づかなかった振りをして、考えるのを止めた。

 明日の話が終わると、沙希から順に入れ替わりで風呂に入っていった。

 あれから入浴を済ませ、軽くリビングで話した後、全員寝室に戻った。

 色々あったせいかベッドに入ると、すぐに眠気に誘われて、そのまま眠りについた。




 夜中、変な寝返りを打ったせいなのか、腹部の痛みで目が覚めた。

 携帯で時間を確認すると、時刻は三時。

 完全に目が覚めたので、このまま起きていようかと思っていたが、それにしては微妙な時間だった。

 とりあえず喉が渇いていたので、傷跡を気にしながらリビングへ行こうと一階に降りた。


「ふぅ」


 水を入れてコップを持って、テーブルに着いた。

 目が覚めてからは特に痛みはなかったが、何となく気になって傷跡を擦っていた。

 すると、こんな時間なのに階段から足音が聞こえてきた。


「兄貴? こんな時間にどうしたの?」


「同じセリフをお前に返すよ」


 沙希は少し驚いた様子でそう言いながら、キッチンの方に行く。


「私は喉が渇いて目が覚めたから、水を飲みに来ただけ」


「俺も同じような感じだ」


「ふーん」


 沙希は興味がなさそうに相づちを打った後、コップに入れた水を一気飲みした。

 俺も持ってきたコップに口をつけて水を飲んでいると、沙希が飲み終えたコップにまた水を入れながら聞いてきた。


「今日、帰ってる時に聞きそびれたんだけど、兄貴って和奏さんのこと好きなんだよね?」


「ぶっ」


 急にそんなことを聞かれた俺は、水を口に含んでいて吐き出しそうになる。

 何とか吐き出さずに飲み込んで、沙希の質問に答えた。


「そ、そうだけど……急になんだよ」


「ただの確認。あと、兄貴に好きな人が出来るなんて初めてだから、ちゃんとアピールとかしてんのかなって」


「アピール?」


「自分からデートに誘うとか? デートって言わなくても、二人きりで遊ぶことを提案するとか?」


 沙希にそう言われて、思い当たるものが頭に浮ぶ。

 ただ今日和奏と出かけた時にもあったが、色々と課題があると改めて思い出して、俺は少し悩ましい表情になった。


「ただの興味本位だから、言いたくないなら言わなくてもいいよ」


「特にそういうわけじゃないんだが、一応……二人で祭りに行く約束してるな」


「へぇ~、兄貴にしてはやるじゃん」


 そう言った沙希はニヤニヤしていた。

 くそ……やっぱ言わなきゃよかった。

 そう思った俺は別の話に逸らすことにした。


「俺にしてはってなんだよ。そういうお前はどうなんだよ?」


「私?」


「中学の時だけど、好きな人がいるからって告白断ってたらしいじゃねぇか。その好きな人になんかアピールしてんのかよ?」


「あー……あれ、断る口実」


「は? え、そうだったのか?」


「別に誰かと付き合いたいとか思ったことないから」


「あー……そうなんだったんですねぇ」


 俺はそう言いながら、肩から力が抜けた。

 取り越し苦労だったのかぁ……。

 今まで沙希の片想いを邪魔していたと思っていた部分があった。

 俺のせいで想いを伝えられなかったとか、仲良くしづらかっただろうとか。

 しかし、今の沙希の話を聞いて、その部分の心配はいらなかったらしい。


「でも、そう言う話を聞いたりするのは好きだよ。話してる友達とか幸せそうだったり、応援したくなったり。難しい問題はあるけど、弥佳とかそうだしね」


「芹沢さんが?」


「うん。中二くらいから、ずっと井上君のことが好きだったから」


「……そうか」


 沙希から芹沢さんの話が出て来て、過去に戻れないので気にしても仕方ないのはわかっているが申し訳なくなる。


「えっと……ごめん、今のは別に兄貴を責めて言ったわけじゃないから、全然気にしないで」


 わだかまりは解けたからといって、あの時の事実は変えられないのあで、お互い気まずくなって空気が重くなる。

 そんな空気を振り払うように、沙希が話題を戻した。


「えっと、あ! 今もだけど、恋愛よりもやりたいことの方に夢中だから」


「やりたいこと?」


「うん。今はこれ」


 沙希が何かを引くような構えを取った。


「弓道?」


「そう! 高校の部活にあったから入部した」


「へぇー、かっこいいな」


「でしょ? まだ入部したばっかりで、全然上手くいかないけど」


 そう言った沙希は言葉とは違って楽しそうな笑顔だった。

 それからすぐに沙希は何かを思い出した表情に変わった。


「あ、話を最初に戻すけどさ。デートの時、身だしなみに気を付けなよ? 兄貴そういうところ雑だから」


「うっ、肝に銘じておきます」


「普段から気を付けてれば、そのうち習慣になるよ。いっそのことイメチェンで帽子とか被れば、今日の伊達眼鏡みたいな感じで」


「意味あるか?」


「結構印象変わるからいいと思うけど、あとは……ふわぁ~」


 それから沙希は眠そうに大きく欠伸をした。


「長く話しすぎたな。そろそろ寝るぞ」


「えーまだ色々あるのにー」


 俺がそう言うと、沙希が目を擦りながら答えていた。


「はいはい、それはまた今度聞くよ」


「あと、もし何か気になることがあれば、いつでも相談に乗るよ?」


「アホなこと言ってないで、さっさと寝ろ」


「はーい」


 沙希は返事をしながら、寝室に戻って行く。

 俺も水を飲み切ってコップを洗った後、すぐに寝室へ戻った。

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