表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/159

第百二十四話 妹の友達と話の内容

 俺達は近くにあった喫茶店に入って四人席に座る。

 その際、先程合流した男の隣に座って、和奏と向かう形となった。

 別に気にしてるわけではないが、まぁ怖がられてるなら仕方ないか……。

 そんなことを思いながら、飲み物を注文した。




「こ……こんな座り方になってしまってすみません」


 飲み物が届くと、女が謝ってきた。


「いやまぁ、俺が怖いなら仕方ないだろうさ」


「えっと……さっきも伝えようと思ったんですけど……沙希ちゃんのお兄さんだけが怖いというわけではなくて……その」


「芹沢、無理しなくていいからな?」


「うっ、うん」


 男が女に優しく言葉をかけた。

 それでも女は自分で伝えようと、ゆっくり話してくれる。


「わ……私、男の人が怖くて……慣れるまで時間が掛かるんです……」


「芹沢? あとは俺が話すからゆっくり呼吸しよう」


 男がそう言うと女は頷いて、ゆっくりと小さく呼吸をする。


「自己紹介が遅れてすみません。自分の名前は井上悟志(いのうえさとし)で、こっちが芹沢弥佳(せりざわやよい)です。自分達は中学から一緒の学校で、高校一年です」


 井上は丁寧に自己紹介してくれた。

 うちの後輩とは違って礼儀正しいなぁ……まぁ後輩を一人しか知らないが。

 速水の自己紹介を思い出しながら、井上に感心した。

 それから俺達も自己紹介をした。


「神代和奏です。こんな髪の色ですが、日本生まれ日本育ちです」


「……天ヶ瀬修司だ」


 名前を言うのに少し抵抗があったが、隠しても意味がないと思って教えた。

 すると、井上は思い掛けない名前に驚いていた。


「天ヶ瀬修司って……あの」


「そうだな。どんな噂があったか覚えてないが、ロクでもない奴って言われてる名前だ」


 覚えてないのは嘘で、思い出したくないってほうが正しいけど。


「あ……その、すみません」


 俺の言葉を聞いて、井上は自分が失礼な反応をしたと思ったのか謝った。

 井上の謝罪は俺にとっては珍しいものだった。

 いつもなら軽蔑した目で見られたり恐怖を抱いたりで、噂を信じている反応ばかりだった。

 そのため、俺はかなり驚いた。


「いや、俺も嫌味を言ってすまなかった。特に気にしないで、話しを進めてくれ」


 俺がそう言っても少し気にしている様子ではあったが、井上は話を進めてくれた。


「えっと……席については芹沢の話の通りで、慣れていれば普通に話せるんですけど、長時間近くに男の人がいると具合が悪くなってしまうんです。自分も机一つ分くらいの感覚を空ける必要があって、この座り方にさせてもらいました」


 芹沢と井上の話から、芹沢は男性恐怖症ということなのだろう。

 俺に対する芹沢の反応と事情について理解できた。


「そういうことなら、話したいことを和奏に向けて話してくれ。ひとまず、俺は黙って聞いておく」


 俺がそう言うと、和奏は頷いて了承してくれた。


「ありがとうございます」


 井上がお礼を言うと、芹沢も頭を下げて感謝を示した。

 それから和奏に向けて話すように、芹沢が話し始めた。


「えっと、話したいことは沙希ちゃんについてで。ここ最近、見てて危なくて」


「危ないって言うのはどういうこと?」


「なんか何でも自分でやろうとしてるって言うか……困ってる人がいたら、すぐに助けようとするのは変わってないんですけど。前に街でガラの悪そうな人達が騒いでいたところを注意して、喧嘩になりそうになってて……」


 芹沢の話を聞いて、和奏が何か言いたげに俺を見てきた。

 そんなやっぱり似た者兄妹じゃないかみたいな目で見られても……。

 沙希が困ってる人に手を差し伸べる優しい奴なのは知っている。

 そんな沙希の行動は仲が良かった頃に何度も見ていた。

 ただその頃の沙希は、自ら危ないことに関わるようなことはしていなかった記憶だ。

 俺と違って急に巻き込まれたりするわけではないのだから、注意するにしても大人に頼ることや警察に電話したり、そういった行動を取っていたはずだ。

 しかし、どうやら今の沙希は俺が知っていた頃とは違うようだ。


「危ないから止めるように言っても、いつもの調子で大丈夫だからと……私、どうすればいいかわからなくて」


「それで修司に話そうと思ったってことね」


 和奏の言葉に芹沢は頷いていた。


「修司から妹さんに話してあげられないの?」


 話を聞いた和奏が心配そうに聞いてきた。


「そう言われても……しばらく会話なんかしてないし、話したところで暴言を吐かれて終わりだと思うぞ」


 顔を上げて話すと、芹沢が怯えるかもしれないと思ったので、俺は自分のコーヒーを見ながら答えた。


「お兄さんとの仲が悪いのは……二人の喧嘩を聞いたことがあるので知ってます。それでも……お兄さんから沙希ちゃんに話してもらえませんか」


「いや、知ってるなら難しいことも……ん?」


 なぜか芹沢の言葉に妙な違和感を感じた。

 喧嘩を聞いたことがある……何処でだ?

 確かに沙希と喧嘩することはあったが、そのほとんどが家で起きたことだ。

 外で喧嘩することなど滅多になかった。

 しかも、中学の出来事以降に会話した回数は両手で足りるくらいだ。


「えっと……和奏、すまん。ちょっと」


「なに?」


 俺は和奏を小声で話せる距離に呼んだ。

 芹沢に聞きたいことを和奏に伝え、先程の距離感に戻った。


「えっと、芹沢さん? その聞いたことがある喧嘩って、いつだったか覚えてる?」


「えっと、確か……今年の春休みだったと思います」


 あっ、なるほど……それなら事前に言っておいて欲しかった。

 不可抗力なのにも関わらず、沙希がどうしてあんなに激怒してたのか、少し理解できた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ