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第百二十三話 不機嫌なお隣さんと落とし物

 一通り見た後に決めたのは、最初に和奏が良いと言ってくれた濃い紺色のものになった。

 そこまで派手ではないのと、掛けやすさが決め手になった。


「私が買ってあげるって言ったのに」


 店を出て歩き始めると、和奏が少し残念そうに呟いた。


「……気持ちだけもらっておく」


 変装の為とはいえ、和奏に買ってもらうのは気にさせてるようで気が引けた。

 それに自分の為の出費として考える方が気が楽だった。

 ただまぁ最近色々と使い過ぎてるから、そろそろバイトしないとなぁ……。

 そんなことを考えていると、和奏が少しムッとしながら何か呟いていた。


「……この機会に私も何かあげたかったのになぁ」


「何か言ったか?」


「むぅ……なんにも!」


 なぜか和奏の機嫌を損ねてしまった。

 どうやって機嫌を戻してもらおうか、店を見渡しながら考える。

 その時、不審にベンチの下に細長い何かが目に入ってきた。


「なぁ和奏。あれってなんだと思う?」


「……何? あれって言われても、どれのことか」


 和奏は機嫌悪そうに言葉を返してくるが、特に気にせず俺は指を差した。


「あのベンチの下にあるものなんだが」


「ベンチの下……ん? えっ、あれ財布じゃない?」


「そうだよな……はぁ」


 俺達は確認しにベンチへ行くと、本当に茶色の長財布が落ちていた。

 とりあえず拾ってみると、財布は綺麗で使い込まれてるようなものではなかった。


「買ったばかりみたいな財布だな……とりあえず従業員に渡せればいいんだが」


「近くには見当たらないね」


「あんまり持ち歩きたくないんだが……落とし物センターまで届けるか」


 こういった他人の貴重品の類を見つけても、ろくな事にならないことが多い。

 たまたま落としたものを拾っただけなのに盗んだと思われたり、今みたいに拾っただけなのに中身を抜こうとしたと疑われたりと、散々な目に合うことが多かった。

 俺の様子が嫌そうなのについて、和奏が聞いてくた。


「なんでそんなに嫌そうなの?」


「こういうこともあんまりしたくないんだよ」


 俺は何もないことを祈りながら、和奏と落とし物センターに向かおうした。

 その時、後ろからを焦った声で引き止められた。


「あっ、あの! すみません!」


 やっぱりこうなるかぁ……せめて何処かに届けた後にしてほしい。

 振り返ると、大人しそうなセミロングの女がいた。


「えっと、あの……その財布は私ので……探してて」


 女はどこか怯えた様子で、財布を持っていた俺に話しかけてくる。

 とりあえず持ち主が現れたので、そのまま手に持っていた財布を差し出した。


「それならよかった。どうぞ」


「うっ……あっ、ありがとうございます」


「え?」


 女は財布を差し出されるとお礼を言ってくれたが、そのまま受け取らずに一歩下がってしまった。

 その裏腹な行動に、俺と和奏は戸惑った。


「えっと、受け取ってほしいんだけど」


「そのっ……あのっ、すみません!」


「いや、謝らなくてもいいんだが……」


 何故か謝ってくるが、女は中々財布を受け取ろうとしてくれない。

 その様子を見ていると、女が少し震えていることに気付いた。

 これ、もしかして俺のせいか?

 俺は持っていた財布を和奏に差し出した。


「すまん、和奏。俺の代わりに渡してやってくれないか?」


「え? いいけど」


 和奏は俺から財布を受け取って、女に差し出す。


「はい。もう落とさないように気を付けてね?」


「あっ、すみません……ありがとうございます」


 和奏が財布を差し出すと、今度は素直に受け取ってくれた。

 やはり、俺が渡そうとしていたのがいけなかったみたいだった。

 和奏がいてくれたことに感謝をしつつも、自分の外見や印象が気になった。

 そんな怖がられる見た目してないと思うんだけどなぁ……。

 そのまま俺は、和奏に自分の印象を聞く。


「俺って怖いか?」


「え? うーん……怖いとか思わなかったけど、雰囲気は暗いなぁって思った」


「それは……まぁそうか」


 和奏の答えに納得してしまった。


「あの! えっと、私が悪いんで気にしないでください!」


 俺達の会話を聞いていた女がそう言ってきた。


「ほら、こんな話するから気にしちゃったじゃん」


「そんなつもりじゃなかったんだが、なんかすまん」


 和奏に軽く睨まれながら、変な空気にしてしまったことを謝った。


「大体もう少しシャキッとして、愛想笑いでもいいからすればこんなことにならないのに」


「……すみません」


 先程の機嫌を損ねていたせいか、和奏の小言が始まった。

 こういう時は何も言い返したりしない方がいいことを母さんと沙希で学んだため、小言が終わるまで平謝りするしかなかった。




 和奏が小言を言い終えると、女が話しかけて来た。


「あの……もしかして、沙希ちゃんのお兄さんですか?」


「え? どうしてそれを」


「えっと、その、声に聞き覚えがあって……眼鏡を掛けていたので確証はなかったんですけど」


 女の子はオドオドしながらそう言った。

 俺のことを知っていれば怯えるのは当然か、こりゃ沙希にも嫌われるわけだ。

 あれ? でも、沙希の兄って分かる前から怯えていたような……。


芹沢(せりざわ)! 財布は見つかったか!?」


「うん、見つかったよ」


 俺が色々考えていると、一人の男が合流していた。

 うわぁ……面倒くさいことになる前に退散しよう。


「和奏、要は済んだから行こう」


「うん」


「あっ、あの! 少し待ってください!」


 俺達がその場を離れようとすると、また女が引き止めてきた。


「引き止めてごめんなさい。少しだけお話できませんか?」


 女の子が真剣な表情でそう言ってきた。

 俺が和奏の方を見ると、どうするのと目で訴えかけてきていた。

 少し悩んだ結果、仕方なく話を聞くことにした。

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