表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/159

第百二十二話 お隣さんと眼鏡選び

 その後、周辺を案内しながら歩いていれば、目的地に着いた。


「結構歩いたから中を見て回る前に、一旦喫茶店で休憩するか?」


「私は疲れてないから大丈夫だけど、傷の具合が気になるなら……痛っ!」


 爺さんのところでしたやり取りを繰り返しそうになったので、俺は和奏の額にデコピンを食らわせた。

 和奏は、痛そうに自分の額を擦っている。


「うー……痛い」


「心配してくれるのはありがたいが、約束通り辛かったら言うから」


「だからって、デコピンしなくてもいいじゃない」


「こうでもしないと、また繰り返しそうだからな」


 和奏は不満そうな顔をするが、気にせず本題に戻す。


「休憩とウィンドウショッピングなら、ウィンドウショッピングのほうがいいか?」


「気分的にそうかな」


「それなら軽く見て回るか」


 そのまま俺達はゆっくり歩きながら店を見て回る。

 今いる場所がファッション関係の店が多い階で、和奏は楽しそうに見ていた。

 ふと和奏がサングラスをかけたマネキンを見て立ち止まる。


「もしかしてここって、修司の知り合いと出会う可能性があるんじゃない?」


「特に気にしなくていいぞ。もし鉢合わせしても、腫れものを扱うような目で見られるだけだ。絡んできたりする奴なんか滅多にいない」


 実際、卒業するまではそんな感じの扱いだった。

 時々逆恨みで絡んでくる奴がいたが、それは主に外だったため、施設内で物騒なことはなかった記憶だ。

 それに美少女を横に連れてるのだから、今更気にしたところで遅い。


「うーん、決めた」


 和奏は少し考えた後、何か思いついたようだった。

 すると、すぐに何処かへ向かって歩き始めた。


「あ、おい! どこに行くんだ!?」


「いいから付いて来て!」


 そう言われ、俺は訳が分からないまま黙って和奏に付いて行った。




 和奏が向かった先は眼鏡屋だった。


「えっーと。あっ、修司これちょっと掛けて見て」


 和奏は中に入ると、太め縁で色が少し明るめの茶色の眼鏡を手に取って、俺に渡してきた。


「いや、俺の視力は悪くないぞ?」


「知ってる。でも、これは視力補強のためじゃないから」


 和奏にそう言われるが、良く分かっていない俺は言われた通り眼鏡を掛ける。


「うーん、ちょっとこの色じゃないかなー。じゃあ、次はこれ」


 次に渡された眼鏡は、同じ型の濃い紺色のものだった。


「これいい感じ」


「いや、結局これは何を見てるんだ?」


「修司の伊達眼鏡を見てるの」


「伊達眼鏡?」


 俺はどうして伊達眼鏡なんて必要なのか疑問に思うと、そのまま表情に現れていたのか和奏が理由を教えてくれる。


「私が隣に居ると目立つから、知り合いに見つかる可能性が更に上がるでしょ? だから少しだけでも気付けないようにするの」


「いや、俺は平気だって……」


「私が嫌なの。修司が嫌な思いをするの」


 和奏は俺のためを思って、伊達眼鏡を選んでくれていた。

 もう腫れものを扱いに慣れてしまっていたが、正直気分のいいものではない。

 俺なんかよりも和奏のほうが何倍も優しいよな……。

 伊達眼鏡を真剣に選んでいる和奏を見ながら、そんなこと思った。

 ただ、その様子は心配がすぎるような気したので、俺は近くにあった女性用の眼鏡を手に取る。


「和奏。これなんか似合いそうじゃないか?」


「どんな……って、女性用じゃない!」


「そうだな。だから、掛けてみろよ」


「いや、私のじゃなくて修司のを」


「とりあえず掛けてみろって」


「えっ! わっ、わかったから」


 そのまま勢いで和奏に眼鏡を掛けさせる。

 俺が渡した眼鏡は、かなり細め縁でレンズが大きめの丸いもの、色は黒と銀のシンプルなデザインのものだ。


「えっと、どう?」


「おお、シンプルだったけどやっぱ似合うな」


「あっ、ありがとう……じゃなくて! なんで私が眼鏡掛けてるの!」


「まぁ落ち着け。せっかくなんだから、こういうのも楽しんでいこうぜ」


 俺がこんなことを言ったのも、母さんに言われたことを意識してるからというのも少しある。

 だけど一番の理由は、俺が入院していたこともあって外で遊ぶのは久しぶりなため、和奏には楽しんでほしい気持ちがあったからだ。


「あっ、そっか」


 俺の意図を理解したのか、和奏は下を向いて軽く深呼吸すると、普段通りの表情に戻っていた。

 その表情を見て俺が安心していると、和奏が鏡を見ながら聞いてくる。


「この眼鏡って、少し真面目過ぎる印象になってない?」


「そう言われると確かにそうだな。じゃあ、こっちなんかどうだ?」


「あっ、ちょっと待ってよ。今度修司がこれを……っぷ、くくっ……ピンクの」


「おい、掛けるまでもなく似合わないもん渡してくるなよ」


「冗談なんだけど、ちょっと見たくて」


「流石に奇抜な色は勘弁してくれ」


「りょーかい」


 それから俺達は互いに似合いそうな眼鏡を試着したりしながら、どの伊達眼鏡にするか色々見て回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 話の続きを見れること [一言] 約一年ぶりに更新再開されましたが意外と内容を覚えていました。好きな作品なのでどんなに時間がかかっても完結まで見たいです。 なかなか書き続けるのは大変かもしれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ