表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/159

第十二話 お隣さんからのお礼

 その後、幸太から話がないまま、放課後になった。

 午後に一度だけ、神代の様子を確認したが、特に変わった様子は見られなかった。

 恐らく一緒に食べることを断ったのだと思った。

 俺からしても、その方が助かるため好都合だった。




 普段通り早々と帰る準備をしていると、携帯が震えた。

 携帯を確認すると、通知画面に幸太からRINEのメッセージが来ていた。


『神代さん、おっけーらしい!』


 急いで周りを見渡して神代を探したが、すでに生徒会室に向かったようで教室にはいなかった。


 どうやら俺にとって、良くない方向に話が進んでしまったようだ。

 この結果にがっかりすると同時に、神代がわざわざ許可したことが全くわからなかった。

 正体をばらす危険性のある人物を、自分の監視下に置いておきたいとかなのか。

 しばらく携帯と向き合いながら考えていた。

 だが、結局理由はどうであれ、明日が憂鬱になったことには変わらない。

 俺は考えるのをやめて、気落ちしたまま帰宅することになった。




 次の日、俺は朝早く起きて弁当を作っていた。

 昼食に人と食べる約束があるのに、わざわざ購買まで飯を買いに行くのが面倒くさいためである。

 もし幸太に突っ込まれたら、弁当は親が作ってくれたとでも言えばいいだろう。


 メニューは主食がチキンライス、主菜が昨日作っておいたハンバーグにキノコと玉ねぎのオムレツで、副菜はベーコンとほうれん草のバター炒め。

 最後に軽くミニトマトを添えて、弁当の完成だ。


 初めて自分で弁当を作ったが、ちゃんと作れてよかった。

 今までは、時々母親が作ってくれていたので、自分で作ることはなかった。

 朝早く起きることも含めて、作ってくれていた親のありがたみを感じた。

 弁当を作り終えると、結構いい時間になっており、俺は急いで支度をして家を出る。

 すると、神代も今出たところなのか鉢合わせになった。


「あっ……天ヶ瀬君。おっ…おはよう!」


「……おう。おはよう」


 神代は鉢合わせになったことに驚いてなのか、何やら焦っていた。


「すまん、驚かせたか?」


「へっ? あっ、いや、そうじゃなくて、えーと。あぁもうっ、これ!」


「え!?」


 神代は俺に向けて、布で包まれているものを差し出してきた。

 神代の勢いに押されて、俺は差し出されたもの受け取る。


「これ、もしかして弁当か?」


「そうっ、この前助けてもらっちゃったから、そのお礼! 天ヶ瀬君って、学食か購買で何か買って食べてるみたいだったから!」


 これを俺に渡すタイミングが急にやってきたから、それで焦ってしまったと。

 意外と律儀な奴だな、もっとこう図々しいやつだと思ってた。


「いやなんていうかすげーありがたいんだが……」


「……えっ何?」


「俺、実は今日の弁当作ってきちまった……」


「えー!?」


 そういう反応ですよね、なんかすみません。


 俺は申し訳なさ過ぎて、心の中で神代に謝る。


「じゃあ、このお弁当は無駄だったってこと?」


「いや、せっかく作ってくれたから、これも一緒にいただくわ」


 弁当を作る大変さを学んだ俺には、流石に作ってくれたのにいらないから返すなんて、そんな鬼みたいなことはできない。

 おそらく満腹にはなるだろうけど、完食はできると思う。

 神代は、少しほっとした様子で安堵していた。

 そこで、ふと疑問に思ったことを俺は聞いた。


「ちなみになんだが、俺に弁当を作ることって、一之瀬には伝えているのか?」


「え? 何も言ってないわよ」


「つまりあれか? 昨日の一緒に食べることを許可したのは、これを渡すためってことか?」


「うっ……。まぁ……そういうこと」


 照れくさそうに少し頬が赤くなっている神代を他所に、俺はかなり焦っていた。

 昨日の疑問がスッキリしてよかったよかった、ってなるわけない。

 このままだと、神代の手作り弁当を食べる奴ということで、絶対に目立つ。

 俺としては、何とかしてこの状況を回避したい。


「お前も自分の弁当あるんだよな?」


「何言ってるの? 当たり前でしょ」


「じゃあ、それも寄越せ」


「はぁ? そしたら私のお昼どうするの!?」


「お前の弁当はこれだ」


 そう言って、俺は今朝作った自分の弁当を神代に差し出した。


「え? これって天ヶ瀬君の?」


「そうだ。昼食はその弁当を自分の弁当として食べてくれ。俺はお前の作った二つの弁当を、自分のものとして食べる」


「え? どうして?」


 こいつ……わざとか?


「……このまま昼食を迎えると、俺がお礼として受け取れなくなるからだ」


 神代はその言葉で察したようで、申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん……。天ヶ瀬君のこと考えてなかった」


「あー……別に気にしないでくれ。忘れてたんなら仕方ない」


 わざとというわけでもなさそうなので、これ以上何か言うと俺の方が申し訳なくなる。


「それにここでお礼の弁当を受け取っちまったからな。昼食の時に、他の奴らにいつ渡したのか疑問を持たせることになる。そういう少しでも俺たちのことがばれるようなことは、神代にとっても好ましくないだろ?」


「うん。そうしてもらいたい」


「じゃあ、そういうことで」


 俺達は、お互いに弁当を交換した。

 神代にとっては少し量が多いかもしれないが、そこは残すなりしてくれるだろう。


「私の弁当箱って可愛い感じだけど……それは大丈夫なの?」


「そこは、妹が忘れていって勿体無いとでも言うさ」


「そっか」


「何かあっても、適当に理由つけるから安心しろ。それよりも、そろそろ学校に行かないとまずい」


「あっ、やば!」


 俺が携帯で時間を確認すると、少し早歩きしないと間に合わないくらいまで時間が迫っていた。


「神代は先に行け。俺は、ホームルームにギリギリ間に合うくらいに行くから」


「わかった。じゃあ、お昼はよろしくね!」


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 そう言って、神代は急ぎ足で先に学校へ向かって行った。

 俺は神代を見届けると、神代に追いつかない程度の速さで向かい始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ