第百十四話 近況報告と和奏の存在
海斗が持ってきたライブ映像が終わり、特典映像を流しながらお互いの近況について話す。
「学校での生活は上手くやれるのか?」
「まぁ適当にやってる。一年の頃に仲良くなった奴がいるから、基本的にそいつとしか話してない」
「そうか」
「お前のほうはどうなんだ?」
「相も変わらずクラス委員長をやってる。後は想像できるだろ?」
「要領よくやってるのな」
俺がそう言うと、海斗は軽く笑いながら飲み物を飲んだ。
そのまま最近あったことなど話していると、海斗が帰省のことについて聞いてきた。
「もう帰省はしたのか?」
「いやまだしてない。まぁするにしても一日だけ顔出して帰るつもりだしな」
「じゃあ、一度はこっちに来るのか……」
海斗はそう言うと、何か考えているように静かになる。
「何かあんのか?」
「いや、今のお前なら問題ないと思うが……。夏休みに入ってから浮かれている奴が増えてるからなのか、色々と面倒な話が多くてな」
俺は嫌そうな顔をしてため息をつくと、海斗も同じようにため息をついた。
「はぁ……なんであの街って、そういうの多いんだよ」
「さぁな、俺にもよくわからん。でも、悪い話だけじゃないぞ?」
「なんだそれ?」
俺が興味を示すと海斗は少し笑いながら話し始める。
「ここ最近の話で、時折困っている人を助けてくれる奴がいるとかいないとか」
「は?」
海斗の話に俺は思わず拍子抜けした声が出てしまう。
「あくまで俺も話でしか聞いたことないから、確かな情報かどうか怪しいけどな。そういう奴がいるらしいって話だ」
「おいおい……とんだ物好きがいたもんだな」
「その物好き代表みたいな奴が何言ってるんだ」
「俺のは普通に生活してて、巻き込まれることもあったんだから仕方ねぇだろ」
俺はそう言いながら海斗を睨むが、海斗は全く気にせず話を戻す。
「話が逸れたな。このいるかいないかわからない奴の話はいいとして、帰って来るなら気を付けてくれ」
「ああ、そうする」
「まぁあの街のガラの悪い奴らで、お前のこと知らない奴はいないと思うが」
「あーはいはい、どうせ俺は物好き代表ですよ」
そんな軽口を海斗に返しながら、帰省のことについて考える。
まだ完全に完治したわけじゃないし、今回の帰省は一人じゃないしな。
この前のような和奏を危険な目に合わせまいと、俺は心の中で誓った。
それからしばらく話していると特典映像の方が終わり、時間は十七時前くらいになっていた。
「そういえば、今日飯とかどうするんだ?」
「兄さん達が帰って来てるはずだから、夕飯は家で食べる予定だ」
「あーじゃあ、そろそろ駅に向かわないとやばそうだな」
海斗には自分の荷物を確認してもらい、俺はすぐにレコーダーからブルーレイディスクを取り出しケースに戻して海斗に渡す。
それから玄関までついて行きながら海斗に聞いた。
「駅まで送るか?」
「いや、道は覚えてるから大丈夫だ」
「ん、そうか」
海斗は靴を履き終えると、俺のほうを向く。
「それじゃ、また何かあれば連絡する」
「俺も気が向いたら連絡するわ」
俺がそう言うと、海斗は呆れたように笑ってそのまま帰って行った。
一通り片づけを済ませた後、俺は久しぶりに飴を舐めながらベランダに出て、今日話したことを思い返す。
久しぶりに昔の話をしたせいなのか、あまり思い出したくない記憶が過ぎる。
(良い人の振りして、色んな人から見返りとして金を巻き上げてたらしいぞ)
(それだけじゃないでしょ? 関係が悪くなったカップルを狙って、慰める振りして横取りしようとしてたとか)
(ガラの悪い人達と一緒につるんで、カツアゲだったり女の子騙してひどいことしてたとか……)
(あいつのお節介で手助けしてもらって付き合ってる奴ら、軒並み関係が悪くなったって話だよな)
(成績がいいのも良い人の振りしてるのも、全部人を騙しやすくするためとか)
(……よく学校来れたなあいつ)
周りの奴らが畏怖や軽蔑だったりの視線を向け、特定の奴らは馬鹿にするように嫌な笑みを浮かべていた。
そんな中学の時代を思い出すが、ただあの時とは違って少しは冷静に考えられるようにはなっていた。
心の中はグチャグチャで気分のいいものではないが、頭は冷静に動いてくれている。
わかってる……俺がもう少しやり方を考えていれば……。
――――修司は何も悪くない!
今まで変わらないように思考を終わらせようとしたが、和奏が自分の為に怒ってくれた言葉が頭に響いてきた。
今俺が思ったこと……あいつが聞いたら怒ってくるか、泣きそうな顔で心配しそうだな。
そんな和奏の様子を想像すると、俺は少し嬉しくてにやけそうになる。
そして気づけば、心の中のグチャグチャとしたものが少し落ち着いていた。
それから落ち着いてきたところで、海斗との会話で忘れていたことがあること気付いた。
「やべ、母さんとかに帰って来てもいい日を聞いてねぇ」
俺は予定を聞くために急いで部屋に戻る。
母さんに電話をする時、他にも海斗が気になることを話していた気がするが、それが何だったのか思い出すことはなかった。