第十一話 友人の頼み
次の日、昨日色々あったせいで疲れていたのか、少し寝坊してしまった。
教室に着いたのは、ホームルームが始まる少し前。
中に入ると、自分の席の周りに人だかりができていた。
「神代さんって、本当に恋愛とかに興味ないの?」
「そうですね。自分のことで色々大変ですし、生徒会や勉強の方に集中したいので」
「そうなんだ~。じゃあ、今度わからないところがあったら教えてほしいな!」
「はい、いいですよ。でも、私の教え方は厳しいですよ?」
「うへぇ~……その時は頑張ります……」
どうやら神代が、クラスの奴と話しているようだ。
集まっているのは全員女子なので、昨日のようにならないと思って安心した。
邪魔しないよう後ろから回り込んで、静かに席に座って本を読み始めた。
「そういえば、昨日の神代さんスカッとしたなぁ! 一緒に遊ぶってのは嬉しいんだけど、あからさまに私たちがだしにつかわれてるんだもん」
「ねー。最初は、ちょっと片桐君の誘いを断るなんてって思って嫉妬しちゃったけど。最後の一言を言われた片桐君の顏を見たら、なんかスッキリしちゃった」
あのイケメン君は片桐というのか。
自己紹介なんて、まとも聞いていなかったから知らなかった。
「そうですか? でも、少しでも好意を持っていた相手を、そんな風に言ってしまうのは、可愛そうですよ。そういう想いは、大事にしてあげてください」
「やだ……イケメン」
「うーん。でも幻滅しちゃったら仕方なくない?」
「そうですね。その時は、周りが友達だけの場とかの方がいいですよ?」
昨日の不安だった様子は何だったのかと思うくらいに、神代はいつも通りだった。
昼休みになって、学食で食べるか購買で買って食べるか悩んでいると、幸太が声をかけてきた。
「修司。学食いこうぜ」
「いいぞ。悩んでいたから、ちょうどよかった」
「じゃあ、席なくなる前に早く行こうぜ」
教室を出るときに、神代がこちらを見ていた気がするが、気のせいだろう。
幸太と一緒に学食に向かった。
「いただきます」
なんとか学食が混む前で、座ることができた。
幸太は日替わり定食で、俺はサバの味噌煮定食にしていた。
今日の日替わり定食は、生姜焼き定食だったらしい。
「なんか学食で食べる度に思うけど、修司って和食好きだよな」
「まぁ好きだな」
確かに和食があると、和食を選びがちではある。
もちろん洋食も好きだが、実家で並ぶ料理は洋食のものが多かった。
そのせいなのか、いつもと違うものってことで、ついつい和食を選んでしまっているかもしれない。
「そういえば、今日は一之瀬と食わないんだな」
幸太は、いつも一之瀬のお手製弁当を食べている。
俺が購買で何か買って食べるときは、たまにお邪魔させてもらって、三人で食べることもある。
そのため、今日は珍しく学食だった。
「あっ、そうそう! 驚いたんだけど、今日は神代さんと食べるって」
「……え?」
思わぬ人物が出てきて、俺は白米をこぼしてしまった。
「驚くだろ? 元々、去年同じクラスで友達なったらしいぜ。かなり仲良しって言ってた」
「そうなのか……」
かなり仲良しって……一之瀬は神代の本性のことを知っているのか、それとも単純に仲良くしているのか。
まぁ普通に生活してて、あの一面が出ることなんてないから気にすることでもないのか。
「俺も最近知ったんだけどな。去年は陽香と別のクラスだったから、友人関係とかは全然知らなかったんだわ」
「そうか。じゃあ、これから二人で食べることが少なくなるのか?」
「それを今日聞いてみるって。そこで修司にお願いがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「もし一緒に食べる許可をもらえたら、お前も一緒に食べてくれないか?」
「は?」
「頼む!」
幸太は申し訳なさそうな顔をしながら箸をおいて、こちらに手を合わせてきた。
そもそも俺が一緒に食べる理由がわからない。
幸太は彼女持ちだからと了承されても、俺は絶対に無理だろう。
仮に了承を得られたとしても、俺なんかが一緒だと目立つため、勘弁してもらいたい。
「俺が一緒だということも、一之瀬は伝えているのか?」
「それも込みで聞いてもらってる」
「えー三人でいいだろ……俺がいてもしょうがねぇって」
「頼むよ! 神代さんと一緒にご飯食べることになって、俺がなんか粗相しないか怖いんだって! それに話してて二人の世界になったりしたら、俺一人で飯食ってるのと変わらないぞ!」
「そこは自前のコミュ力でなんとかしろよ」
「俺が遠慮なく話せるのは普通の人で、金持ちのお嬢様とか何の話を振っていいかわからん!」
いばるところじゃないんだよなぁ。
正直かなり気が進まないから断りたい。
しかし、幸太自身も困っているみたいなので、いろいろ悩んだ末、条件をつけさせてもらうことにした。
「最初の一回だけだ……。それ以降は一緒に食べないからな」
「まじか!? うーん……最初の一回だけか~」
幸太は、しばらく腕を組んで悩んでいた。
このまま諦めてくれるのが俺としてはありがたいんだが。
「わかった! それで頼む!」
諦めてはくれなかったようだ。
「貸し一つな」
「おっけー! 正直、修司の嫌なことを頼んでいるから、こっちとしても何もないのは申し訳ない」
申し訳ないなら、今後そういうのは勘弁してほしい。
「俺が一緒に飯食ったところで、何か変わるわけでもないと思うけどな」
「話題を振りやすい奴がいるだけで、全然違うぜ?」
「そういうもんか」
気持ちはわからなくもないから否定できないが、俺には関係ないことだろう。
なんやかんや話しているうちに、お互いに食事を終えた。
昼休みも終わりそうになっていたため、食器を片付けて教室の方に戻ることにした。