第百一話 微笑みと夕ご飯
「帰ったぞ~」
「お祖父ちゃん、おかえり」
家に帰ると、和奏が出迎えてくれた。
和奏は俺が荷物を持っていることに気付くと、すぐさま声をかけてくる。
「おかえり。お使い一緒に行ってもらってありがと」
「ああ。貴志さんと話してて楽しかったから、むしろよかった」
「そりゃよかったわい」
貴志さんは嬉しそうに笑いながら、家の中に入っていく。
俺も家の中に入りながら、荷物について和奏に聞いた。
「この荷物どうすればいい?」
「あっ! えっと、私がもらうね」
和奏はどこか慌てた様子で荷物を受け取る。
俺は何か手伝うことがないか台所に向かおうとするが、和奏がそれを止めてきた。
「あともう少しでできるから修司は部屋で待ってて!」
「ちょっ、おい!」
和奏は俺の背中を押して、階段を上らせる。
「いいから、待ってて!」
買い物袋を持ったまま、両手を脇に添えて早く二階に上がれと目で訴えてきた。
どうやら言うことを聞くしかないようだったので、俺は仕方なく二階にある用意してくれた部屋に戻った。
あいつは何がしたいんだ?
そんな疑問を思いながらやることもないため、部屋の窓を開けて外の景色を見る。
周りにいくつか一軒家が見えるが、近くに山があるため自然が多く見えた。
それらは夕焼け色に染まっり、遠くからひぐらしの鳴き声が良く聞こえる。
そんな景色を見ていれば、気持ちのいい風が流れてきた。
なんかこういうのは田舎の良いところだよなぁ。
俺は柄にもないことを思いながら、しばらく外の景色を眺めていると部屋をノックする音がした。
「どうぞー」
「もう下に降りてきていい……って何してるの?」
「いや、ちょっと外の景色をな」
「外?」
和奏は不思議そうに部屋に入って来て、そのまま俺の横に並んで外の景色を見る。
外に広がった景色を見て、和奏は懐かしく思うような表情になった。
「この部屋から見える夕焼けが気に入ったの?」
「見たのはたまたまだけどな。でも、こういう景色は好きだぞ」
「ふーん。ちょっと意外」
「自分でも柄じゃないのはわかってるよ」
俺は少し恥ずかしくなって、素っ気ない言葉で返す。
そんな俺の様子を見て、和奏は楽しそうにクスクスと小さく笑っていた。
和奏は小さい笑いを終えると、少し澄ましたように言う。
「確かに修司らしくはないかなー」
「……うっせ」
そんな不貞腐れている俺に対して、和奏は嬉しそうに笑いながら言う。
「でも、修司がこの景色を気に入ってくれて良かったなって思った」
「どういうことだ?」
「私の好きな景色を修司も好きになってくれて嬉しいなってね」
和奏はそう言いながら、満面の微笑みを俺の向けてきた。
その微笑は無邪気な子供のようなものでありながら、夕焼けに照らされて驚くほど綺麗なものだった。
その笑顔で和奏に聞こえるんじゃないかと思うくらい、俺の心臓の音がうるさく鳴る。
それから、すぐ和奏は何かを思い出したような表情になった。
「あっ、そろそろ行かないと! お祖母ちゃん達が待ってるから、修司も早く来てね?」
「お……おう」
和奏はそれだけ言うと、そのまま部屋を出て行った。
……あんなの反則だろ。
そのまま和奏が出て行った方向を見ながら、自分でもわかるくらいの顔の熱を冷ますように、しばらく外の風を浴び続けた。
ようやく落ち着いた後、俺は皆が集まってるであろう一階の居間に入っていく。
そこにはまるで老舗の旅館で出てくるような料理が並べられていた。
旅館で出てくる料理と言っても、並んでいたのは一人分ではなく、大人数で食べることを想定した盛り付け方がされていた。
「ようやく来たね」
「修司はここに座って」
俺は言われた通り和奏の隣に座った。
「えっと、これは」
俺は目の前の豪華な料理について和奏に聞く。
「これ全部お祖母ちゃんが作ったの」
「全部!?」
「別に大したことじゃないよ」
「なーにスカした顔しとるんじゃ。朝から準備してたくせに」
「……うるさいよ」
そのまま二人は、まるでじゃれ合うように言い合いを始めた。
朝から準備してくれていたのか。
並べられた料理に驚いている俺を見ながら、和奏が小さい声で話しかけてきた。
「あんなこと言ってるけど、サプライズにしようって言ったのお祖父ちゃんなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。でも、料理ができるまでしばらくかかりそうだったから、お祖父ちゃんが修司を買い物に誘ったの」
和奏の言葉を聞いて、俺は未だ言い合いをしている二人を見ながら、ここまで歓迎されてることに嬉しく思う。
和奏は俺の視線に気づいて、二人を見ながら嬉しそうな表情をしていた。
しばらくすると、二人のじゃれ合いは終わり、貴志さんが咳払いを一つした後に言う。
「あーそれじゃ全員揃ったことじゃし、いただくとしようかの」
二人は少し申し訳なさそうにしながら、手を合わせる。
俺も和奏も貴志さんの言葉で同じように手を合わせて、一斉にいただきますと言っていく。
しばらく時間がかかってしまったが、ようやく皆で夕飯を楽しみ始めた。