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少年少女のなすがままに  作者: 月見鯨
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第1章 『新たな生活の始まり』 ⑥

 病院の中に入ると、そこには広々とした受付があった。カーペットが床に敷き詰められ、ベージュを基調とした壁や柱が並ぶ、落ち着きのある空間が広がる。


 俺は橋本先生の後をついて行った。


 「あの……受付とかって……」


 「ああ、それは別に気にしなくていいよ。診察費はタダ、医療費も無し。……まぁ、その代わり色々体調べさせてもらうよ。特に君の場合」


 俺の場合、と最後を強調された感じがして、俺は少し動揺と疑問を感じた。そういえば、まだ聞いていない、気になること1つがあった。


 「残りの3人も、俺と同じ"高校生"くらいの人ばかりなんですか?もっと年齢が小さい人もいるんですか?さっきエドさんから、1人目は俺と年齢が近い、みたいなこと言ってたんですけど……」


 俺は、元々自分は成人している、就職もしていた大人だったという以前の事実を隠し、あえてこの体、つまり転生後の自分についてを聞いた。自分の正体について話すのはあまり気が引けるからだ。


 まあ自分がこの世界の人間じゃ無いことはいずれ暴露しなければならないのだが、現在、今ここで(エレベーターを待っている前で)話すことではない。他の患者も沢山いる。この事はあまり他人に聞かれてはいけない内容だろう。


 「そうだね……大体みんな14歳〜18歳ってところかな。今まで女子、男子、女子、男子の順番に保護してたから、次は女子かな、って思っていたんだけど、私の見当違いだったみたいだね。……まぁ、でも君、意外と見た目が女子っぽいね」


 そうか?女子に見えるのか……。確かに、さっき見た顔は、俺が知っている俺の顔と、似ても似つかない全然違う顔だ。しかし、そこまで中性的な顔だっただろうか?


 「見えるさ。今の髪型だったら。あ、」

 

 話をしているとエレベーターが到着した。壁には鏡が設置されており、俺と橋本先生の顔がバッチリと映る。


 「まぁ、改めて見ると……確かに女の子っぽいかもしれないですね……。声はちょっと低いかもしれないですけど……」


 俺らはエレベーターに乗り込み、7階の上、すなわちボタンすらない場所に触れた。さっきチラ見した一般診療案内の看板には7階までしか無かったはず。何があるのだろうか。


 他の患者もう乗っているため、エレベーターはチマチマと昇っては止まり、昇っては……の繰り返しだ。


 そして7階までで全員が降り、エレベーター内には俺と橋本先生だけが取り残される。


 他の人がいなくなったところで、橋本先生が口を開く。


 「やっぱり、緊張しているのかい」


 「まぁ、そうですね……」


 「これから行く場所は、実は外にはあまり知られていない、重要機密の場所なんだ。くれぐれも他言して欲しく無い。約束できるかい?」


 俺は、はい、と言葉を返した。


 「……何というか、昔から施設とか、入院棟とか、手術室とか……そういうの苦手なんですよね……」


 俺は本音を溢した。もちろん意図的に本音を漏らしたではない。勝手に口から出てきてしまった。自らの拒否反応を言葉を用いて外に吐き出す。誰でもできることだが、意外と勇気がある行動だ。


 そう、これは心を開いた者に対してだけ行われる行為だ、と『あの人』は言っていた。


 一方、『あの人』は、付き合いの浅い奴に本音をぶちまけるのは止めろ、とも言っていた。


 『あの人』的思考で考えるならば、俺はたった今間違いを犯したことになる。会って数分の、何科かも分からない医者に自分の感情をぶつけてしまったのだ。だが、俺は間違いを犯したと思う前にもうすでに言葉を発していた。


「苦手か……。まぁ、その気持ちは大いに分かるんだよね。私だって小さい頃病院に行くのは好きじゃなかったさ。人間誰しもが通る道だよ」


 橋本先生は柔らかい笑みを浮かべる。と同時にエレベーターが停止し、扉が開く。


「そこの奥の部屋に今から入るんだけど、そこで体洗って、病院服に着替えてもらっていいかい?サイズが三つあるから自分の体にフィットするやつ選んでね」


俺は、分かりました、と短く返事をし、橋本先生の後ろを歩く。


そして廊下の突き当たりにある目的の部屋の側面を、橋本先生が指でタッチした。すると、ドアに『Security Mode Off』という文字が表示され、ドアのロックが解除された。かなり近未来な感じのものだっだ。


 「これカッコいいだろ?私たちのお気に入りなんだ」


 橋本先生が俺に向かって笑みを浮かべた。確かにカッコいい。しかし、"私たち"というのは、ここを使うのは橋本先生だけではないのか。


 扉が開くと、そこには玄関があった。床は灰色のタイル張りで収納棚もついている。一般的なマンションの玄関と比べでも遜色がない。


俺は靴を脱ぎ、部屋に入った。自分が手ぶらでいるのが今になって急に違和感となった。橋本先生を靴を脱ぎ、それらを棚にしまった。先生が歩き出したので、俺もその後ろについて行く。


玄関から続く廊下の先に、もう一枚ドアがあり、俺らはそのドアを開けた。


「今病院服取って来るから、そこで待ってて」


 部屋の中に入ると、お洒落な感じの、一般家庭によくある落ち着きのある空間が広がっていた。扉入って右側には階段が上へと続いており、リビング、ダイニング、キッチンが繋がっている構造だ。


 とても病院にある部屋とは思えない、というのが俺の感想。もしかしたら、実際にここに住んでいるのかもしれない。


 先生は階段を上っていく。俺はその姿を見守り、先生が上の階に消えていったところで目線を近くのソファーに落とす。


 ソファーの上には白色のブランドバック。深緑色のソファーの上にポツンと乗っているため、とても目立つ。


 俺はそれをなんとなく眺めていた。と、そこへ


 「あ、ごめん、今ピンクのやつしかないけど……いい?」


 先生が階段を降りながら話しかけてきた。ピンクのっていうことは女性用なのか。俺はとりあえずそのピンクの病院服を受け取った。


 「じゃあついて来て」


 俺は先生の後について行く。廊下を進むと目的の部屋があった。


 「じゃあ、シャワー浴び終わったらこれに着替えてね。私はちょっと準備しなくちゃいけないから」


 先生はそう言葉を残し、脱衣所の扉を閉めた。


 ここまで怒涛の流れだったが、また休息を得ることができた。俺はゆっくりと服を脱ぐ。もしかしたら何か体に異変などが起きてるかもしれない、と思い鏡を見たのだが、


 「何も無いなぁ……。体から何かが生えているとか、そんなアニメチックなことは起こってないか……」


 自分の体は、前世界の俺の体とは全然異なるものの、至って普通の体だ。長い時間見ていると、他人の裸をじっくり見ているようで恥ずかしくなってくる。


 一通り脱ぎ終えた俺は、風呂場のモザイクガラスの扉を開ける。今までライトが付いていなかったが、俺が扉を開けると勝手に明かりがついた。センサー式なのだろうか。


 浴室内も、とても近代的だった。シャワーはタッチパネル式で、見たところ温度や水の強さなどは全部タッチパネルで行うらしい。


「ん?こうやるのか……?……って冷たっ!」


俺は慣れない操作に手惑う。シャンプーやボディソープもいくつか置いてあり(知らない商品ばかりだ)、どれを使えばいいのか悩む。



とその時、横の扉が開く音がした。俺はびっくりして、反射的にそちらの方向を向く。そこにいたのは……

 



 

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