1 転生しました。
年度末でおまけに引っ越しを控えてるので、亀更新です。
ゆっくりでもいいという方、お付き合いください。
毎日、客には文句を言われ、上司には理不尽な要求をされ、やってられるかと、
親友を呼び出しと会社帰りに飲んで憂さを晴らした。
「上司のバカヤロー!」「客と思って調子に乗るな!」
「そうだ!そうだ!」
「彼氏よこせー!」
「そこは、アンタの実力でしょ?」
「え~、ひっどい。それは言わない約束でしょ?」
ほろ酔い気分で信号のない横断歩道を渡っていると、左折したトラックが突っ込んできた。
危ない! 親友を押し飛ばす。
目の前に迫るヘッドライト。宙に舞う体。頭部に走る激痛。
たぶん、あの時私は死んだんだろう。
気がつくと私は幼児だった。
転生したんだ。
転生した世界は、異世界らしい。
お父さんの髪は緑でお母さんの髪はきれいな水色だった。
で、私の髪は桜色。おーい、遺伝の法則はどこにいった!?
しかも、魔法のある世界。使わないでなるものか!
小さい頃から、魔法の練習、魔力の練り上げ、平民なのに魔術検査を受ける7歳で既にでチートだった。
全属性制覇、魔力最大。しかも我ながら結構な美少女。ひゃほう! ビバ異世界転生!
お約束の冒険者ギルドもある。
こうなったら、目指すしかないっしょ!
―― 冒険王に、オレはなるう!!!!
と、思ったこともありました。
冒険者になるという娘に両親は、魔物退治がどれほど危険かこんこんと諭した。
納得しない私に、両親は体験すればわかるだろうと近所の冒険者のおじさんに頼んで、魔物退治に同行させた。
ええ、舐めてました。魔物退治。
私が倒せたのはスライムまで。
ええ、チートですから、もっと強い魔物でもゴンゴン行けたんですよ?
でもねえ、メンタルがついて行かなかった。
ゴブリンなんて人型。切りつけると緑の血が噴き出すし、魔法でぶっ飛ばすと、手とか足とかちぎれるし、断末魔にすごい声で叫んだあげく恨めしそうな目で、私を睨み付けながら死んでいくのだ。
もう、ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ。
前世日本女性のメンタルには無理。
元々、スプラッター物苦手だったし。
人型じゃなくても、角ついたかわいいうさぎの魔物も殺せない。
あんな可愛い物、殺せませんって。
スッパリ冒険王は諦めた。
それじゃ、どうすべ?と、次なる目標を考えた。
そうだ! 魔道具職人になって、冷蔵庫や電子レンジなど家電作って大儲けすればいいじゃん。
うへへ、転生チートだぜ!
魔道具職人になるには、魔法学校で学ぶ必要がある。
ありがたいことに魔力チートだったので、平民なのに奨学生として魔法学校へ入学できたのだ。
入学式の日、私には転生チート、大金持ちの道が見えていた。
大金持ちになったら何をしよう?
いやん。大豪邸建てて、別荘とか買っちゃう?
召使いとか、コックとか執事なんかも雇ってもいいかしら?
イケメンの執事にお嬢様なんて呼ばれたらどうしよう?
妄想しながらニヤニヤ歩いていたら、前から来た男性にぶつかった。
見るからに上品そうな服を着た貴族の男性だ。
うええええええ。お貴族様だ!
この世界は身分社会だ。貴族と平民の差は大きい。
平民が貴族にぶつかったら、無礼打ちされても文句は言えないのだ。
「平民のくせに、殿下に何をする!」
護衛の騎士に、むんずと肩を掴まれ地面に押さえ込まれる。
イタイイタイイタイ。
ひえええ、殿下って言えば、この国の王子じゃん!!
―― いきなりピンチです! 私!
まだ16歳の若さで死んじゃうのかしら?