バレンタイン!キス!エッチ!同棲!クリスマスを殺す2,000文字の小説
場所は学校の教室! 時は放課後になったばかり!
今年も奴がやってくる!
「誰だお前はッ!」
「フハハハハハッ! 地獄からの使者! 【バレンタインデー】だっ!」
「バレンタインデーだとっ!」
バレンタインデーとは強烈だ! 意中の人に焦げ茶色の甘い物をぶつけるらしい! リア充達の祭典だ! 燃やせ!
「ふっ、非モテの貴様に勝てるかな?」
男はぐぬぬと両手を握りしめ、歯を剥き出しにして吠える!
「甘色排便爆散!!!」
ビリィイイイイッ!
男は周囲のリア充に体内で生産したチョコレートを拡散した。
「ぐわああああ!」
教室は整然となった後に、甲高い悲哀が鳴り響いた。
~所変わって暗い場所。4つある席に気だるげな者達が座っている。
「バレンタインは死んだか」
「しかし奴はリア充四天王最弱。面汚しよ」
「ねぇあいつ殺しても良い?」
「くっくっく……」
「「「お前誰だよ」」」
四天王に誰か紛れ込んだ様だった。
「よくわかんないけど、次は私が行こう……」
~所変わって学校。
男は保健室へ連れて来られていた。
外で鳴り響くサイレン。
……すべてが止まる。
時が止まった保健室。
男は振り返った。
「誰だお前は!?」
「フハハハハハッ! 地獄からの使者! 【キス】だっ!」
「KISSだって!?」
「そうだ!」
キスと言えばジーン・シモンズと言う人も居るだろう。筆者も紛れもなくそのタイプである。だが、基本的には親愛の感情を込めた唇と唇の交感である。
「貴様を射ちに来た! バレンタインデーの仇だ!」
「くっ!」
敵の初擊。
男は敵の唇目掛けてカウンター気味にビンタをかます事にした。
服を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着を脱ぎ、腰を捻り、足を深く深く折り曲げて溜め……。
70cm程の高さまで跳び、腰椎が捩れる程に強烈な一撃を放つ。
ボコォ!
男の攻撃は敵の唇の奥深くに入り込んだ。
「ビンタは失敗か!?」
「もごもご」
攻撃は外れて相手の唇の奥深く喉まで侵入してしまった。
抜こうと思うが上手くいかない!
仕方なく引いてダメなら押す!
押してダメなら引く!
押す! 引く!
くそッ! よけい抜けなくなりやがった!
なんか引っ掛かるぞ!
男は攻撃を引き抜こうと前後に激しく動かした!
ウッ! うわぁ!
デロッ!
迸る熱いパトス!
「ほれはひふひゃはい……!」
「キスーーー!」
キスは死んだ。
~所変わってまた暗闇。
「キスが死んだようだな」
「かくなる上は四天王最強である我が……この【エッチ】が出向く!」
「エッチ様が出なくともこの【同棲】がキスとバレンタインの敵を討ってくれよう!」
「僕が出たら直ぐに殺せるのに、くすくす。【クリスマス】である僕が奴をやる……」
「四天王……って数合わなくね?」
「「「……」」」
「みんなで行こうか」
~所変わって男の場所。河川敷。茜空が眩しい。
男は待ち構えるように太陽を背にしていた。
「誰だお前は……ッ! いやっ! 誰だお前達は!」
「フハハハハハッ!地獄からの使者! エッチだ!」
「フハハハハハッ!地獄からの使者! 同棲だ!」
「フハハハハハッ!地獄からの使者! クリスマスだ!」
「複数で襲ってくるなんて卑怯だぞ!」
「うるさい黙れー!」
「うるさい黙れー!」
「うるさい黙れー!」
「まとめてお断りだ! でやぁーーーー!」
俺は服を脱ぎ、エッチを狙って突っ走る。そのまま担いで草のベッドに薙ぎ倒し、ピッタリとくっついて最低限動いて射精した。
男の行動に呆気に取られたエッチは無抵抗に男を受け入れる。
「あれ……私の勝ちかしら?」
エッチは夢から覚めた様に勝利を確信した。
それはどうかな?
エッチの身体が消えていく。
「何故!?」
「エッチは変態の頭文字。子作りのために神が許されたセックスは変態行為ではない。つまりエッチではないんだ」
「なるほどーへーなるほどー! なるほ……」
最低の余韻を残してエッチは消えた。
「エッチは死んだ。次はお前達だ」
「ヒッ!」
「寄るな……助けて!」
同棲とクリスマスは尻餅をついて後退る。
不毛な追い駆けッこは冬まで続き、12/25となった。
「ここにサインを書いたら許してやる」
「何でもしますから助けて……」
同棲は男に差し出された紙にサインをする。
「これがなにかわかるか?」
「え……?」
「婚姻届だ。俺とお前は夫婦。つまりは一緒に住んでも同棲ではない」
「ギャー」
同棲は死んだ。
「あとはお前か……」
クリスマスは震え、太いもみの木の間からシャンパンをジョボジョボと漏らしている。バサバサと雪が落ちる。
「これを見ろ……」
男は頭のかつらを取って、雪の降りしきる大広間で真の姿を表す。
「……ハゲ?」
「そうだ、俺は仏教徒なんだ……」
「ぐぅわぁあああああ!」
クリスマスは爆死した。
仏教徒はクリスマスを祝わないのだろう。多分。
世界の法則は勢いで決まる事もある。ともあれ、彼らは男の凄味によって死に、消え去った。
ーー男はそれを確認すると、広間に背を向けて歩き出す。
広間では、2月と12月に何があったか知りもしない男女が、不思議な顔をして佇んでいた。彼らはやがて清い交際をして、結ばれるのだろう。接吻する事なく、欲望に身を任せる事もなく。
かくして世界は平和になった。
了




