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花筏に関するレポート



この辺りの地域には、花筏という風習がある。丁度このお盆の時期に行われるので、彼岸に関わる儀式なのだろう、

内容はいたってシンプルだ。花草を編んで作った筏を川に流すのである。主に使われるのは、茎のしっかりした菊と、イネ科などのまっすぐな葉である。互い違いに並べた菊を葉で編んで繋げるという形が多いが、他の編み方や植物を使ってもいい。要は草花で船を造ればいいのである。

また、船に同じく草花で作った人形を載せることもある。こちらは雛流しを思い浮かべてもらえばわかりやすいか。船に乗せる前に額を付けて祈るなどするという作法からも、それが厄落としだということが察せられる。

この風習がいつ頃始まったものかはわからないが、記録上少なくとも江戸時代には遡ることができるようだ。日本に菊が入ってきたのが平安ごろ、盛んに栽培されるようになったのが江戸時代だというから、その間だろうか。あるいは菊以外の花が主流だった時代がそれ以前にあった可能性もあるが…。

筏に使う菊を、このあたりでは星見草と呼ぶ。その異名自体は菊の異名として他の地でも使われるものだ。花筏に使う花について、童歌が伝わっている。それによると、花筏に使う星の草(星見草)は、白か黄色が好ましく、赤みのある草は相応しくないのだという。相応しくない理由は、川の神様が赤い花を好まないから。但し、筏に載せる花人形なら赤い花を使っても構わないようだ。

川の神がなぜ関わってくるのかといえば、おそらく、筏を流す川が昔からよく洪水を起こすからだろう。流す筏が川神の不興を買って洪水を起こされては困る、と。

川と神に関しては、いくつか民話も伝わっている。概ね、洪水に関する民話ともいえる。川神に生贄を捧げた話や機嫌を損ねて殺された話もある。少なくともこの地の川神は穏やかな神ではなく、祟る神のようである。知恵比べをしようとして機嫌を損ねて殺された話もあるようだ。

川神が赤い花を好まないというのも、川神に知恵比べを挑んだ話に根拠らしいものがある。それによると、川神に川べりに植わった蕾が何色の花を咲かせるかを賭け、川神は赤と答えたが、白い花が咲いたのだという。ちなみに、この時賭けに使われた花は彼岸花らしい。そうなると寧ろ白い花を嫌いそうなものだが…。また、その白い花を賭け相手の血で赤く染めて勝利宣言をするパターンもある。あるいは、川神が白に賭けて赤い花が咲くパターンもある。いずれにしても、川神が人と花の色で賭けをして、川神が負けるというところは共通している。

川神に関わることで死ぬ話は多いが、純粋に自らの意志で(或いは周囲の意向で)生贄や人柱などになる話はあまりない。また、川神が直接的に生贄を要求する話はない。ただ、川で死ぬことを川の神様に喰われた、と言う。落ちたが死体が見つからない、という場合は気に入られた、という。

不思議なことに、上流で流した花筏が下流まで届くことは少ない。花人形を載せたものは特に、200mもいかないぐらいで転覆することが多い。川の流れは、氾濫時以外は全体的に穏やかだが、ところどころで早くなっているところもある。そういうところに引っかかって沈んでしまうことが多いのだろう。寧ろ、無事に下流まで届くのは不吉だともいう。

川に花を流すという、大変雅やかで牧歌的なこの風習だが、昨今は少しずつ行うものが減ってきているようだ。自分の家の畑に菊などが植わっている、という家が少なくなってきたことも理由の一つだろう。花筏の材料を買いそろえようと思うとなかなかコストがかかる。草を編むのも慣れない人には難しいかもしれない。現代人は昔からの風習というものを軽んじがちだから、意識して受け継いでいかなければそういうものは喪われてしまうかもしれない。

現在、花筏を流しているのは50代以上の老人がいる家庭が中心である。若い人しかいない家庭ではほとんど参加していないようだ。いわゆる核家族となっている家は他所から移り住んできた人間が大半を占めているということもあるだろう。古くから住んでいるわけでもない人間に土着の風習を押し付けるのは好ましいこととはいえないだろうが、はてさて。



私は勘違いをしていた。花筏は雛流しの変種、厄落としの風習、などではない。花筏は形代



最後の一文は乱れた筆跡で書かれている

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