外部指導者の可否
結人は唯に指示を出され徐に立ち上がった。
周囲の少女たちは先程の遣り取りで結人の実力がある程度分かっているので要らない挑発には乗らないよう椅子に深く座り込み結人の眼を据えた
そんな圧力にも似たプレッシャーは意にも介さず、唯に目線を向け始める事を合図しストップウォッチのタイマーが時を刻み始めた
「肯定するメリットはCSR、所謂企業の社会的責任です。学校と言う子供を育み育てる場所で元犯罪者が雇用されていたら不安に思う保護者は確実に存在すると思います。しかし、子供達がその元犯罪者の雇用を見て視野が広がり多様性を学べると思います。そこには数多くの問題があると思いますが超えられると思っています」
結人が静かに席に座ると唯はストップウォッチを止めた
少女たちはある程度結人が何を言ってくるか予想が出来てた為冷静に頭の中を整理した
そしてストップウォッチを止めた唯は一拍置いて少女たちの方へ向いた
「否定派は何か反論はありまさうか?」
そして少女が返事をしながら静かに立ち上がった
「先程の意見では数多くの問題がでると予想されてると言ってますよね?具体的にそれはどう解決するのですか?元詐欺師が学園内を歩いて居て不快と思う人は居ても爽快と思う人は居ないと思いますよ」
「それは本当に全員でしょうか?仮に一人でも元詐欺師等に偏見が無い子供が居た場合芋蔓方式、連鎖的に安心感が生まれ学園内の空気は多少なりとも変わると思います。それを主観で全てを決めるのはどうかと思いますよ?」
結人の言葉を聞き少女は押し黙るが座って居る神無が間髪入れずに手を上げて立ち上がった
「連鎖的に場が和むと考えて居るのもあなたの主観では?( ・ω・) ㌧」
「マルチ等の講演会ではサクラを使い誘導を行います、誰かの意見で心象が変わるのは心理学的に必然なのですが」
結人の一拍も置かず返した反論は少女達に強く刺さった
依然余裕そうな結人を見て怒りが込み上げて来るが何も返せない少女達は大きく息を吸って、何か諦めたような顔持ちで息を吐いた
「分かりました、全員では無い事は認めましょう。では具体的にどう問題を解決するのですか?」
少女は論点の修正を図り先程出た問題の解決策を再度尋ねた
そしてそれを聞いて結人は手を軽く上げ再び立ち上がった
「まずは元犯罪者に付いての偏見を少なくします。この人なら信用出来ると思う様にします、そしてその段階としては先程論議した元犯罪者の雇用に付いて真摯に答えます。それでも理解をして貰えない方には元詐欺師を雇用するに至ってのメリットを説明します。これで最低8割以上の方に理解して貰えると思います」
「メリットの具体的な説明を求める(´・ω`・)エッ?」
「メリットとは2つ、セーフティーネットと犯罪抑制の2つ。セーフティーネットは元犯罪者でも雇用されて差別、偏見が少ないと保護者に思って貰う点です。それと同時に子供達の前科持ちに対する主観が軟化すると考えます。そしてもう一つが犯罪抑制、学校に詐欺をする人物は居ないと思いますが防犯の観点は全てチェックし直して万全の体制にします。それに子供が犯罪に巻き込まれる恐れがある場合の相談にも乗れます。以上の観点を実行すれば保護者からの賛同は得れると思います」
結人がまた静かに座り時計を見た。
開始から既に1時間が経過しようとしていて室内は熱くなっている
そしてそれを物ともしないように少女は水を軽く口に含み呑み込んだ。そして、何か強い確信を得たかのような目をしている少女が立ち上がった
「先程8割以上の賛同者が得れると言っていましたが。そのプランで得れると思う確証、又は根拠は何ですか?」
その言葉を聞き結人は呆れにも近い息を洩らした
そして声を軽く強めて印象強く残る様な口調に変えた
「未来の過程に付いて根拠を示せるでしょうか?前例が無ければその論理は破綻してると考えて居るのですか?では今までの人類に置ける発展は全て前例があると思っているのですか?反論がしたいなら根拠を出せよりそれが何故失敗すると思うかの意見を出してください。論外です」
「そっ、それは・・・」
「意見が無いなら座って貰って良いですか?」
その言葉により少女に芽生えていた強い確信は簡単に折られた
誰よりも直向きにディスカッションをしていると思っていたのにそれを憎き詐欺師が簡単に否定したのだ
そしてそれを軽く一瞥した結人は軽く息を吸って再び口を開いた
「俺がこの部活の顧問に成れば確実にこの部は勝てるように成る」
誰も想像していなかった一言に周囲は軽く驚いた。神無と少女は目を合わせお互いがこの意見はおかしいと無言の意見交換をして少女が立ち上がった
その少女の目は沈んでいるが周りに気付かせない様に敢えて明るく声を出した
「先生!肯定派の人の意見が本議論との関係性が薄い事を言っています。」
その返しが当然来ると分かっていた結人は不敵な笑みを浮かべ立ち上がった
「それは違います、本議論の内容は元詐欺師が外部指導者に成るかの可否に付いてです。そこでその元詐欺師の能力を聞くのは間違って居るでしょうか?戦力になる成らないも大きく可否に関わって来ると思うのですが?」
「肯定派の意見を認めましょう。否定派は静粛にお願いします」
その反論に少女たちはあまり納得出来て居ない。相手の能力に付いて議論をするのは普通に考えてあり得ない。何故ならそれは全て主観であり根拠を示せないからだ
根拠なき議論はただ平行線に成るだけで何も生まれない。それを理解している為尚更納得が出来ないのだ
だがその根拠無き議論に付いて論破されたばかりの少女は内心複雑だった
それでもその自分の思いを代表して少女が立ち上がった
「先生!待ってください!それを議論と呼べるのでしょうか?」
「先程言ったプランは能力が備わっている前提でしか話は進みません。その能力を意見として言うのは間違いでしょうか?」
「そっ・・・それは・・・」
その勇気ある言葉は空しい程呆気なく砕け散った。次の言葉を紡ごうにも上手く理論が纏まらず意味もない接続詞が口から洩れるだけだった
結人はそんな少女達が意見を考えてるのを敢えて無視をして次は大きく息を吸った
「再度言います。俺がこの部活の顧問に成れば確実にこの部は勝てるように成る」
「「・・・・・・」」
「以上です」
その結人の言葉でこのディスカッションは幕を閉じた
辺りに虚無と似た静寂が包んでいる。そんな虚無を唯が咳払いをして場の空気を変えた
そしてその空気は少女達の諦めが如実に表れている空しい空気だった
「観客役として勝敗を決めました」
「「「・・・」」」
「肯定派の勝利とさせて頂きます。何か不服がある場合は理由を述べさせて貰います」
誰一人として手を上げる者は居なかった
分かってはいたけれど事実を第三者から伝えられると辛い物がある
それらを含めて少女は内心複雑な気持ちに成った
「無いようですね。では最初に決めた条件である発言の撤回をお願いします」
侮蔑し軽蔑している男性に自分の言った言葉を撤回するのはとても屈辱的だった
何より負けてこんな惨めな自分が一番屈辱的だった
それでも結果は変わる事なく少女の敗北と言う事実に押され少女は徐に立ち上がった
「発言を撤回致します。あなたの周りにいた人物は屑ではありません、訂正します。申し訳ございませんでした」
「では部活動の外部顧問になる事も認めてくれるよね?」
「先生!そっそれは・・・」
唯の言った顧問に成る事にだけは不服が在った
確かに負けたから条件では認めなければいけない。それは理解している、理解しているが呑み込むことが少女には出来ないでいた
どれだけ葛藤をしても答えは出る事は無かった
そしてそれから逃げるように少女は目に少量の涙を作りながら部室の外に駆けて行った
部室の外は夏の昼なのでとても暑い。先程まで冷房の効いた部屋に居た少女は余計にその暑さを感じて居るだろう
そしてその暑さを感じながら少女は駆けて行った
「待って!どこに行くの?」
突然の少女の行動に唯は慌て止めるが少女が止まる筈も無かった
「俺が行くよ、待っててくれ」
「どう考えても逆効果でしょ?!元詐欺師なら少し位人の心を考えて!」
「あ、はい。すいません」
「取り合えず私が追いかけるから二人は待ってて!」
それを言い残し唯は少女を追って行った
そして残った二人は
((き、気まずい・・・))
ディスカッション回はこれで終了です
説明会も兼ねてたので多分普通より短い構成に成っています。次回からは3~4話を中心にディスカッションが書かれると思います
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