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詐欺師の出所

2017年7月1日の約2年前に世間を賑わす記事が世に出た


それが天才詐欺師 神月結人こうづきゆいとの自首だ。この人物は法律のグレーゾーンと証拠不十分で今まで起訴されることは無かった。


その詐欺被害総額は200億円にも上ると言われている。そしてその人物が警視庁に自首した事で世間を賑わす記事が出たのだ。


被害は医大病院を経営不振に持って行ったとか銀行を負債を回収しきれなくして潰したとか色々ある


そして今まで倒産、自殺原因が不明だった事件の解明も進められ毎週ワイドショーでは結人の事で持ちきりだった。毎日のように起訴の状況、被害者の心境、被害報告。それらが連日報道された



それから2年の歳月が経ち神月結人こうづきゆいとが釈放されようとしていた




朝の6時 結人は看守のモーニングコールで起こされた。ただいつもなら廊下に立たされ点呼を取る所だが今日は違った


刑務官が乱雑に檻のカギを開け出る様に顎で指示を出した


「出所ですか」


そんな結人の静かなつぶやきは刑務官には届かず刑務所の無機質な床、壁、それらに死角が出来ない様に配慮された監視カメラの配置を懐かしく思いながら廊下を歩いた


刑務官が一通りの書類手続きを終わらせて私物を結人に渡した


「何でお前みたいな奴があんな事したんだよ?」


それは刑務官の2年間の謎だった。学歴、容姿は文句が付けれない位華々しい。普通に就職すれば大企業には入れただろう、それなのに詐欺師と言う道を選んでいる事が刑務官には謎だった


ワイドショーの言っている事が事実なら大学在学中から迷わず詐欺師の道を選んだらしい


そんな思いを抱いて刑務官は結人に問うたのだ


「色々あったんですよ」


「その色々が気に成るんだがな・・・」


刑務官は消化不良と言った感覚で首をかしげた


「まぁ、良いじゃ無いですか。もう詐欺をする事は無いので聞かなくても」


結人が有耶無耶にする物だから刑務官はそれ以上は聞かなかった


そして書類の受理が丁度終わり出口に向かって歩き出した


「これからどうするんだ?」


この質問は刑務官が出所する人物に毎回聞いて居るセオリー見たいなものだ


刑務所は犯罪を犯した者を更生させる施設だが現代の日本と言う社会は更生したとしても犯罪者に対する風当たりが強い。そして上手に社会に馴染めず再犯を起こすケースが多い


だから刑務官は出所する人物には例外なく聞くようにしているのだ


「姉の家に泊めて貰います。その後バイトでも頑張って探します」


「そうか頑張れよ」


その一言を言い終えたと同時に外の出口に出た。2年前の事件等誰も気にも留めず記者とかも居ない、そしてその開けて人影が居ない場所で刑務官は最後に結人の背中を叩き


「もう来るなよ」


「お世話になりました」


お辞儀をして出所した


そしてそれが2017年7月1日の朝の出来事だ



「遅いな・・・」


そう結人はぽつりと漏らした


朝だが朝日が結人を照らし汗も掻いてきた


結人は泊めて貰う筈の姉、神月唯を待っているのだが約束の時間が30分過ぎている


その暑さに耐えきれず日陰に移動しようとした所で前方から明らかにこっちを目指して走ってきている黒のクラウンが目に入った


そしてそのままそのクラウンは結人目掛けて止まらず走り続けた


結人がクラウンがこっちに走ってきている事を認識して逃げようとした時にキィィィ!とタイヤと地面が強くこすれる音が路上に響き、クラウンは結人の目の前ギリギリに止まっていた


クラウンから扉を開け出て来た女性は結人を一目見た後時計を見て


「2分の遅刻ね。ちょっと用事があったの」


「30分以上の遅刻だぞ・・・」


「はぁ、宇宙の歴史から見たら誤差みたいな物でしょ?取り合えず乗って」


その女性はそう言ったと同時に助手席に乗り込んだ、これが意味する事は暗に結人が運転しろと言っていると言う事だ


「何で俺が運転するんだよ?2年間車すら乗って無いんだぞ」


「私が運転したら家に着くまで3年は掛かるわよ」


「何故方向音痴をそんなに誇らしげに言うんだ?」


女性ははぁと溜息を吐きやれやれと言った口調で


「理由はない!」


「何でそんなに飽きれたような前動作を挟んできっぱりと言い切るんだよ?!」


「うるさいわね。さっさと行きなさいよ。カーナビはセットしてるんだから」


「ホント変わらないな。この姉は・・・」


そうこのいきなりドリフトをかました女性が神月結人の姉、神月唯だ


結人は文句を言いながらも車を走らせた



12時頃に家に着いた


家は両親が死んだあと姉が遺産として譲り受けてる為中々広い


「入って良いよ」


「俺の家でもあるんだけどな」


「名義は私なのよ」


そう言って少ない荷物を部屋に持ち運んだ


家の中は汚く大量のプリントが乱雑に撒き散らされ机の上には昨日食べたであろうコンビニ弁当がそのまま置かれている。台所もコップとビールの空き缶でとても清潔には見えない。リビングの床はさっき言ったプリント類と服や下着が散らばっている。スーツがハンガーに掛かっているだけで奇跡だと思われた


「俺が今日出所することは知ってたよな?」


その言葉を背中で聞きながら台所にある箱からお菓子を取り出した


「勿論、愛しの弟の出所日を忘れる訳ないでしょ」


「だったらその弟の為に少しは片付けようとか思わないのか?」


「それとこれは別でしょ」


がっくりと項垂れたそして結人は半ば諦めたような口調で分かったよとつぶやき部屋の掃除を始めた


「2階の部屋が結人の部屋だから」


それを聞いてまず結人はその自分の部屋を掃除する事に決めた


その部屋は他の部屋と違い割と綺麗だった。ただ長い時間放置されてたのか埃っぽい。窓を開けてベット等の埃を外に出した


自分の部屋を2時間程度で掃除し終えリビングに戻ると姉の唯が酷い姿勢でソファーに横たわり寝ていた


「てか今日は土曜だぞ、仕事とかないのか?」


「弟の為に有休取って来た」


日々の疲れが溜まっているのかその言葉の後にはすやすやと寝息を立てた


「続けるか」


「あ、私の寝室の隣にある箱は開けないでね」


「寝てたんじゃないのかよ・・・、てか何が入ってるんだ?」


「AVとエロ本よ。だから掃除しないでね」


「だったら隠しとけよ・・・」


姉からの軽い衝撃告白を聞いた後結人は掃除を続けた




掃除は色々あったが終わった


途中、出所おめでとう!と書かれたプラカードを見つけたり、隠しきれてないエロ本があったり、㊙と書かれた書類が何枚も散らばって居たり色々あった


それでも何とか終える事が出来た


そして時刻は午後の10時を下回っていた。時計を見た後お昼も何も食べていない事に気付き途端にお腹がすきだした


冷蔵庫を開けてみるが想像通りビールとアイス、その他おつまみ位しか入って無かった


「冷蔵庫の中何も無いけどどうする?」


唯は寝起きで軽く目を擦りながらソファーから起き上がった


「そろそろ来る筈なんだけど・・・」


それと同時にインターフォンの音が部屋に響いた


「来た!」


と大きな声をあげて玄関に向かう姉を結人はただ茫然とみるしか出来なかった


数分したら嬉々として唯は金のさらと書かれている特上の寿司を結人に見せつけた


「出前取ってたのか・・・」


「愛しの弟の為なら当たり前でしょ」


そう言い終えたと同時に机の上にバンと音を立ってながら寿司を置いた


「食べましょ」


ビールが4本開けられ唯は相当酔っぱらっていた、そして酔っている唯は結人にしつこく絡んでいた


「今何色のパンツは居てるの~?ぐへへ」


「熱い!うざい!寄るな!」


「そんな事言わないでよ~、愛しの弟なんだから~刑務所とかどうだった?楽しかった?」


「楽しくねぇよあんなところ!」


そう言って唯を引き剥がそうとするが強靭な腕力により中々解けない


「ねぇねぇ、これからどこで働くの?」


「バイトでも探すよ」


「雇って貰えるの~?」


「それは分かんないけどやってみるしか無いだろ」


唯は結人の体に纏わり付くのをやめてバッグからガサゴソと一枚の紙を渡した


「ここで働かない?」


結人に渡された紙には外部指導者契約書と書かれていた


これは学校等で部活動を行う時先生だけでなく外部から新たに先生を呼んで指導してもらうと言う物だ


しかし、結人はこの紙を


「断るよ」


「何でよ~、良いじゃない!!」


「まず唯の勤めてる学校は女子中学だろ?」


「それが何?もしかしてロリコンだったの?弟の知られざる秘密を発見してしまったの・・・」


「勝手に勘違いするなよ!それに何の部活だよ。運動部とか出来ないぞ」


ふふん!と言っていきなり立ち上がり胸を張って大きく息を吸った


「『ディスカッション』部よ!」


「は、はぁ・・・」


「どう?やってくれる?」


「やる訳無いだろ。それに元詐欺師が女子中学生に物事を教えて良いのかよ?」


「その点はこっちでなんとかするから気にしないで」


指をピシッと結人に指しさっさと契約書に名前を書けと暗に唯は迫った


「いや、断るからな」


「まぁ、断るなら毎月家賃入れてよね」


「いくらだ?」


「300万よ」


「払える訳無いだろ!」


「だったら出て行く?」


勝ち誇った様な顔で結人を見下す姿勢を唯は取る


「取り合えず行くだけ行ってみる。その後決める。これで良いか?」


顔を一気に明るくさせて結人の手を握りぶんぶんと力強く回した


「なら明日学校に行きましょ」


「休日だろ?」


「部活は休日もあるのよ」


結人はこれは唯が酔っていて明日には忘れてるだろうと言う算段で了承した、しかし。その軽はずみの言動が結人を予想外の展開に導く事をまだ誰も知らない

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