同胞も敵?
少しだけ移動しただけで息が切れた。戦場の重い空気がまとわりつき、呼吸を困難にさせる。整備されていない野は駆ける事も難しかった。
「なんだ?確か職場の車の中で寝ていたはずだ!何でこんな所を走ってる?」
疑問を呈しつつも解っている。説明は受けたのだから。ただ、認めたくないのだ。
「4つの死体から回収いたした。」
野口冬長から4つのカードと袋を渡される。そうだ、1人ではないのだ。強い存在に護ってもらえる。改めてカードを確認する。
☆☆
野口冬長
レベル1
称号:淡州一の相撲取り
星は2つだ。レベルは1。称号を持っているが力士だったのか?他にも技能を・・・「伏せられよ!!」
野口冬長が鋭く小さい声を発した。
前方では侍同士が戦っていた。そこでは男女が言い争っている。
「大人しくカードを渡せば命だけは助けてやらぁ!!」
「嫌って言ってるでしょ!!渡したら私が殺されるもの!!」
そうだ。地球から来た人も敵になるのか。仲間になろう、とは言えない状況なのか。考えてもいなかった。
「逃げよう。あれだけ騒げば目立つぞ。」
今は巻き込まれたくない。身の安全が第一だ。
戦場からようやく離れ、巻き込まれる心配がなくなったと思った瞬間に腰が抜けた。
「ハハハ。情けないなぁ。」
改めて情報を整理する。自分は透、26歳の会社員だ。ケンカすら無縁な生活をしてきた。簡単な自炊くらいはできる独身男性だ。場所は高い草が繁り、身を隠すには悪くない場所だ。
荷物はカードが5枚。袋が5つ。つまり15日分のパンと銀貨が50枚あるわけだ。それが意味するところは15日以内に人の生活圏に入り、銀貨50枚が無くなる前に金を稼ぐ手段を入手しなければならないという事である。
やるべき事はわかった。次に出来る事についてだ。
カードから人を呼び出す、以上。戦闘なんて無理、無理、無理、無理。むしろ邪魔になる恐れすらある。ならば呼び出せるカードは?今は5枚ある。これは幸運だと考えてもいいのだろうか。
まずは星2の野口冬長。称号の「淡州一の相撲取り」は近接戦闘能力を強化する。そして特筆すべき技能に「忘れられた存在」という物があった。
歴史家にすら忘れられた事により、隠密行動の成功率が上がるというのだ。
そうそう野口冬長とは「三好元長の五男。三好長慶の弟。史書の多くには三好四兄弟と書かれ、記載がない事が多い。34人に勝ると謂われた豪傑だが槍場の合戦で戦死した。」
・・・。歴史家には要らない子だったのだろうか。哀しむべき人物である。まぁ、自分も知らなかったんだけどね。
大丈夫、俺は忘れないよ。野口英世?さん?あれ?
残りは4枚。星6がいれば神に感謝するのだが。しかし、現実はそんなに甘くはない。星3の六角義治。星2の小野善鬼。星1の洲賀才蔵、平古種吉。星5どころか星4も居なかった。方針は決まっている。「命を大事に」だ。目指すは「老衰」。絶対に生き延びてやる。
星のランクは知名度、実績、逸話や伝説で判断されます。
星1は知名度も実績も少ない人になります。星2には知名度はないけど能力がある人もいたり、知名度はあるけど無能な人がいたりします。