ばらまかれた命
暗闇の中に声が響く。
「君たちは生死の境をさ迷ってます。ある人は事故で、ある人は病気で。そんな君たちを『アザー』という世界に送ります。そこで何かを為して欲しい。それが評価できるものなら生き返らせます。それが偉業ならばなんらかの恩恵も与えましょう。」
なんだ?映画のナレーションか?
「君たちには1枚のカードが与えられます。そのカードからは人が出てきます。その人は『アザー』の人に殺されると死にます。しかし、君たちかカードから出てきた人に殺された場合はカード化して所有権が移動します。」
カード?それに『アザー』ってなんだ?
「君たちの右手を見てください。カードが1枚あるはずです。カードにはランクがあって星の数で表されます。星6が最高です。カードにはレベルや技能がありますので、星1が星2に勝つ事もあります。」
右手を見てみる。うっすらと光るカードがある。なんだ?何でこんなカードがあるんだ?まさか現実なのか?
「はい、そこ。星1だからと落ち込まない。『アザー』は苛酷な世界です。星1が1枚あるだけで生存率が違います。相手から奪ったカードはレベルが1に戻りますから注意してください。カードの人が負傷したら、カードに戻せば傷の治りが早くなります。それから、後は3日分のパンと銀貨10枚を渡します。では、御健闘を。」
急に世界が明るくなった。
まずい。カードすら見ていない。
「さて、何人が初日を生き残れるかな?でも『アザー』の人間に時間は残されていない。今回は4000人以上送り込んだけど役に立つのか。」
声だけが暗闇で響き続けていた。
明るくなった世界は死に溢れていた。そこは戦場だった。カードをかざして叫ぶ。
「出ろ!そして俺を護れ!!」
現れたのは黒い武者。
「我こそは淡州が住人、野口冬長なり!!」
それが、異世界生活の始まりだった。
戦場に矢が降る。
「ぬうん!!」
野口冬長が槍で矢を払い、鎧で受け止める。
「ぐぁ!!」
「キャッ!」
周りから悲鳴が上がる。そこには矢が刺さった学生や白衣を着た男性が倒れていた。即死だろう。それを見た瞬間に吐き気を催した。吐こうとするが何も出ない。吐けるものがない。
「落ち着かれよ。先程のは流れ矢に過ぎぬ。戦場はあちら。今ならば離れらよう。」
野口冬長の声がどこか遠くで話しているように聞こえる。男性の側に袋とカードが見えた。
「そこから袋とカードを集めてくれ。その後でここを離れよう。」
口を押さえながら指示を出す。
ここは地獄か?始めから戦場とか無理ゲーだ。
ここから逃げよう。情報を整理するのもそれからだ。
「逃げるぞ!!」
戦闘らしい戦闘もないまま逃亡が始まった。