第7話 だいじなメッセージ
「からだ……のこと?」
「そうじゃ。じつはワシのからだはほとんど動かせない状態になっておる」
「どういうこと?」
「右手以外の機能がほとんど失われたのじゃよ」
「なんだって!」
驚きのあまり声がうわずった。
「両足で立つことはもちろんできないし、左手が使えないからギターを弾くこともできなくなった。まあもともと弾けないが」
それは知っている。
「ある日事故が起きてな。そのせいでこうなってしまった」
「あんたはそれを止めるためにわざわざ大発明をして、俺に伝えようとしたのか」
「そのとおりじゃ。あの事故のせいでたくさんのものをうしなった。手術をするのに多くの金がかかった。父は手術費用をつくるために保険金自殺をした。母はわたしを捨ててIT企業の副社長と再婚した。父の残した多額の保険金を持ち逃げしてな。ほんとうに数え切れないほどのくるしみと戦ってきた。ワシはお前にそんな目にはあってほしくないのじゃよ。未来をかなしみ色に染めてはほしくはない。お前には素敵な女性と幸せな家庭をきずいてほしいんじゃ」
俺は熱くなった目頭をおさえた。未来の俺はただのド変態ではなかった。俺を救うためにわざわざ未来から電話をしてきてくれるだなんて、われながらとんだ天才野郎だ。
「あんたのきもち、ほんとうに嬉しいよ。わかった。俺は事故を全力で阻止する」
「阻止する必要はない。事故の起きる現場にいかなければいいだけの話じゃ」
「そうだな。わかった。全力で逃げる」
ふと、受話器からの声にノイズが混じりだした。
「まずい。もう時間がない」
「え、どういうこと」
「通信のタイムリミットがせまってるということじゃ。いいか過去のワシよ。この電話をふたたびかけ直すのは不可能に近い。この通信はもともと奇跡的に成功したのじゃからな。だから一度しか言わないからちゃんと憶えておくんじゃぞ」
「わかった」
未来の俺が60年もの歳月をかけて発明し、そして届けようとしたメッセージだ。なにがなんでも受けとめてやる。
そのとき、甲高い大きな音が外から聞こえてきた。キイイイイイという大きな音。
音のする方向を見た。
それはだんだんと近づいてくるように感じた。
一体この音はなんなのだろうか。どこかで耳にしたことがあるような。そう、日ごろよく街で聞く音に似ている。
すると、とつぜん巨大ななにかが部屋を突き破ってきた。動けなかった。あまりに急な出来事だったからだ。
その巨大な何かにぶつかり、うしろへとつきとばされた。背中をどこかにうちつけ、激しい痛みが俺を襲った。
意識が途切れる直前、近くに落ちた受話器から男の声が聞こえてきた。
「いいかよく聞け。2010年の4月2日にお前の家にトラックが激突する。飲酒運転の馬鹿野郎が突っ込んできたんだ。そのせいで一生立てないからだになってしまった。くれぐれも気をつけるんじゃぞ。おい聞いているのか。ところでいまの爆音はなんじゃ」