第6話 長澤まさみ似の女2
「う・・・・・・うそだろ。うそって言ってくれ」
「いや、ほんとうのことじゃ。彼女はずっと言っていた。婚姻届はしたくないと。なぜ、と聞いたらこう返ってきたよ。『あなたが本気かどうかわからないの』とね。そして、もし結婚したいのなら本気だという証拠を見せてほしい、と言われたんじゃ。ワシはもちろん本気だったよ。身体的にハンデのあるワシにあんなこともそんなこともしてくれたんじゃから。しかもとびきりの美人じゃ。だからワシは婚約指輪として4億円もする5カラットのダイヤを彼女の指にはめたんじゃよ」
「それでどうなった」
「翌朝目を覚ましたら彼女はいなくなっていた。彼女のかおりだけがベッドに残っていた」
『なんてこの男は馬鹿なんだ』
そう一瞬思ったのだが、この男は未来の自分なのであった。俺は受話器を耳に当てながら床にひざまずく。めまいがしたからだ。なにが『彼女のかおりだけがベッドに残っていた』だ。結婚詐欺にあったことを詩的な表現でごまかしやがって。
「そのあとはもちろんたいへんだった。4億円だなんてお金はもともとないからのう。何件もの闇金融から借りてようやく集めたんじゃ。毎日毎日夜叉みたいな顔をしたヤクザが金を返せとワシの家を訪れてきてね。コンクリート詰めにされそうになったことは数え切れないほどあるよ。そのあとは……」
「もういい。聞きたくない」
前途は真っ暗だということを知った。知りたくなかった。部屋の中を見渡すとたくさんの『幸福をよぶつぼ』が目に入る。
詐欺にあう体質は未来でも変わらないようだ。
「ともかく、まさみ似の女が近づいてきたら無視しろ。ろくでもない目にあわされる」
俺はこころの中にまさみ似の女には要注意ときざみつけた。
「もしかして、未来からわざわざ電話してきたのはこのことを伝えるためだったの?」
「いやちがう。もっとだいじなことを伝えにきた」
結婚詐欺にあって大損することよりも大事なこととはいったい・・・・・・。
男はさきほどよりもさらに深刻な口調で言った。
「お前のからだに関することじゃ」