第5話 長澤まさみ似の女
俺はいま、世紀の大発明を目の当たりにしている。
いや正確に言えば『耳当たり』とでもいうべきか。
時空を超えて未来から電話がやってきた。それはなにを隠そう未来の俺からだったのだ。
過去と通話ができる電話を作ってしまうだなんて、われながら天才すぎてこまる。
「いままで疑ってほんとうに申し訳ない」
「謝ることはない。むしろ感心した。かんたんにだまされるような男じゃないとわかってな。さすがだ昔のワシ」
「照れるじゃないか。あんただって大発明品を作ったんだろ。天才にもほどがあるよ未来の俺」
「やめろ、照れる」
俺たちは褒めあった。自分を褒めるのも悪い気はしない。
「ところで、なんで過去と通話のできる電話を作ろうとおもったの」
「それはだな。お前にとあることを伝えなければいけなかったからだ」
一体それはなんなのだろう。俺に関係のあることなのだろうか。
「それで伝えたいことというのがじゃが」
「あ、その前にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ」
「あんたっていま何歳なの」
「ワシは今年で81歳だ」
81歳か。なんとなく自分は早死にするかもしれないと思っていたからこれは朗報だ。これからもジャンクフードはたくさん食べよう。
「それでな、伝えたいことなのじゃが」
「あ、その前にさ、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ質問ばかりじゃな」
「いやだって未来の自分と話せるだなんてそうそうないじゃない。ガリガリ君の当たりが出る確率くらいすくないでしょ」
「いやガリガリ君の当たりはもっと高確率だと思うが」
「どっちでもいいけど、未来のこと聞くチャンスなんて滅多にないわけ。だからいろいろ聞きたいのさ」
「お前のきもちはわからなくはない」
「だろ」
「わかった。質問を許そう。しかしもう時間があまりないから質問はひとつだけにしてくれ」
「時間がない?」
「そうじゃ。さっきも言ったが、過去とつながったのはこれがはじめてなんじゃ。いままで何度も実験に失敗している。この通話は奇跡的につながったようなものなんじゃ。だからいつ切れてもおかしくない不安定な状態なのじゃよ」
そんな微妙な状況の中、俺たちはリコーダーをなめまわしたという変態話で盛り上がっていたのか。
ほんとうはいろいろと聞きたいことがあった。だがしかたない。ひとつにしぼった。
「俺の未来の嫁について聞かせてくれ」
やはりこれだろう。未来の自分がどんな嫁を手にしたのか気にならない男はいないはずだ。梅子でないことだけはわかっている。
「嫁・・・・・・か」
男はさきほどまでの揚々とした雰囲気から一転して、暗澹とした声質に変わった。
「まさか結婚できなかったのか?」
「なんと言えばいいのかな。複雑な問題なんじゃが。まあ結婚はしたよ」
俺はホッと胸をなでおろした。てっきり天涯孤独の身になるのかとおもったじゃないか。
「で、どんなひとなの? 美人だったりする?」
「ああ、とてもきれいなひとだ。長澤まさみにそっくりじゃよ」
「な、長澤まさみってあの女優の!?」
「そうじゃ、そのまさみじゃ」
俺はガッツポーズした。
「だけどな、すぐにいなくなった」
ガッツポーズをとりけした。
「なぜ」
まさか病気かなにかで他界したのか。
「聞きたいのか」
「聞きたい」
「結婚詐欺だったんじゃ」