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「バイトも入って新装開店したからには大儲け間違いなし!」
新しく取り付けた、『ファンシーマジックブックストア・魔本堂』の看板の下で、店長――ネイジはそう意気込んだ。
看板は以前の物が諸事情で外されて以来、付け直すことが困難だったらしい。ものぐさと体力的な問題で。
そしてそれが達成された今日、店は新たなスタートを切ったわけだ。
……というのを、クエストはネイジと揃いのエプロンを着せられながら聞かされた。
「まさか本当に働かされることになるとは……」
なぜか勝手に取り決められたバイトの話は、結局そのまま、強引に押し切られる形で決定してしまった。
もっとも正式な契約だったはずもなく、まして魔法によって服従させられたわけでもないので、無視して旅を続けることも出来たのだが――
そうしなかったのは、彼女の提案が自分にとって魅力的であることも事実だったからだろう。
巨大な、そして魔術的な禍々しさを感じる本屋を見上げて、クエストは改めてそれを感じた。
「ここに住み込み、か。朝起きたら忌避的な本に囲まれていて、幻想的な風景が目の前に……」
呟き、ニヤニヤとした笑みがこぼれるのを止められない。
これからの日々、少なくとも目は常に満たされ続けるだろうと確信出来た。
「しかし……」
と。ふとクエストは疑問を呈した。
隣にいる、相変わらず魔女らしい風貌――大儲けを夢見てだらしなく悦に入っているのを考慮しない場合の風貌だけは魔法使い然とした、『魔本堂』の店主に。
「お客さんなんて来るんですか?」
「当然だ。なにしろ本物の魔道書を売っていると触れ込んだのだからな。これに食いつかずして、なにが人間か!」
自信を持って頷いてから、強く拳を握る。彼女はそれを、大願に満ちた目で振り上げて。
「そして私は、この本屋を使って大儲けするのだ!」
それはバイトが決まってから、何度も聞かされたことではあった。
店主の目的は金儲けに他ならない。彼女はそれに酷く固執していたが、クエストがその理由を問いかけた時、きょとんとする店主が返して来たのは実に単純な答えだった――「特別な理由が必要なのか?」
クエストは人を幻惑するような、魔道書を中心とする奇怪で俗世から切り離された本屋に似つかわしくない野望聞くたび、肩を落ち込ませて項垂れていた。
ネイジは集客に自信満々のようだったが、
「実家に続いて、この店まで倒産なんてのは嫌だなぁ……」
「大丈夫だ! なぜなら大丈夫なのだから!」
「…………」
彼女の自信に比例して、クエストは不安の方を大きくしていった。
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そして――数日後。
正反対の未来を思い浮かべていた二人だったが。
「店長ー……」
「…………」
その予測が的中したのは、クエストの方だった。
「今日もお客さん、一人も来ませんね」
「なぜだああああああああ!」




