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白い部屋

白い部屋で2人

作者: まーたゃん

「なぁ、礼菜」


俺の部屋にペンを走らせるカリカリという音とシャカシャカというとだけが響く。


「礼菜、お前何してんの?」


頭につけられたシャンプーハットが垂れる泡を受け止め、それ以上の落下を防ぐ。

いつ手元に垂れてくるのかとヒヤヒヤする。


「シャンプー」


今まで無言を貫いてきた彼女は小さく答えた。

その声だけを聞くと小・中学生かと思うほど幼い声は分かりきったことを答える。

俺の後ろに陣取った彼女の声はいつもより弾んでいる気がした。今この時を楽しんでいるような声。


「いや、シャンプーしてるのは分かるんだって」

「?…じゃあ、なんなのだー?」


首を傾げてるのが見ずとも分かる。

…礼菜はこんなんでも俺と同じ大学生である。


「なんで俺の髪でやってるんだよ。ついさっき風呂入っただろ?」

「体は洗ってあげたけど、髪は洗えなかったから。だから今やるの」

「それはお前がトイレで寝ているせいだ」

「やーるーのー!」




俺と礼菜は付き合っている。しかも、同棲までしてしまっている。

礼菜の家族とは物心つく前から良くしてもらっていた。

大学進学にあたり、礼菜が1人暮らしするのを心配した両親にお願いされたのだ。


「付き合ってるんだし、良いでしょ?」と。


それでいいのかお義母さん、大切な一人娘を差し出すな。

…ちなみにお義父さんの方は条件を出してきた。


『礼菜と結婚すること』


まあ、つまりヤることやるなら責任を取れ、と。



俺の家族?

アイツらは基本的に放任主義だ。正確にはもぬけの殻になった。

俺には姉がいた。姉の有紀は6年前に、自殺した。

両親の大きな期待を一身に背負い続け、息抜きもろくに出来ず…自室で首を吊った姿で発見された。

それ以来、アイツらは子育てに恐怖を覚えてしまったようだ。

説教することも、褒めることもなくなり、子供に期待することも一切しなくなった。


「金は出すし、最低限の生活は保障する」


そんなスタンスへと大きく変化した。

当然、俺は戸惑った。両親の大きい期待を道しるべにしていた俺にとっては先へ進む道も、帰り道さえも見えなくなったも同義だった。

そこで助けてくれたのが礼菜の両親だった。

彼らは俺を実の息子のように叱り、褒め、育ててくれた。




「紅希、きもちいい?」


礼なの声で時間が現実へと戻ってくる。

シャカシャカと頭を洗われる音、頭皮を擦る礼菜の細い指の感覚。


「…気持ち良い」

「私のナカとどっちが気持ちいい?」

「下ネタは禁止」

「ぷぅ」


頭を洗い終わったのか、指の動きがマッサージへと変わる。

いつ泡が落ちるのかとヒヤヒヤしながら心地良さに身を委ねる。

爪が当たらないようにされているから痛くないものの、指を軽く立てられる。

指の腹の部分で頭を掴むように圧力がかけられ…するりと指が逃げていく。



「なぁ礼菜、もう1回聞いてもいいか?」

「頭かゆいの?」

「いや、気持ちいいんだけどさ。…一緒にお風呂入った後は勉強しようって話だったよな?」


俺は手元でやっていたノートへと目を向ける。

数式が踊っている。俺は礼菜ほど頭が良くないので、予習復習をしないと勉強がすぐ理解できなくなってしまう。

髪を流しに行くために、一度中断しないといけないかな。…ま、嫌なこと考えたし息抜きにいいかな。


「えっちして疲れた」

「…襲っちゃったのは悪かったよ」


髪を洗えなかった分、サービスする。って言われて泡をつけた胸や腹をスポンジに背中を洗われたら。

男として理性が持たないもんだろ?




「ん、終わり」


礼菜の指が離れた。

彼女がキッチンへと誘導するので仕方なくついてく。


「美容院だと、こうする」


キッチンにあったのは最近出た腹筋用の、背もたれが倒れる椅子だった。


「…これって背もたれ固定できないよな」

「とりあえず座って?」


とりあえず座った。


「とりあえず倒れて?」


とりあえず倒れた。


「ストーップ」


キツい。


「お客様、お流ししますねー?」


首をシンクの縁に乗せられるのが唯一の救いだった。

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