2話 残念なイケメンでした
赤黒い髪の男はルーイ・ルー、明るい青い髪の男はルーク・メルリー、茶色に近い金髪の男はルーレス・リメイア、という名前だそうだ。
彼ら三人は教会の取り決めにより異世界から巫女を――私たち三人がその巫女になる資格を有しているらしく、召喚したのだという。
「そんなのアタシの知った事じゃないわよ!」
「そちらの都合はともかく、私はただの学生です。巫女なんて知りません!」
三人の男に説明を受け、市橋嬢は眉を吊り上げて怒鳴り、鳴海嬢は泣きそうな顔をしながらもきっぱりとそう言い切った。
私はもちろん無言である。思う所はいろいろあるけど、二人がすでに言ってくれている――学生ではないが――のだし、そもそも言う度胸がないからね。
男たちは憤る二人に少し困ったような顔をしたが、何も言わない私に気付くと少し驚いたようだった。
赤黒い髪の男――ルーイ・ルーが言う。
「あなたは驚いていないんですね」
「……驚いてますよ」
聞かれれば答える。
答えるが続かない。こういう時、何を言えばいいのかわからないの。だから、コミュ症とか言われてしまうのかもしれないが。
普段ならその後に気まずい空気になったりもするのだが、私の答えにルーイ・ルーは自然に言葉をつないでくれた。
さすがイケメン。社交性はきっとレベルMAXだろう。
「…それだけですか? なんていうか恨みとか怒りとか」
「もちろんありますよ。けど、それを出したら何とかなるんですか?」
不思議そうな問いに……問いかけてくれるので、答えられる。
が、私の言い方には可愛さどころか愛想自体がない。それどころか、聞く人が聞いたら普通に嫌味である。
わかっているのに出てしまったこの言葉。喧嘩を売らない方針だったのにと内心冷や汗をかくが、外に出た言葉は戻らないのでどうのしようもない。
けれど、ルーイ・ルーは私の答えに呆気にとられたような顔になっただけだった。その様子からして、短気な人ではないようだ。少しほっとする。
そんな私の心を知ってか知らずか、ルーイ・ルーは気を取り直したようにゴホンとひとつ咳をして、それから真面目な顔で言った。
「その通りですね。私が言える言葉でもないのですが、すみませんでした」
私に向かって、大真面目にルーイ・ルーが頭を下げる。
彼のその行動に私はとても慌てたのだが、半分パニックになっていた事もあって、何も口に出すことができないでいた。
そしてどうしたらいいのかとオロオロとまわりを見ると、驚いた顔のルーク・メルリーとルーレス・リメイアがこちらを見ていた。
その前にいる市橋嬢と鳴海嬢もまた、先程までの憤りはどこへやら…目を丸くして私とルーイ・ルーを見比べている。
こういう時どういう態度をとったらいいんですかね!
そんな私の心の叫びが届いたのかどうかはわからないが、頭を下げていたルーイ・ルーは勢いよく頭を上げて私の方へずいっと近付き、私の空いている方の手――片方はケーキの箱を持っている――を取った。
突然の行動に驚き、私は反射的に手を振り払って一歩引こうとする。が、痛くはないが力強く握られているらしく、成功はしなかった。
顔が引きつっている自信がある。
「それはそれとして、是非とも我々の巫女になってくれませんか!」
「「結局それかい(ですか)!」」
硬直している私の手を放さずに、ルーイ・ルーがそう言うと、即座に市橋嬢と鳴海嬢のツッコミが入った。
しかし彼は動じない。
二人のツッコミを華麗にスルーし、なぜか顔をずいっと私に近づけてきた。
ただでさえ近いのにさらに近く、である。
自分で言うのもかなり切ないが、いない歴をなめるなよ!と言わんばかりに男性自体に免疫のない私である。ただでさえ硬直するほど混乱していたのに、さらに混乱せよと言わんばかりに近付いてきた男――ルーイ・ルー。
反射的にその顔に頭突きを入れてしまったのは不可抗力だと主張したい。
「――ぶっ」
頭突きに使った私の頭は平気だったが、ルーイ・ルーはよほど痛かったのかその場に一度屈みこんだ。片手で鼻を押さえながら、涙目で私を見上げてくる。
濡れた紅い瞳というのはなかなかに色っぽい。
色っぽいが、それでも鼻を押さえていない方の手は私の手を逃がすまいとしっかり握っている辺りが、なんとなく残念な感じがした。
残念なイケメンとはこういう男の事を言うのかもしれない。
「…話だけでも」
残念なイケメンに認定されたルーイ・ルーは涙目のままで懇願するようにそう言った。鼻を押さえているからか、よほど痛かったのか、少し鼻声というか涙声というか。少し弱々しい感じのする声音である。
被害者は私の方であるはずなのに、なんだか少し弱い者いじめをしているような気分になってくる。
「……端折らずに最初から全部話してください」
じわじわと良心に訴えてくる攻撃に負けた私は、ついついそう言ってしまったのだ。
押しに弱いというより、なんかこう、ねぇ。
良心が痛むような攻撃を仕掛けてくるのは卑怯だと思います! ハイ!
「…!! ありがとうございます!」
話を聞くだけで巫女になるとは言っていないのだが、ルーイ・ルーは涙目のまま笑顔になり私に抱きついた。
もちろん、抱きつかれた瞬間に私の肘が彼のみぞおちに入ってしまったのは言うまでもない。
心臓ばっくばくだし、すんごい驚いたんだから仕方ないよね!うん。
ちなみに、そんなセクハラ男のルーイ・ルーと被害者である私の様子を、他の四人は呆然とした顔で見ているのだが、その事に気が付けるような心の余裕が私にはなかったのも仕方のない事だったと主張したい。
※2016年5月9日、2話全文、書き直ししました。
※1月4日 サブタイトルに話数を追加しました
※12月31日 サブタイ直すの忘れて投稿してたので、サブタイを直しました