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異世界にきたから婚活するよ!  作者: つられるクマー
1章 召喚されました
12/33

12話 理由があったようです

メフィトーレス視点で主人公は出てきません。

正直、彼の一人称が書きにくかったです…。

「覚悟っ!!」


 声を出したのは余程の自信があったからなのか、奇襲とはいえ掛け声をかけねば済まぬ真面目な性格だったのか。

 どちらにしろ愚か以外の何ものでもない。

 振り向きざまに剣を抜き、その男の剣を弾き、待機状態の陣へとマナを通す。


『貫け』


 起動言語(マジックスペル)を発すれば、無数の氷の剣が生まれ、剣を弾かれ地に落ちたその男へと飛んでいく。

 男が氷の剣に気付いて“魔法”で盾を作るが、その程度では意味がない。

 “貫く事に特化した氷の剣”は盾ごとその男の身体をを貫き、手足からは力が抜けたのだろう。だらりと下がり、動かなくなる。

 男の身体から氷を伝って流れる赤黒いそれは、その男の行為の代償である。


「メフィトーレス陛下」


 死んだ男はそのまま捨て置き、剣を腰の鞘へと戻すと、その先から一人の男――レイリス・メイリンが駆けてきた。

 男とは思えないほど艶やかな金の髪に空を思わせる青い瞳。年齢(とし)にしては幼く見えるその整った顔している。帝都のミレイア劇団の花形と言われれば誰もが納得するだろう。

 ここへ来ることは告げていない。用事があって探していたのか、先程の戦闘で生じた魔法や魔術の気配を感じてきたのか。

 レイリスは私の前で足を止め、地に寝そべる男を一瞥してから口を開いた。


「一応、決まりなんで。陛下、大丈夫でしたか?」

「問題ない」

「ま、そうですよね。奇襲とはいえ、この程度の“魔法使い”が陛下に勝てる訳がないですからねぇ」


 レイリスは軽口をたたきながら、うんうんと頷く。

 そして思い出したように手を叩いた。


「そうそう、陛下。報告です」

「動いたか?」

「いいえ、逆です。教会は巫女殿(かのじょ)を切るみたいですよ。他2人の巫女には何も告げず、捜索すら行っていないようです」

「そうか」

「そです。ただ、あの“魔眼”殿だけは巫女殿(かのじょ)を切る事を良しとしなかったみたいなんで、ひょっとしたら彼が動くかもしれません」

「…そうか」

「まあ、まだ確定はしてないんで、陛下。邪魔なものが出てくる前に、がんばって巫女殿(かのじょ)を口説き落としてください」

「……善処する」


 私が頷くと、お願いしますよとレイリスは真面目な顔で頷き返してきた。

 言われなくてもそのつもりだと付け足すと、何故かレイリスは嬉しそうに笑った。

 なぜそこで笑うのだろうかとレイリスを見ていると、レイリスは私の視線に気付いたようだ。そして、楽しそうな顔のまま「後始末させるのに人呼んでくるんで、陛下はちょっとコレが処理されないように見張っててください」と言って、城の方へ走っていった。


 死体の見張りを頼まれた私は、とりあえずそれを保護する結界を張る事にした。

 光と闇の術式で組み上げ、“陣”として完成されたそれへと、鎧を介してマナを通す。


『包み護り保護せよ』


 先程とは違う、結界の為の起動言語(マジックスペル)を告げれば、死体のある地面に魔法陣が現れ、そこから透明な光のようなものがにじみ出て、その死体を包んでいく。

 これでこの死体が盗まれることも、この場で別の誰かに処分されるということもないだろう。今張った結界はそういう結界だ。同等以上の魔術師による解除か、特級レベルの魔法でも使わなければ解ける事はない。


 結界を張り終えた私は城の方をもう一度眺めるが、まだ戻ってくる様子はない。

 特にする事もないので、先の戦闘で使った待機陣を補充しておくことにした。

 熱と風の術式を組み上げ、マナを通す前の状態で固定させる。それを鎧の内側に刻み込んである魔術陣のひとつへと馴染ませ、定着させる。その陣が刻まれている部分が熱を持っているが、安定すればそれも消えるだろう。


 常に身に着けているこの全身を覆う鎧。

 これは魔術を使う為のマナを動かすための媒体であり、鎧の内側には魔術を保存しておくための魔術陣が刻まれている。その為、数多く――数えた事はないが1000の魔術陣を保存してもまだ上限ではない――の魔術を起動前の状態で保存しておくことができる。もちろん、普通の鎧としての耐久力もそれなりにある。

 通常、魔術師はマナを操る為の媒体に杖を選ぶ――杖が一番マナを動かしやすい――ものなのだが、剣を扱い前線で戦う事の多い私にとって、この鎧はとても都合がよく、使いやすいのだ。

 が、巫女を得る事ができれば、それも変わる。


「ふむ」


 教会は巫女――スイナを切る事にしたという。

 そして、スイナの魔法が使えない発言。


 スイナは“救世の巫女”ではない。


 それが、教会の下した結論だったのであろう。

 だからこそ捜索等の無駄な事はしない。救世の巫女以外に価値はない。教会(かれら)はそう言っているのだ。

 まあ、レイリスがあの“魔眼”がどうのと言っていたが、彼こそ教会そのものと言えるような冷徹で利己的な男だ。

 教会がスイナを切ると決めた以上、“魔眼”が動く可能性は限りなく低く、動くとしてもかなり後になるだろう。


 それらはスイナを誘拐してきた我らにとってはありがたい。

 が、スイナ自身にとっては違うだろう。勝手に呼ばれ、目的と違うから捨てる。

 その境遇に同情し、すぐにその彼女を利用しようと誘拐したのは誰だと自問し、苦い笑いがもれる。

 私とて、他人の事をとやかく言える立場ではない。

 婚姻により同意の上で交わらなければ巫女の恩恵は発動されず、それどころか今まで使えていたマナを使えなくなるからこそ――拒否させるつもりはないが――彼女の返事を待っている。

 が、その条件がなければおそらく強制的に自分のモノにしてしまっただろう。

 魔術師にとって巫女というものには、それほどに価値がある。

 そして巫女を欲しがるモノは魔術師だけではないだろう。魔法が使えようが使えまいが、マナが重要であるこの世界の様々な事象には、“巫女である事”にこそ意味があるのだ。

 魔法が使えないという事で教会は救世の巫女ではないとは判断したが、おそらく―――


「――陛下、処理班連れてきましたよー」

「そうか」


 城の方からレイリスが数人の兵士を連れて戻る。

 彼ら――兵士たちは「こいつらも懲りませんねぇ」「さすが陛下。見事な術式です」「氷の剣ってロマンですよね」等を口にしながら、死体を観察しながら集まった。


「陛下」

「わかった――『除』」


 私が結界を解くと、彼らはそれぞれの魔術を用いて地面ごと死体を持ち上げる。

 宙に浮いたソレは、ピシリと音を立て、端から順に変色して――石の像へと変わっていく。

 それを見たレイリスは残念そうに溜息をつき、私を見た。


「やっぱりかぁ。陛下、ご協力感謝です」

「うむ」


 石の像となったそれをかつぐと、兵士たちは私に一礼してから城へと戻っていった。

 レイリスもそれに続こうとしたが、その足を止めて振り返った。


「そーいや陛下、こんな所で何をしてたんですか?」


 ここはリリスレイアの中央、帝都ルべリアのはずれにある森の中。

 帝都の城壁内にあるこの森には多くの草食動物が暮らしており、木々に実る果実も多い。

 一定の金額を支払えば誰でも入れるこの森は、貴族はもちろんのこと、平民からも憩いの場として親しまれている。

 そんな憩いの場に私――皇帝であるメフィトーレス・ルべリア・シシトーア・リリスレイアがひとりで居る理由が見つからなかったのだろう。彼は不思議そうな顔で私を見ていた。


「アーリを採りに来た」

「アーリですか? 調理場にはなかったんです?」

「実ではない。花の方だ」

「花? そりゃまた何で…というか、まだ咲いてないでしょ?」

「つぼみの付いた枝でいい。アーリはスイナの世界の“さくら”という花と似ているらしい」


 アーリの花の絵姿を見た時のスイナの表情を思い出して告げる。

 まだ呼び出されてから数か月とはいえ、二度と戻れないかもしれない故郷を思うその顔は、とても寂しそうに見えた。私はそれに同情し、故郷の花とよく似た花を直に見れば元気が出るのではないかと考えた。

 そう答えると、それはレイリスにとって満足いくものであったらしい。嬉しそうにうんうんと頷いた。


「巫女殿が喜んでくれるといいですね!」

「…そうだな」


 しばらくの間満足そうにレイリスは頷き、やがて満足したのか「じゃ、戻りますね」と言って城へと帰っていった。

 私はアーリの花のつぼみを探すべく、レイリスとは逆の方へ――森の奥へと足を踏み入れた。

※2016年5月9日、12話全文、書き直ししました。

※1月12日 誤字訂正しました


風で空気を集め、熱変動で空気中の水分を凍らせて、それで剣を作った魔術です。

メフィトーレスは簡単そうに使っていますが、複数の術式を組み合わせて作った魔術はかなり高度なものなので、並大抵の魔法使いでは対抗できません。


それから、無双できてないからタグ外した方がいいのだろうかと気付きました。

毎話毎話、無双する予定で書いているのに、書き上がるといつも無力なままのスイナさんです。

彼女に無双させるのは諦めた方がいいのだろうか…。

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