隣人の侵入
時刻は午前3時。場所はイスラム連邦残党指導者が現れる予定の場所から二キロの地点。ヘリから降りる。
『じゃあな、モリゾー1』
「また基地でな。さあいくぞ」
ギリースーツを着てGPNVG-18を頭に装着。背中にバレルを格納したGM6と弾薬を入れたバックパックを背負い、歩き出す。
「狙撃地点につくのはできるだけ早くしたいな…」
残党指導者が現れる予定時間は現地時間午前9時ごろ。それまでに到着すればいい。
ACRにショートスコープを付け、周辺を警戒しながらすすんで行く。
沈黙が辺りを包んでいたが、柊が口を開く。
「ねえ」
「ん?どうした」
「落合たちが来るのって…」
「6時くらいに基地を出て一時間くらいでつくはず。時間が合えば89式戦闘装甲車改も一緒に来るみたいだが…どうやって降ろすんだろうな。滑走路は無いしヘリだと吊れないしなぁ」
また沈黙が辺りを包む。そうしているうちに狙撃地点に到着した。
バックパックを降ろし、中からGM6、弾薬とスポッティングスコープを取り出す。
GM6のゼロインをし、弾薬を装填する。
「柊、まだ時間があるから休んどけ」
柊に声をかける。
「わかった」
そして柊は休息をとり始めた。
双眼鏡で辺りを確認したり、風向を調べたり距離を確認していた。
辺りが明るくなり、間もなく予定の時間になるころ。
「…来た」
フリーズドライのレーションをかじっていたときだった。
「どこだ?」
スポッティングスコープを覗く。
「アンテナが載っている建物のところ。二台目の乗用車に乗ってる」
「すこし様子をみよう」
乗用車から降りて数人の男達と話し込んでいる。
4、5分後。そろそろ話が終わりそうな感じがした。
「柊、そろそろ終わりそうだ。撃て」
ドドドドドン!
あきらかに12.7㎜弾よりも大きな音がした。
「あそこ、装甲車がいる!」
スポッティングスコープで言われた方を見る。
そこには赤い星を側面につけた92式装輪装甲車がいた。
「えっ、あっ!本当だ!奴らは?」
残党達のいたところには血だまりができていた。
『瑞生、柊、聞こえるか?人民開放軍がついにタジキスタンへの侵攻を開始したようだ。多国籍軍一個小隊が攻撃を受けた!』
「こちらモリゾー1!目標が人民開放軍の装甲車にやられた!くそ、こっちに向かってくる!」
『わかった、すぐに行く!』
スポッティングスコープをバックパックに入れ、GM6を小脇に抱えて離脱する。
「柊、HK417A2を使え。もしものために俺はGM6を使う」
対物ライフルだが、普通のライフル並の反動といわれるGM6。膝をついて撃てばなんとか撃てるはずだ。
「…了解」
柊は自分のライフルを取りだし構える。
「予想より早く人民開放軍がここに来たな…ちくしょう、後ろにも回り込まれてたなんて」
「瑞生、前方の廃屋に入って。そこでGPSを使おう」
ドドドドドン!
92式装輪装甲車の25㎜機関砲が放たれる。
「気を付けろ、奴ら俺らも殺る気だ!」
相手から攻撃された。やられたら反撃をしてもよいことになっている。
膝をつき、GM6を構える。狙いは装甲車の運転手。幸いにも敵は前面をこちらに向けて前進している。
ズドン!
ガシャコン
窓の装甲板に穴が空き、停車する。
「よし、停まった」
後部から9人兵が降りてくる。それを一人づつ順番に命中させ、身体を真っ二つにする。
その隙に建物の中に入る。
「うわぁ…IEDじゃねえか」
そこにはコードが繋がっている榴弾砲の砲弾が。近くには起爆につかうらしき携帯電話も。
GM6をバックパックに収納しながら
「柊、GPSを作動させながらでいい。こいつをこの建物の陰に隠して路肩爆弾にしよう」
「どうやって起爆させるつもりなの。まさか道連れになるつもりじゃ…」
「馬鹿言うな。米軍式IED処理を応用するんだ」
重さ40㎏以上の榴弾を持ち上げ、建物の陰に隠す。
「柊、お前にはこの砲弾をGM6で撃って貰う。見事命中させれば砲弾は炸裂し、装甲車を潰すことができる。タイミングが大事だ」
「わかった」
500メートルほど離れ、GM6を展開する。
「さっきの奴とは違うのが来たな。こちらモリゾー1、迎えはまだか?」
『あと少しだ。待っててくれよ!』
『こちら作戦司令部だ。UAVを送った』
「こちらモリゾー1、了解した。間もなく建物の横を通る奴は攻撃するな」
「…もうすぐ建物の横を通る」
「よし、今だ」
ズドン!
ガシャコン
パッ、ドドドン!
榴弾に命中、土煙が上がる。
「どうだ?」
『こちら作戦司令部、熱線映像で装甲車の破壊を確認。目標の後ろに新たな装甲車を確認』
「航空支援を頼む!」
『了解、ヘルファイア発射!』
シュオォォォ、ドドン!
『命中、次弾発射』
シュオォォォ、ドドン!
『命中、命中。ヘルファイアによる攻撃を終了。敵位置を報告する』
MQ-1プレデターのヘルファイアミサイル装段数は二発。その全てを撃ち尽くした。
「了解した。回収車、敵位置を知らせてくれ」
『回収車は一キロ後方、一番近い敵位置は前方600メートル』
スポッティングスコープの視野に敵装甲車を入れる。
「いたいた…車輌は同じ、92式装輪装甲車。停車した…?」
「…後方ハッチ開放。対空ミサイル!」
飛翔体が飛び出すのが見えた。
『こちら作戦司令部、プレデターが撃墜された。位置を報告出来ない』
『こちら雅人!IED攻撃を受…』
「雅人、雅人!クソ、どうすればいいんだ!」