奴を捕まえに
『独立作戦群内に強襲チーム設立の案が出ている』
ヌレークダムに到着してから丁度一週間、前方作戦基地アルファを設営していたところに群長の田中尚樹一等陸佐から通信がきた。
「で、そうなるとどこの班の誰が抜かれるんでしょうか」
『独立作戦群の各小隊の一班、二班にはその小隊の最精鋭が務めることになっている。おそらく、その班を必要なときに強襲チームに仕立て上げる感じになるだろう』
「そうですか…この海外派遣が終わるまでには承認されるんでしょうか」
『ほぼ承認されるようなものだ。すぐに君達のもとに連絡が来るだろう。ああそうだ!君の班員の片木君が使っているHK416NだがHK416A5になるようだ。他の班で使っている隊員の分も一緒に昨日の定期便で送り出した。HK416を使っている隊員全員に伝えてくれ』
「了解しました!」
ここで通信が切れた。
そこに雅人が入ってきた。
「で?群長はなんて?」
「独立作戦群内に強襲チームを設立するらしい。それとHK416を使っている隊員全員にHK416A5が新しく配備するみたいだ」
「ほう。とりあえず使っている隊員全員に伝達すればいいんだな?」
「そうだ。あと、強襲チームのことだが各小隊の一班、二班が必要に応じて編成するそうだ」
「ということは…第一小隊だけで12人、1個中隊で24人、1個大隊で72人で独戦群全体で360人か」
「1個小隊分の強襲チームが突入作戦を行おうとするとブラックホークがちょうど一機必要になる…まあ、やるしかない。なにかあったらお偉いさんがどうにかしてくれるだろう」
「そうだな…」
二日後、強襲チーム設立の承認がおりた。
「特殊作戦群強襲隊か…」
「俺達第一小隊一班は第一一強襲隊で第二小隊には第二一強襲隊、第二大隊第二小隊には第二二強襲隊とつくのか…」
「…安直すぎ」
『諸君、我々はタジキスタンの首都、ドゥシャンベを制圧することとなった。方法は前回アフガンのカブールを制圧したときと同じだ。さらにイスラム連邦の指導者であるアル・カハードが潜伏中との確実な情報がある。一般隊員の皆は前回と同じく多国籍軍の後ろをついてまわることになるかもしれん。そして新しく開設された独立作戦群強襲隊の諸君らはアル・カハードを拘束することになっている。この戦闘に勝たなければタリバンとの闘いのように泥沼化すること間違いないであろう。以上!各自持ち場に移動しろ!』
「イスラム連邦指導者、アル・カハードはここのビルにいる。この情報はCIAからの確かな情報だ」
「CIAの情報か…あまり信じられないな」
「いてもいなくてもいずれ誰かに拘束される。第一一強襲隊いくぞ!」
急造されたヘリポートに移動する。第一輸送隊のUH-60Jが待機していた。
「すでに多国籍軍はドゥシャンベの郊外に集結している。強襲隊は俺達第一小隊の12人。米軍のDEVGRUとの合同作戦だ。あまり協調訓練はできなかったが、周りをみて、自ら行動しろ。行くぞ!」
「おう!」「よし!」「よっしゃ!」
「ちょっとあれね…」
「誰かが『装備点検!』といったら皆で『よし!』と返すのはどうだ?」
「いいね。それにしよう。装備点検!」
「よし!」
UH-60Jに乗り込む。そしてUH-60Jはゆっくりと空へ飛び立つ。
「今回は近接戦闘(CQB)だ。訓練を思い出せ。目出し帽は被ったか?」
敵勢力からの報復攻撃を避けるため、隊員達にはバラクラバの着用が義務づけられた。
「最後にもう一度おさらいだ。今作戦は『オペレーション・エターナルピース』だ。イスラム連邦指導者、アル・カハードを拘束する。第一一強襲隊とDEVGRUの半数は屋上からラペリング、窓から侵入する。第一二強襲隊はもう半数のDEVGRUと屋上の通路を使い、建物に侵入する。アル・カハードを拘束したら屋上にCH-47JAが着陸するからそれに乗り込め。いいな。」
『了解!』
『オールチーム、スタートザアタック!(全隊、攻撃を開始せよ)』
『始まったな…』
『そうね…』
スコープで味方の様子をみる。
「はやすぎるな。なにかが引っ掛かる…」
『どうかしたの?』
「味方の進攻がはやい。大した抵抗を受けていないようだ」
『そうね、なにかが引っ掛かるわね』
味方はほとんど抵抗を受けていない感じだった。
『まもなくだ。降下の準備をしてくれ。屋上にホバリングする』
『了解』
見た感じ屋上の広さはヘリが余裕で四機ほどホバリングできるほどあった。
『降下!降下!』
ロープを下に垂らす。ロープを掴み、ラペリングする。
『オールヒューマンイズタッチダウン!(全員が降下した)』
「ラジャー。オペレーション・エターナルピース、イッツショータイム!(了解した。オペレーション・エターナルピースを開始する!)」
屋上にある構造体にラペリング用のロープをつける。そして、壁にそって降りてゆく。
『二回目だけど、馴れないな』
そういえば"ゴールド"を捕まえる為に壁からラペリングをして突入していた。
『屋上より二層下の階に到着した。突入許可を』
「わかった。ラッパーイズスタンバイ(ラペリングチームはスタンバイ完了)」
『ラジャー、アタッカーイズスタンバイ。ウィーウィルスタートウィズユーズオーバーゼアー(了解、アタッカーは準備完了。そちらの合図で開始する)』
「オーケー。スリー、ツー、ワン。ゴー!」
ガシャン!
壁を蹴り、振り子のように窓に飛び込んで蹴破る。
『ムービング!ムービング!(移動する!)』
アタッカーは次々に部屋を制圧してゆく。
「遅れるな。雅人、涼香!」
「おう!」「ええ!」
雅人のSCAR-LにはM26MASS、涼香はM870を持っていた。
ハンドサインを二人に送る。
バン!バン!バン!ダコン!
蝶番、ドアノブをブリーチャー弾で破壊されたドアは比較的簡単に開くことができる。そして片木が扉を蹴り開け、後続の俺、宮崎と柊が突入する。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア」
「オールクリア!」
部屋の安全を確保した。
『ゴートゥーゴール!(目標に行け!)』
「ラジャー、行くぞ」
アル・カハードがいると思われている部屋の前に移動する。
「スローインスタンだ。いいな」
タクティカルベストにつけていた閃光弾を手に取り、ピンを抜く。ドアノブを捻り、ドアを開けた瞬間にスタングレネードを投げ込みすぐに閉める。
パン!
ドアを開け、抵抗すると思われる者を撃つ。
バンバン!
「クリア!」
「こんの!」
アル・カハードを力一杯殴る。
バキ!
いい音を出して吹き飛ぶ。
「こちら第一一強襲隊01、アル・カハードを拘束!繰り返す、アル・カハードを拘束!」
アル・カハードの両腕を後ろに回し、手首をタイラップで拘束する。
『こちら第一輸送隊のファミリーワンだ。間もなく屋上に到着する』
「了解、屋上に移動する」
アル・カハードをつれて屋上に移動する。
バババババ!
「来た来た、誰か誘導してくれ」
『わかった。俺に任せろ』
そう言うと雅人は両腕を大きく広げて誘導を始めた。
「航空関係は雅人に任せたほうがいいな」
「そうね」
CH-47JAが着陸した。強襲隊、DEVGRUとアル・カハードを乗せるとすぐに飛び立った。
『こちら司令部、第一一強襲隊01、聞こえるか?』
「こちら第一一強襲隊01、聞こえます」
『アル・カハード拘束、御苦労だった。それと、味方地上部隊はドゥシャンベのほとんどを制圧した。被害はほとんど無いそうだ』
「そうですか。これより強襲隊、DEVGRUは前方作戦基地アルファに帰還します」