第一話 「ムーンフルーツ」
「さて、最初の異世界は……」
世界に妾の体が再構築され、転移が完了する。
妾が立っていたのは寂れた寒村で、ぽつりぽつりと村人が存在していた。
これだけでは何もわからないので辺りを少し散歩してみることにする。
――道具屋。
――武器屋。
――防具屋。
そして入口の看板に『始まりの村』と書いてあった。
「ふむ、どうやらどこかゲームの世界に来たようじゃの」
妾は看板を見ながら確信を持って頷く。
世界多しといえど、道具屋と武器屋と防具屋がある始まりの村はゲームの世界だけじゃろう。
「ひとまずこのゲームの機能でも使ってみるとするか」
妾は神専用スキル神の眼で村人を観察する。
職業:村人
レベル:8
職業:村人
レベル:3
これは所謂この世界で使える最上位鑑定スキルの上位互換スキルじゃ。
この眼があればレベルと職業は疎か、心の声やら性癖やらが色々と丸見えとなる。
勿論先ほどのように見たいものだけを見ることも出来る。
「おお、そうじゃ」
ふと気になり、妾は自分で自分を鑑定してみることにする。
職業:神様
レベル:69
「……………」
なんじゃ、このレベル。
数字が妙にリアルでコメントしにくいぞ。
「―――レベルはまあよい。しかし、鑑定スキル持ちに神とバレるのは避けたいの、さてどうするか」
妾はメニューを開き、己が持つ膨大なスキル欄を眺める。
「おっ、コレじゃ。『擬態』スキル。これがあれば職業とレベルを好きに擬態することが出来る」
妾は自分に向かって手をかざし、己の情報を操作する。
瞬時に身なりが町娘へと変わる。
職業:町人
レベル:100
「まあ、こんなところでいいじゃろう」
神の眼で自分の身なりを再度確認すると、妾は街へ向かって歩き出した。
†
――城下町。
そこそこ大きな町へと到着する。
町娘の格好をしておるせいか、道中幾度と無く魔物と盗賊に襲われた。
その数、30回以上。
RPGのランダムエンカウント並にエンカウントしおる。
まあ、どれも指一本で片付いたが。
それにしてもこの世界の町娘というものは斯様に大変な環境で生き居るのじゃな。
妾は町娘の境遇が染み染みとわかった。
「さて、情報でも集めるかの」
妾は市場へと繰り出す。
城下町ということもあり、活気がある。
……なのじゃが。
「若い娘がおらぬの」
いくら見渡しても男ばかり。
偶に妙齢の女もおるが、基本男じゃ。
流石にこれではむさい。
そして妾が非常に浮いておる。
なんじゃ、ここはホモの町か?
薄気味悪さと、妙な視線を感じながら妾は先へ進んでいく。
「お嬢ちゃん、寄ってかないかい? 甘い果物がいっぱいあるぜ」
青果屋の男が人懐っこそうな顔で妾に話しかけてくる。
「あっ、ずりーぞ青果屋。―――お嬢さん、こっちの野菜を見ていかないかい? お肌がつるつるになるぜ」
「いやいや、こっちのほうがいいって」
その声を皮切りに周りの男達が妾へ詰めかけてくる。
どいつもこいつも
職業:商人
レベル:5~40
と言ったところじゃ。
近づいてくるせいで更にむさ苦しくなる。
「ええい、離れよ。興味があれば自ずと声をかけるわ」
妾は周りの男達を一喝する。
「それでそこの男、貴様に話がある」
妾は大人しくなった男たちの中から青果屋を指さす。
「そういうことだ、お前ら散りやがれ。商売の邪魔だ」
青果屋の男は勝ち誇ったように周りの男に怒鳴り散らす。
その間に妾は青果屋の男を鑑定する。
職業:商人
レベル:31
心の声『妙なしゃべり方だけど、きれいな子だ。とっておきの果物プレゼントして何とか俺の事気に入ってもらおう』
「……ホモではなかったか」
「え?」
「いや何でもない、気にするな」
思わず独り言が漏れてしまう。
長いこと神様やっていると自然と独り言が増えてかなわん。
「そ、それで聞きたいことってのは」
「何故この町には若い娘がおらん。何か理由でもあるのか?」
「あー、それはですね……」
男は口籠る。
妾はその間に再び神の眼で鑑定する。
心の声『城主が金に物を言わせて女を買い取るせいで、綺麗な娘は直ぐ攫われるから、なんて説明できないよな。でも言わなきゃこの子もその毒牙に……』
ファイアーフルーツ:程よい甘さと酸味があり、食べると胸が熱くなる。
ムーンフルーツ:酸味はなく、非常に高い糖度を誇り、口の中で蕩ける。
「なるほど」
妾は一人納得する。
「悪いことは言いません。買い物が済んだらお嬢ちゃんはボディーガードでも雇って、すぐこの町から離れたほうがいいですよ」
男は妾に顔を近づけると、耳打ちする。
もう全部わかったので無意味じゃが。
「ふむ、解った。ムーンフルーツとやらを十個くれ」
「は?」
「何度も言わせるな、ムーンフルーツを十個じゃ」
「は、はい」
男は狐につままれた顔でムーンフルーツを麻の袋に詰め込んでいく。
妾はその間に金貨を生成した。
神の力を使えば、貨幣を増やすなど造作も無いことよ。
「釣りはいらん」
「ま、まいどあり~」
妾はムーンフルーツを受け取ると金貨を払い、歩き始める。
行き先は勿論。
「城……もぐ……主……もぐ、のところじゃ。――――ごっくん」
妾は口の周りを果汁でベトベトにしながら城主の元へ向かった。
†
――城門前。
門番と思しき兵士が二人立っている。
妾は指についた果汁を舐めながら二人を鑑定する。
職業:奴隷兵士
レベル:60
職業:奴隷兵士
レベル:57
どちらも若い女でレベルが高い。
そしてなかなかに綺麗どころじゃ。
まあ、妾には色んな意味で劣るがの。
妾は門番など気にせず歩を進める。
「……あら、あなた新しく城主様に引き取られた娘?」
気安く小娘共が話しかけてくる。
「この城主に用がある、通してくれ」
「ごめんなさい、事前に通達がない方以外は通すなって言われているの」
言葉は優しいが、門番の女どもは油断なく武器を振れるように移動させている。
妾が妙な真似をすれば直ぐに攻撃する気じゃろう。
「ならば力ずくで通る」
「「ッ――!!」」
妾がそう言った瞬間、二人に緊張が走る。
見かけは小娘でもレベルはそこそこ。
そこらの奴と比べて戦闘経験は段違いじゃろう。
「――やっ!!」
「ハァーーッ!!」
合図もなく二人は完璧なコンビネーションで妾に迫る。
それを妾は――。
息を大きく吸い込み、吐き出した。
『神の息吹』
ぶっちゃけただ息を吹きかけただけの技じゃ。
それでも効果は絶大で門番の小娘共は城門もろとも吹き飛ばされた。
――戦闘終了。
『町娘(神)は0の経験値を手に入れた』
「妾に挑もうなど千年以上早いわ」
妾は気を失った小娘にそう言い捨てると場内を進んでいく。
派手に城門を壊したせいでぞろぞろと奴隷どもが出てくる。
「し、侵入者だ~~っ!!」
『神の息吹』
「ぎゃーーーっ!!」
「き、貴様、何者?」
『神の1F小足』
「痛ったっ!!!! す、脛はヤメて~~っ!!!」
「このやろー、先制攻撃だ」
『神の1F当身』
「え? バリア? なにそれ? 何か球体がこっちに……」
蜂の巣をつついたかのように次から次へと途切れること無く出てくるレベル60~70代の奴隷どもを片付けながら妾は先へ進む。
どいつもこいつも雑魚ばかりじゃが、一体どれだけ女を抱えておるんじゃ、ここの主は。
いい加減うんざりもするわ。
「頼も~」
妾は城内の最上部へ続く扉を破壊して、開ける。
「あっ」
「え?」
その先の光景に妾は固まる。
妾が見つけた城主(転生者Ⅰ)は今、マルチタップ並みに複数の女と合体中であった。
「…………………………何をしておる」
「何って、■■……」
「死ね」
妾は右腕に力を込める。
目の前のゴミを抹殺するために。
『神の破壊の右手』
妾が右腕を振るうと同時に城の最上部の一部が吹き飛んだ。
†
「あの~、レベル100の町娘さんが何をしにきたのでしょうか?」
妾と同じく鑑定スキルを使ったのであろう、城主が全裸で正座したまま声をかけてくる。
その横には同じく全裸のまま正座した女どもが3人ほどいる。
妾は神の眼でそやつらを鑑定する。
職業:城主(転生者Ⅰ)
レベル:90
心の声『なんでガードスキル効かなかったんだろ。リジェネも発動しないしどうなってんだこれ? ――――――でも、こうやって見下されるのもなんかいいかも』
職業:奴隷(元姫)
レベル:84
心の声『随分と小さい方ですわね。何処にあんな力があったのでしょうか。やはりもっとお肉を食べるべきでしょうか。あぁでもまた胸が……』
職業:奴隷(元貴族)
レベル:83
心の声『貴族も楽じゃなかったけど、奴隷も楽じゃないわね。毎日毎日■■ばかり、私の将来どうなるのかしら。はぁ、毎日自堕落に暮らしたい』
職業:奴隷(元騎士)
レベル:87
心の声『私ばかりか主殿までこのような屈辱的な格好。何たる恥辱。私は主殿になんと詫びればいいのだ。しかし、少し興奮する自分がいるのもまた事実』
――ダメだこやつら。
特に元姫の方は重罪じゃ。
絶食させて脂肪吸引の刑にするべきやもしれん。
「たわけ、本当に分からぬか?」
「えっとはい、すいません」
「この顔、この声、この姿を見ても分からんか?」
妾は擬態スキルを解き、己の体と服装を神へと戻す。
「なになに、職業神様……レベル6……」
『神の目潰し』
「ぎゃーっ!! 眼がっ、眼がっ!!!」
城主は目を押さえ、その辺をのたうち回る。
――全裸で。
ナニとはいわんがまるでメトロノームのようじゃ。
「そうじゃ、妾があの時お前を転生させた神じゃ」
「……………(スルーした)」
「何も善行を積めとはまではいわんが、奴隷達でハーレムを築いて流石にやり過ぎじゃろ。お主が金に物を言わせて奴隷を買うせいで町はすっかり男しか出歩けんようになっておるではないか」
「す、すいません」
「罰としてここの奴隷全て開放及び、妾が与えた能力と財産すべて没収じゃ」
「え? ちょっと待って下さいよ。それはあんまりじゃないですか。財産に関しては俺がコツコツと集めたものだし」
「コツコツ? 獲得金額500%アップ及び売値50%ダウンのスキルを使っておいて何をほざく。何ならレベルを1にしてもいいんじゃぞ」
「………さっきの条件でいいのでそれは勘弁してください」
城主は涙を流しながら頭を垂れる。
妾は手を男に翳すと、与えた能力と所持金を回収する。
「あの、私達はどうすれば……」
裸の奴隷達がこわごわ尋ねてくる。
妾がとって食うとでも思っているのだろうか。
――パチン。
妾が指を鳴らすと女達に衣服が装備される。
「まあ、奴隷という職業からは皆開放じゃが、ここに残りたいというのであれば残っても良い。そこは自由じゃ、好きにするが良い」
妾は女達にも手を翳し、職業を奴隷となる前の職業に改竄する。
これで大まかには良いじゃろう。
「レベルだけは経験値獲得1000%アップのスキルで得た偽物じゃが、それでもこれから主がハーレムを築けるというのであれば妾からはもう何も言わん。好きに生きるが良い」
妾はそう言い残すと城を出る。
後ろには城主に抱きつく女達が見えた。
妾は式を展開すると次の世界へ飛んだ。