不愉快な目覚め
ドグラマグラァ!
その瞬間、まだとろんとしたミゲルの目の前を尋常じゃない速さで何かが過ぎ去った。それは壁を突き破り、城壁を打ち砕き、校舎の外へと消えていった。ついさっきまで健気に扉の役割を果たしていたモノだった。
今朝も危うく死ぬところだった。ミゲルは頭を抱えた。
「なあ、アンリ。そのドア、新品だったんだがな……」
「そんなこと言ったってミゲル君、もぉ試験始まっちゃってるよぉ。」
「百パーセント。」
「?」
「俺が試験に受かる確率だよ。出す力は十パーセントだけどね。だから俺はもう少し寝てていいの。それじゃおやすみー。」
「またミゲル君の悪い癖だよぉ。」
と、アンリが丸い目を吊り上げた。
「ホントはすごいのに、何で頑張らないの?みんながミゲル君のこと、何て呼んでるか知ってる?確か……唐変木、こんこんちき、布団の領主、あと……あ、そうだ!士官学校のおちこぼれ!」
おい、今のはちょっと傷ついたぞ。ミゲルはわざとらしく肩をすくめた。
「俺のモットーは省エネなんだ。エコロジストと呼んでくれ。」
「そんなこと言ってると、またマチルダ先生に叱られちゃうよぉ?ただでさえ反省室の常連さんなんだから注意しなきゃ!」
「いいんだよ、マチルダなんて。大体、俺はあいつのことが大っ嫌いなんだ。あのババア、『君才能あるね』なんて言っていつもいいようにコキ使いやがる。迷惑以外の何物でもないね。」
「ほぉう。君のことをコキ使うババアか。そんなやつがいるのか。けしからんなぁ?して、そのババアとは誰の事か、先生に教えてくれないか、ミゲル?」
その声に思わず戦慄が走る。おいおい、いるなんて聞いてないぞ。まさか、アンリが連れてきたのか。そう思って諌めるようにアンリの方に目くばせすると、彼女はどういうわけか、頬を赤らめた。おしまいだ。
「さぁて、ミゲル君、試験の時間だ。会場は反省室。時間はこれからたっぷりあるぞ。」
ここまでモテるなんて計算外だ。早くも自分で設定した、一日で消費して良い体力の上限値に達しそうだった俺は、アンリに助けを仰ごうと彼女を見るなり、口だけでた・す・け・て、と繰り返した。すると彼女ははっと何かに気付いたような表情をして、体全体で大きくハートマークを作ってきた。
一体どう読み取ったんだ。俺が読唇術検定の試験官だったら受験資格すら出さないね。そんな悪態を脳内でついてはみたが、アンリの体が小さく遠ざかっていくのを俺は一向に止められなかった。
先生、頼むから耳は引っ張らないでください。痛いです。